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「到底受け入れられません」赤信号で追突された30代男性→過失割合は0:100なのに…直面した"厳しい現実”

  • 2026.9.29
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「相手の保険会社の対応に納得できません。間に入って交渉してください」

契約者のAさん(30代・男性)から電話が入ったのは、事故からしばらく経った頃でした。

事故状況は赤信号で停止していたところに、後ろから追突されたもの。Aさんに過失はありません。自分に落ち度のない事故なら、あとは相手の保険会社に任せておけばいい。もし相手の対応に納得できなければ、自分の保険会社に間に入ってもらえばいい。

そう考える人もいるのではないでしょうか。しかし私は、Aさんのこの依頼を断らなければなりませんでした。そしてこの電話は、Aさん自身が半年前にした“ある選択”へとつながっていきます。

今回は、損害保険会社で事故対応を担当していた私が、実際に相談を受けた交通事故のお話です。

赤信号で止まっていただけなのに

事故は、赤信号で停止していたAさんの車に、後続のBさん(20代・男性)の車が追突したものでした。過失割合は0:100(Aさん:Bさん)。いわゆる、もらい事故です。

事故のすぐ後に、AさんにBさんの保険会社から全面賠償の申し出の連絡があったそうです。

私はAさんに、このままBさんの保険会社から賠償を受ける流れになると説明。あわせて、私が相談担当者としてサポートすることを案内しました。Aさんも了承し、あとは問題なく手続きが進んでいく。そのはずでした。

Aさんが受け入れられなかった2つの提示

Aさんが納得できないとして挙げたのは、次の2つです。

1つは、車の賠償額。Aさんの車は全損(修理費が車の時価額を上回る状態)と判断され、Bさんの保険会社から時価額での賠償が提示されていました。提示された時価額は、修理費用のおよそ3分の1だったそうです。

「あの金額では、同じような車は買えませんよ」

もう1つは、ケガの治療についてです。

「まだ痛みがあるのに、通院はもう終わりにしてほしいと連絡が来たんです」

Aさんは「どちらも、到底受け入れられません」と続けました。

保険会社が「間に入れない」理由

私は、事故の直後にお伝えしていたことを改めてAさんに説明しました。

契約者に過失がある事故では、保険会社が契約者に代わって相手と交渉します。これは、保険会社自身が相手に賠償金を支払う立場にあるためです。

一方、Aさんのように過失がゼロの事故では、Aさんの保険会社が相手に支払うものはありません。この状態で保険会社が交渉に入ると、弁護士ではない者が他人の法律上の交渉を引き受ける「非弁行為」にあたり、弁護士法で禁じられているのです。

私の説明を聞いたAさんは、すぐにこう返しました。

「なら、弁護士特約を使わせてください。仕事も忙しいので、とても自分で交渉し続けるなんてできませんよ」

弁護士費用特約(弁護士特約)は、事故の相手との交渉を弁護士に依頼したときの費用などを補償する特約です。保険会社が交渉に入れない場面でも、弁護士が代わりに交渉を担えます。

Aさんの悩みはここで解決するはずでした。

外していたのはAさん自身だった

私はAさんの契約を改めて確認しました。弁護士費用特約は、付いていませんでした。

「そんなはずは…」

電話の向こうで少し間が空きました。

「あ、そうか」

Aさんは半年前の契約更新の際、自分で保険を見直し、保険料を抑えるためにいくつかの特約を外していました。その中に、弁護士費用特約も含まれていたのです。

「自分が事故に遭うなんて。ましてや、弁護士に頼りたいと思うような状況が来るなんて想像していませんでした」

弁護士費用特約は、家族の契約に付いていれば使えるケースもあります。Aさんは未婚のため、別居していても親の契約が対象になった可能性はありました。しかし実家の両親は少し前に車を手放しており、頼れる契約はなかったのです。

一人で続けた交渉の結末

私は、弁護士事務所や日弁連交通事故相談センターであれば、時間に限りはあるものの無料で相談を受けられることを伝えました。

Aさんは無料相談を利用し、私にも相談を重ねながら、忙しい中で自分で交渉を続けることになりました。相手は保険会社、いわば交渉のプロです。その相手に、Aさんは自分で主張していかなければなりませんでした。

争点の一つだった時価額は、Aさんのケースでは、同じ車種・年式・走行距離の車が中古車市場でいくらで取引されているかをもとに算定されていました。提示された額を覆すには、それを上回る根拠を示さなければなりません。

Aさんはインターネットで中古車を検索。自身の主張を裏付ける資料としてまとめて提出しました。

「条件の近い車を探しても、なかなかぴったりのものが見つからないんです」

提出した資料は、いずれも走行距離や年式などの違いから、事故車と同等の価値があるとは認められませんでした。最終的には、時価額は提示どおりのまま、通院期間を1か月程度延ばす形で解決しています。

「本当に大変でした」

Aさんは、言葉少なにそう漏らしました。

特約は「使う場面」を想像して選ぶ

弁護士費用特約が力を発揮するのは、自分が被害者になったときです。

私が対応してきた中でも、もらい事故で相手の対応に納得できないと主張する人は少なくありませんでした。そもそも自分は悪くないのだから、無理もありません。

だからこそ契約を見直す際に、弁護士費用特約を外すかどうかは、使う場面を具体的に思い浮かべたうえで判断したいところです。

また、自分の契約に付いていなくても、同居の家族や別居している親(自身が未婚の場合)の契約に付いていれば使えることがあります。事故に遭ったら、実家を含めて家族の保険証券も確認してみるとよいでしょう。

それも難しいときは、弁護士会や自治体の無料法律相談、日弁連交通事故相談センターなど、費用をかけずに相談できる窓口があります。

自分の保険会社に連絡すれば、直接の交渉は無理でも、アドバイスをもらうことはできます。すべてを一人で抱え込む必要はありません。

削った補償の重さは事故が起きてから分かる

保険料を抑えるための見直しは、それ自体は理にかなった判断です。

ただ、見直しで浮いた保険料はすぐに目に見える一方、外した補償の価値は、それが必要になる日まで見えづらいものです。

もしものときに備えるのが保険です。保険料の見直しの際には、何を外したのかしっかり把握しておくことも、その備えの一つといえるかもしれません。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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