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トゥレット症候群って知ってる?チック症との違いと家庭での対応を精神科医が解説

  • 2026.8.19

突然声が出たり体が勝手に動いたりするトゥレット症候群。よく聞く「チック症」とは何が違い、どう付き合っていけばよいのでしょうか?症状の特徴や周囲の関わり方について、大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック院長飯島慶郎先生に伺いました。

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多くは目のまばたきから始まる

「うちの子、目をパチパチさせるのが止まらないんです」
子どもの心を診ていると、この相談をよく受けます。続けてこう聞かれます。「叱ってもやめません。わざとやっているのでしょうか。私の育て方が悪かったのでしょうか」と。
先にお伝えします。わざとではありません。育て方のせいでもありません。
チックは、本人の意思だけで自由に止められるものではありません。ただし、短い時間なら抑えられることもあるため、まわりの目には「やめようと思えばやめられるはずだ」と映ってしまいます。子どもは、この誤解にいちばん苦しみます。
もうひとつ、よくいただく質問があります。「トゥレット症候群と言われました。ふつうのチックとは違うのでしょうか」。
先に結論をお伝えします。違いはあります。ただし、ご家族が心配しているような違いではありません。診断名だけで、治療法や今後の見通しが決まるわけではありません。ではどこが違うのか。その点こそ、この記事でいちばんお伝えしたいことです。後半で詳しくお話しします。

チックとは何か

チックとは、体が急にピクッと動いてしまったり、声や音が出てしまったりすることをいいます。まばたき、首を振る、肩をすくめる、顔をしかめる。咳ばらい、鼻をすする。こうしたものが繰り返しあらわれます。
体の動きとして出るものを運動チック、声や音として出るものを音声チックと呼びます。現れる場所や種類は、時期によって変わっていきます。
数週間から数か月の周期で強くなったり弱くなったりするのも特徴です。「落ち着いたと思ったら、今度は別の動きが出てきた」。ご家族はそう感じて一喜一憂しますが、これはチックによく見られる自然な経過です。波があるものだと知っているだけで、見守る側の気持ちはずいぶん楽になります。

チックの前に訪れる「むずむず感」

チックには、まわりから見えるものと、本人にしか感じられないものがあります。10歳前後になると、多くの子がチックの前に「前ぶれの感覚」を自覚するようになります。「むずむずする」「詰まった感じがする」「そこばかりが気になってくる」といった感覚です。この感覚に押し出されるようにチックが出て、出たあとは本人も少しすっきりします。
ここが大事なところです。我慢させると、この前ぶれの感覚がたまっていきます。そのため、学校で必死にこらえた子が、帰宅した途端に激しくチックを出すことがあります。抑え込んでも解決にはなりません。
家庭での声かけも、ここを踏まえると変わってきます。「気にしないで」でも「我慢しなさい」でもなく、「その感じがあるんだね」と受けとめる。それくらいの距離感がちょうどよいと感じています。

チックの種類

ここでいったん、チックそのものの形に戻ります。チックは、単純なものと複雑なものに分けて考えると理解しやすくなります。
単純な運動チックでは、顔や首、肩などが素早く動きます。小さい子のチックは、たいていこの動きから始まります。
複雑な運動チックは、いくつかの動きがつながって、何かをしようとしているように見えるものです。飛び跳ねる、体をひねる、物にさわる、自分の体を叩く。「変な癖がついた」と誤解されやすいのがこの種類です。
単純な音声チックでは、先に挙げた咳ばらいや鼻すすりのほか、「ん」「あ」といった短い音が出ます。複雑な音声チックになると、意味のある言葉が出ます。人が言った言葉をそのまま繰り返す、自分の言葉を繰り返す、汚い言葉を口にしてしまう、といった形です。

トゥレット症候群とは何か

チック症は、まず続いた期間で呼び名が分かれます。始まってから1年たっていないものは暫定的チック症、1年以上続いているものはまとめて持続性チック症と呼ばれます。
そして、その持続性チック症のうち運動チックが複数あり、音声チックも1つ以上あるもの(同時に出ていなくてもよい)が、トゥレット症候群です。
症状の重さや生活への支障、特定の症状があるかどうかは、診断名を決める必須の条件ではありません。
トゥレット症候群というと、先に挙げた汚い言葉が出る症状を思い浮かべる方もいます。そう思われるのは、テレビやインターネットで大きく取り上げられるためです。実際にこの症状が出るのは、トゥレット症候群のある人の10人に1人ほどです。
そして、ぜひ知っておいていただきたいのは、トゥレット症候群はチック症とは別の病気ではないということです。つまりチック症という連続した状態のうち、運動チックと音声チックの両方がみられるタイプのことです。

昔から知られていたチックのなかでも、症状の種類が多く目立つタイプに先に名前がつきました。それがトゥレット症候群です。症状の種類が少なく目立たないタイプは、後の時代になって単に「チック症」と呼ばれるようになりました。
実際、最近の研究でも、この二つは明確に分かれるのではなく、連続した状態であることが示されています。1,000人以上を対象に両者を比べた報告では、主な違いとして、チックの重さと、重なっている困りごとの多さが挙げられました。大規模な遺伝子研究でも、チック症に明確な境目は見つかっていません。研究者からは、両者をまとめて「チックスペクトラム症」と呼ぼうという提案も出ています。

精神の病気とは違うのか

よくいただく質問です。
世界保健機関(WHO)の国際的な疾病分類(ICD-11)では、トゥレット症候群は「神経系の病気」に分類されています。アメリカの診断基準でも、発達の過程であらわれる神経発達症のうち、体の動きに関わるものに分類されています。
心が弱いからでも、しつけが悪かったからでもありません。脳のなかで動きを調整する部分や、そこにつながる神経回路が関わっていると考えられています。遺伝も大きく関係しており、ご家族にもチックがあったり、こだわりが強かったり、落ち着きにくかったりすることがあります。
緊張や疲れで強くなることはあります。ただしそれは悪化の引き金であって、原因ではありません。ここを混同すると、「ストレスをなくせば治るはず」と考えたご家族が原因探しに疲れ果ててしまいます。これがいちばん避けたいことです。

どのくらいの子どもに見られるのか

チックは、子どもの5人から10人に1人にあらわれるといわれています。決して珍しいものではありません。
世界の研究をまとめた報告では、トゥレット症候群にあたる人の割合は全体で0.5パーセントほど、子どもと青年に限ると0.7パーセントほどです。子どもでは、およそ140人に1人にあたります。男の子に多く、女の子の3倍から4倍とされています。

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チック以外に重なりやすい困りごと

ここは、ぜひ知っておいていただきたいところです。
チックのあるお子さん、とくにトゥレット症候群のお子さんでは、チック以外の特性が重なることがよくあります。よく重なる特性は2つあります。「注意の集中が続きにくい・じっとしていられない」という特性と、「こだわりが強くて切り替えにくい」という特性です。
デンマークでトゥレット症候群の子どもを6年間追跡した研究では、思春期を過ぎるころには多くの子でチックが軽くなった一方、6割を超える子にチック以外の症状もみられました。
そして見落とされがちなのですが、日々の暮らしのしづらさは、チックそのものよりも、チック以外の特性によることが少なくありません。授業についていけない、忘れ物が多い、友達とぶつかる、気持ちの切り替えに時間がかかる。ご家族が何に困っているのかをうかがうと、チックの話は出てこないことすらあります。
さらに、こうした困りごとには、打てる手がたくさんあります。チックには波があり、本人の意思どおりにはなりません。チックそのものへの対応に加えて、重なっている困りごとにも手を打つことで、生活しやすくなります。

家庭でできること

ここからは、日常生活で取り組めることをお伝えします。
指摘しない。これがいちばん大切です。「また出てるよ」「気をつけて」と言われると、そこが気になって、かえって出やすくなります。悪気のない声かけでも、繰り返されれば子どもの負担になります。
気づかないふりをするのではなく、気にしていないことを態度で示す。子どもは、この違いを感じ取ります。チックが出ている最中も、会話や作業を普通に続ける。それだけで「これは騒ぐことではない」という空気が生まれます。

疲れや緊張をためこませない。チックが強くなる時期には、予定を詰めない、睡眠をしっかりとる、宿題の量を相談する。こうした工夫が効きます。行事の前に強くなるのは自然なことなので、その前提で予定を組んでおくと親子とも楽になります。
「出してもいい場所」を家の中に作る。学校でこらえている子ほど、家に帰って緊張が解けたときにチックが出やすくなります。帰宅後しばらくは、チックを気にせず自由に過ごせるようにする。それだけで、子どもは息をつけます。
記録を残す。いつ頃、どんな動きが出たか。いつ強くなったか。簡単なメモで構いません。波があるからこそ、受診したときに医師が経過をつかみやすくなります。写真や動画を撮っておくのも役立ちますが、本人がいやがるなら無理には撮らないでください。

本人にどう説明するか

お子さん本人が「自分の体が変だ」と感じて不安になっていることがあります。本人は、まわりにはわからないような体の変化にも気づいています。
説明の仕方は、年齢によって変えてかまいません。小さいお子さんなら「体がときどき勝手に動いちゃうことがあるんだよ。○○ちゃんのせいじゃないよ」で足ります。学童期以降なら「脳から体に行く合図が、ときどき勝手に出ることがある。がまんしてもたまっちゃうから、がまんしなくていいよ」といった説明が伝わりやすいでしょう。
結局、伝えるべきことはひとつです。あなたのせいではない。これが本人に届いているかどうかで、その後、本人が自信を持てるかどうかも大きく変わります。

家族みんなで理解をそろえる

家族みんなが同じように理解しておくことも、とても大切です。
きょうだいや祖父母が「やめなさい」と言ってしまうと、子どもは家の中にも安心できる場所がなくなってしまいます。「本人のせいや育て方のせいではなく、脳の働きに関係するもので、意思だけでは自由に止められない」と、家族みんなで理解しておきましょう。家族が同じ理解で接するだけでも、大きな効果があります。
きょうだいには、責める口調を避けながら、まねをしないでほしいと伝えておくとよいでしょう。まねをされると本人は深く傷つきますが、幼いきょうだいには悪気がないことがほとんどです。

学校に伝えておきたいこと

学校では、担任の先生に事情を伝えておくと本人の負担が減ります。伝える内容は多くありません。

意思では止められないこと
注意すると悪化すること
テストや発表の場面で強く出ることがあること

この3点で足ります。加えて、音声チックが出るときの席の位置や、試験中の周囲への伝え方を相談しておくと、本人が安心して臨めます。教室を一時的に離れてもよいと決めておくだけで、本人が追い詰められずにすみます。
チック症・トゥレット症候群は、法律上は発達障害に含まれます。学校に配慮を求める根拠になるため、必要に応じて相談してみてください。
からかわれているようなら、早めに学校に伝えてください。チックそのものより、からかわれた経験のほうが心に長く残ることがあります。

専門家に相談する目安

日常の工夫だけでは対応しきれないこともあります。次のような様子があるときは、医療機関に相談してみてください。

症状が1年以上続いている
本人が困っている、つらいと言っている
学校生活や友達づきあいに支障が出ている
動きによって体が痛む、けがをする
悪化してきている
落ち着きのなさ、強いこだわり、不安の強さなど、チック以外の困りごとが重なっている

相談先は、小児神経科、児童精神科、小児科の発達外来などです。診断は問診と経過の観察が中心で、多くの場合、特別な検査は必要ありません。
チックのことで受診したときには、ぜひチック以外の困りごとについても話してみてください。ふだんの様子をよく見ているご家族の話が、いちばん確かです。
軽いチックが数か月で落ち着いていく場合は、無理に受診しなくても構いません。専門家に相談すれば、「このまま様子を見てよいのか、手を打ったほうがよいのか」を見極めてもらえます。

治療の第一歩は正しく知り環境を整えること

国内外のガイドラインでは、まず病気について正しく知り、環境を整えるよう勧めています。ここまでお伝えしてきたことが、そのまま治療の第一歩です。
叱らない。指摘しない。家族で説明をそろえる。学校と共有する。地味に見えるかもしれませんが、どれも医療の現場で勧められている方法です。

行動療法という選択肢

日常の工夫だけでは足りないときは、次に行動療法を考えます。近年は、各国の指針も、まず試す治療として行動療法を挙げています。
行うことは、大きく2つあります。
ひとつは、チックが出る前に現れる感覚に気づく練習です。いつ、体のどこに、どのような感覚が現れるのか。まずは、それを自分で観察できるようになるところから始めます。

もうひとつは、チックの代わりになる動きを決めて練習することです。たとえば首を振るチックがある子なら、むずむずが来たときに首の筋肉をそっと固める、といった別の動きをあらかじめ決めておきます。がまんするのではなく、置き換える。ここが大きな違いです。
9歳から17歳の子ども126人を対象にした比較試験があります。この方法に10週間取り組んだグループでは、症状がはっきりと改善した子が半数を超えました。一方、比較のために別の支援を受けたグループでは2割弱にとどまり、大きな差が出ました。
ただし、日本では受けられる場所がまだ限られています。関心があれば、受診したときに「行動療法を受けられるところはありますか」と尋ねてみてください。当事者団体が相談を受け付けている場合もあります。

薬物療法と日本の事情

生活の支障が大きいときには、薬を使うことがあります。ここは正確にお伝えしておきます。
日本には、チック症・トゥレット症候群に対して効能が承認された薬がありません。 日本小児心身医学会も「本邦ではチック症に対して適応がある薬剤は残念ながらありません」と明記しています。
つまり、日本でチックに薬物療法を行う場合、本来は別の病気に承認された薬を、医師の判断で処方することになります。 これを適応外使用といいます。海外にはチックに対して承認されている薬もあり、承認の状況は日本と異なります。

ここで、少しややこしい点があります。
適応外使用では、「保険で認められるかどうか」という問題が出てきます。アリピプラゾールについては、2022年2月、トゥレット症候群に使った場合も保険の審査で認めるとの取り扱いが示されました(社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供事例)。承認効能が追加されたわけではありませんが、実際の診療では使いやすくなっています。
日本の専門家は、まずアリピプラゾールを、次の選択肢としてリスペリドンをすすめています。このほか、もともと高血圧の治療に使われていた薬や、注意を集中しやすくする薬も、症状やほかの困りごとに合わせて使い分けます。

漢方薬から始める選択肢

日本ならではの選択肢として、漢方薬があります。よく使われるのは抑肝散です。「肝の高ぶりを抑える」という意味の名前がついた処方で、古くから子どもの神経の高ぶりに用いられてきました。
私自身、まず抑肝散から始めることがよくあります。眠気や体重増加といった負担が出にくく、ご家族が受け入れやすいからです。そして実際に、これだけでチックが目立たなくなるお子さんもいるからです。
ただし、限界もお伝えしておきます。漢方薬は、チックへの効果を大規模に調べた研究が西洋薬ほど多くありません。 効かないときは、漢方薬にこだわらず、別の治療も検討します。

診断名がつくことの意味

「トゥレット症候群」と告げられて、不安になるご家族は少なくありません。重い病気の宣告を受けたように感じられるからです。
冒頭で「違いはあるけれど、それはご家族が心配されている点ではない」とお伝えしました。その違いが何なのか。ここからがその話です。
トゥレット症候群と呼ぶか、ほかのチック症と呼ぶかだけで、治療法や今後の見通しが決まるわけではありません。 2024年に日本で出た小児チック症の診療ガイドラインでも、名前で区切らず、チック症全体を扱っています。

では、診断名は何のためにあるのか。支援を受けられるようにするためです。
日本では、精神障害者保健福祉手帳の判定基準に、重い多発性のチックを伴う「トゥレット症候群」という病名が挙げられています。学校で配慮を求めるときや、将来的に福祉の制度を利用するとき、あるいは新しい治療法の対象になるとき。そうした場面では、診断名が手続きの助けになります。
そしてもうひとつ、診断名があれば、「わざとやっているのではない」と、まわりに理解してもらいやすくなります。学校の先生に、祖父母に、きょうだいに、そして本人自身に説明するときも同じです。名前がないまま「くせ」と呼ばれ続けた子は、それだけつらい思いを重ねることになります。
診断名は、病気の重さを宣告するものではなく、必要な支援を受けやすくするためのものです。そう受け取っていただければと思います。

これからの見通し

多くのお子さんでは、チックは10歳から12歳ごろにいちばん強くなり、思春期のあいだに軽くなっていきます。
ただ、長く追いかけた研究を見ると、チックが完全に消えるとは限りません。本人は「もう治った」と思っていても、まわりから見ると動きが残っていることがあります。大人になっても軽い支障が残る方はいますが、進学や就職、結婚を経験し、生活に満足している人も多くいます。
つまり、消えるというより、あっても気にならない状態に落ち着いていく。これがいちばん実態に近い言い方です。
だからこそ、ゼロにするのではなく、その子が困らずにすむところを目指すのがよいと考えています。ゼロを求めると家族は消耗してしまいます。

相談できるところ

診療機関のほかにも、当事者やご家族の団体があります。NPO法人日本トゥレット協会は、家族の交流会や講演会を開いたり、学校や教育委員会へ講師を派遣したりしています。同じ経験をしたご家族とのつながりも、医療とは違った支えになります。
チックは、子どもの5人から10人に1人が通る道です。目のパチパチに気づいても、まずは原因を探したり、無理にやめさせたりしなくて構いません。家族で「これは叱ることではない」と受け止めるところから始めてください。

※本記事の執筆にあたり、論文検索および構成の整理に生成AIを活用していますが、医療情報としての正確性は専門医が確認・監修しています。

執筆者

プロフィールイメージ
飯島慶郎
飯島慶郎

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック院長
精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士

島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。
多くの不登校児童生徒を医療の面から支えている。島根大学医学部精神科教室にも所属。
著書:『不登校は病気? ~医師の診断が子供と家族を救う~』(みらいパブリッシング、2025年)他

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック

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