1. トップ
  2. 暮らし
  3. 子どもの自傷行為はなぜ起こる?背景と年代別の対策を精神科医が解説

子どもの自傷行為はなぜ起こる?背景と年代別の対策を精神科医が解説

  • 2026.8.15

自傷行為を繰り返す子ども。その心理は何からきているの?大人として自傷行為をする子ども達に関わっていくとき、どういう心構えで接するのがいい?そんな悩みについて、今回は大人の漢方・心療内科出雲いいじまクリニック院長飯島慶郎先生からお話をお伺いしました。

ママ広場

子どもの腕に、ためらいながらつけた傷を見つけてしまう。その瞬間、多くの親御さんは頭が真っ白になります。「どうして」「私の育て方が悪かったのだろうか」「今すぐやめさせなければ」。次々にわいてくる問いと不安。まずお伝えしたいのは、慌てて問い詰めたり叱ったりする前に、一呼吸だけ、置いてほしいということです。
私は不登校専門のクリニックで、自分を傷つけてしまう子どもたちを日々診ています。その経験と、国内外の研究からお話しできることを、順を追ってお伝えします。読み終えたとき、少しでも肩の力が抜けて、明日からのお子さんへの接し方が変わっていたら嬉しく思います。

「かまってほしいから」ではありません

自傷行為とは、死のうとする意図なしに、わざと自分の体を傷つけることをいいます。リストカットがよく知られていますが、体を叩く、爪で強く引っかくなども含まれます。医学では「非自殺性自傷」と呼びますが、本稿では「自傷」と呼びます。
なお、市販薬などを一度に大量に飲む過量服薬(オーバードーズ)は、医学の定義上は自傷とは別に扱われます。ただ、つらさをしのぐために行われるという点では地続きで、思春期では決してまれではありません。傷が残らないぶん気づかれにくいので、頭の片隅に置いておいていただければと思います。

多くの親御さんが「気を引きたいだけでは」「大げさにしているのでは」と考えます。けれども診察室で子どもたちの話を聞くと、まるで違う姿が見えてきます。「切ると、ざわざわした気持ちがすっと静まる」「頭のなかがぐちゃぐちゃで、傷つけるとやっと楽になる」。つらさから逃れる方法が他に見つからず、苦しさを鎮めるための、いわば自己流の応急処置として自傷という方法にゆきついている子がとても多いのです[1]。

これは気のせいや思い込みではありません。実際、自傷をする人の多くは、苦しい感情を鎮める目的で行っていることが研究で示されています[2]。自傷を繰り返す成人女性を対象にした小さな研究では、自傷の直後に唾液中のβ(ベータ)エンドルフィン、体が自分でつくる、モルヒネに似た働きをする物質が増えていたという予備的な報告もあります[3]。それでも、一度この方法を覚えるとやめにくくなることは、支援の現場で繰り返し指摘されてきました[1]。

ただし、その効果がとても短いことも、わかっています。自傷を繰り返す思春期の女子を一時間ごとに調べた研究では、自傷のあと一時間の時点でかえって気分が沈み、母親を近くに感じる気持ちまで薄れていました。以前から報告されてきた「楽になる」効果は、あったとしてもごく短い時間にとどまると考えられています[4]。痛み止めがすぐ切れて、また手が伸びる。そのくり返しのなかで、奥にあるつらさは手つかずのまま、傷だけが増えていきます。
こうしたしくみが分かると、大人の関わり方も自然に変わってきます。自傷を打ち明けた子に「そんなことしてはだめ」と頭ごなしに迫ると、その子は「この苦しさは誰にもわかってもらえない」とかえって孤立します。自傷は、本人にとっては数少ない「効いてしまう」対処法です。それだけに、代わりのはけ口を用意しないまま「やめなさい」と禁じるだけでは、その数少ない支えを取り上げてしまうことになりかねません。

背景に隠れているもの

「うちの子にかぎって、なぜ」。そう思われるのは自然なことです。けれども自傷は、たった一つの原因から起きるものではありません。いくつものつらさが重なった末に、いちばん目に見えるかたちで表に出てくる、それが自傷です。
いじめ、つらい体験の積み重なり、心や体の不調・・そうしたものが自傷の背景にあることは、多くの研究で示されています[1][5]。家庭のなかで対立が多いことも、これに加わります[10]。「消えたいくらいつらい」という気持ちを言葉にできないとき、体を傷つけることがその代わりになってしまうのです。

見落とされやすいのは、生まれ持った特性との関わりです。発達の特性、たとえば自閉スペクトラム症(ASD)のある子は、自傷のリスクが高いことが知られています。子どもから大人までを対象にした31の研究をまとめたメタ解析では、ASDのある人が自分を傷つけるリスクは、ASDのない人のおよそ3倍と報告されています[6]。
これは「発達障害だから自傷する」という単純な話ではありません。感覚が過敏で、光や音がふつうの子より強い刺激になる。気持ちを言葉にするのが苦手で、うまく助けを求められない。感情の波を自分で鎮めにくい。そうした特性が重なった子が、自傷にたどりつくことがあります[7]。そこに、まわりから理解されず叱られたり浮いたりする経験が積み重なれば、なおさらです。背景に特性があるかもしれないと気づくことは、その子を責めるためではなく、その子に合った支え方を見つける第一歩になります。

年代ごとの傾向を知っておく

もう一つ知っておくと役に立つのが、年齢による違いです。
海外で十代を追跡した調査では、自傷は中学生にあたる年代にはすでに広く見られます。女の子では15歳ごろにいちばん多くなり、その後はゆるやかに減っていきます[8]。日本の中高生を対象にした国内の調査では、およそ10人に1人が、刃物で自分の体を切った経験があると答えています[9]。決して特別な子だけに起きることではありません。

一方で、もっと幼い年齢でも起こりうることは、あまり知られていません。9歳や10歳の子でも自分を傷つけることは稀ではなく、その背景には家庭内で対立が多いことや、親の目が届きにくい状況が関わっているという大規模な調査があります[10]。この調査でさらに重いのは、子ども自身が答えた自傷や「消えたい」という気持ちの多くを、養育者が知らなかった、あるいは把握していなかった、という結果です[10]。「まだ小さいから大丈夫」というより、「気づけていないだけかもしれない」と考えたほうが、実情に近いのかもしれません。

ただし、一つ区別しておきたいことがあります。ごく幼い子が頭を壁に打ちつける、自分の手を噛む、といった行動は、思春期のリストカットとは背景が異なります[7]。
言葉でうまく気持ちを伝えられない子が、不快さや助けを求める気持ちを体で表している場合が多く、対応も別に考える必要があります。同じ「自分を傷つける」でも、年齢や特性によって意味が違います。そこを見きわめるためにも、専門家に見てもらうことが役に立ちます。

ママ広場

家庭でできる三つのこと

我が子の自傷に気づいたとき、家庭で何ができるでしょうか。
まずお伝えしたいのは、自傷は気づいた時点で、それ自体が専門家に相談する対象だということです。そのうえで、相談と並行して家庭でも支えられることを、以下にまとめます。大切なのは、次の三つです。
まず、理由を問い詰めないようにしましょう。厚生労働省が家族向けに示している対応でも、自傷を責めないこと、「なぜ」「そんなことをして何になるのか」と問い詰めないことが、最初に挙げられています[11]。「どうしてこんなことを」と迫ると、子どもは責められたと感じて口を閉ざします。

かわりに、「最近、しんどいことがあったのかな」「無理してることはない?」と気持ちにそっと寄り添う言葉をかけてみてください。話してくれたら、良し悪しの判断も助言もいったん後回しにして、まず「話してくれてありがとう」と受け止めます[1]。そして「そばにいるよ」「一緒に治していこう」と伝えます[11]。それだけで、子どもは「一人ではない」と感じられます。

「厳しく叱れば止まるはず」と思って強く出ると、かえって逆効果になることが多いのです[1]。自傷のある11〜17歳とその家族を追った研究では、半数以上の家庭で、治療を受けているあいだも親から子どもへの批判的な言葉が減らないまま続いていました。そして、そうした言葉がむしろ強まっていった家庭では、その後も「死にたい」という気持ちが和らぎにくく、親自身の苦しさも増していた、そうした関連が報告されています[12]。裏を返せば、頭でわかっていても、そうした言葉を抑えるのはそれだけ難しい、ということでもあります。

つぎに、傷そのものを見たときの動揺を、まず自分の中で落ち着かせましょう。
驚いて泣いたり怒ったりすると、子どもは「親を苦しめてしまった」と自分をさらに責めます。手当てが必要なら淡々と手当てをし、感情的な追及は控えます。親が動揺しすぎないことが、その子の安心につながります。
そしてもうひとつ、自傷のかわりになる、気持ちを外に出す別のやり方を、いっしょに探していきましょう。体を動かす、音楽を聴く、冷たい水で顔を洗う、信頼できる人に話す。すぐに切りかえられるものではありませんが、選択肢を増やしていくことが、遠回りに見えて確かな支えになります。
感情を整える技術を身につける心理療法(弁証法的行動療法など)で自傷が減ることが、比較試験で報告されています[13]。治療の種類にかかわらず、感情を整える力がついた子ほど、症状の改善もはっきりしていました[14]。専門家と一緒なら、この「置きかえ」をより丁寧に進められます。

理由に、深入りしていいの?

先ほど「理由を問い詰めない」とお伝えしました。とはいえ、「原因を突きとめなければ」と焦る親御さんは多いものです。けれども、根掘り葉掘り問いただすのは逆効果になりがちです。詮索と関心は、違います。
問い詰められた子どもは、口を閉ざします。一方で、「あなたのことを気にかけている」という思いは、しつこく聞き出さなくても、日々の関わりのなかで伝わっていきます。子ども自身が話したくなったときに受け止められるよう、いつでも話せる空気を保っておく。答えを急がず、そばにいる・・・それが、親にできるいちばん確かな関わりだと思います。実際、親子のあいだで気持ちを打ち明けられる関係が乏しい家庭ほど、子どもの自傷が多いことは、以前から報告されています。とくに、家庭のなかに本音を話せる相手がいないことが、強く関わっていました[15]。

「友だちが傷つけている」と相談されたら

お子さんが「友だちが自分を傷つけているみたい」と相談してくることもあります。じつは、自傷をする子が誰かに打ち明けるとき、その相手は親や先生ではなく友だちであることが多いのです[16]。それだけ、子どもどうしの信頼は大きな支えになります。
そのときお子さんに伝えてあげたいのは、以下のようなことです。「やめなよ」と責めないで、まず話を聞いてあげてほしい。そして、自分ひとりで抱え込まず、信頼できる大人につないでほしい——と。
同時に、気にかけてあげてほしいのが、相談されたお子さん自身のほうです。友だちの深刻な秘密を預かった子は、「自分がなんとかしなければ」と気負い、大きな重荷を背負います。どうしていいかわからず、一人で抱えきれなくなることがあるという報告があります[17][18]。「あなたが全部背負わなくていいんだよ」「困ったら大人を頼っていい」と、親御さんが受け止める側にまわってあげてください。友だちを助けようとするその優しさがすり減ってしまわないよう、いっしょに守ってあげてほしいのです。

とくに急ぎたいのはこんなとき

繰り返しになりますが、自傷は気づいた時点で相談してよいものです。「もう少し様子を見よう」と待つ必要はありません。そのうえで、次のようなときはとくに急いでください。

○傷が深い、あるいは頻度が増えている
○「消えたい」「死にたい」という言葉が出る
○眠れない、食べられない、極端な体重の変化など、心身の不調をともなう
○親御さん自身が「もう話し合いにならない」「見ているのがつらい」と感じている

くり返される自傷は、今のつらさを教えてくれると同時に、これから支えが必要になることの前ぶれでもあります。14歳の時点で心の病気の診断がなかった子どもたちを17歳まで追った研究では、それまでにくり返し自傷していた子ほど、その後の数年でうつ病や摂食障害が新たにあらわれやすいという結果でした[19]。先ほど挙げた「食べられない」「極端な体重の変化」に目を配っていただきたいのは、こうした理由からです。だからこそ、早い段階で専門家とつながっておくことに意味があります。

相談先としては、まずスクールカウンセラーや学校の窓口が入りやすいでしょう。保護者だけで相談することもできます。医療が必要そうなときは、児童精神科や思春期外来をもっている心療内科・精神科へ。自傷の背景に、うつや発達の特性、つらい体験が隠れていることもあり、専門家による見立てが助けになります。早めに専門家とかかわりを持っておくほど、子どもは回復していきやすくなります。
自傷は、子どもが「生きのびるために」編み出した、不器用な対処です。少しずつ別のやり方に置きかえていくには時間がかかりますし、家庭だけで背負う必要もありません。親御さんが慌てず、いつでも受け止められるようにしておくこと。そして、必要なときに専門家の力を借りることが、回復に向かう確かな支えになります。

参考文献
[1]松本俊彦「自傷行為の理解と援助」精神神経学雑誌 2012;114(8):983-989.
[2]Taylor PJ, et al. A meta-analysis of the prevalence of different functions of non-suicidal self-injury. J Affect Disord. 2018;227:759-769.
[3]Störkel LM, et al. Salivary beta-endorphin in nonsuicidal self-injury: an ambulatory assessment study. Neuropsychopharmacology. 2021;46(7):1357-1363.
[4]Koenig J, et al. High-frequency ecological momentary assessment of emotional and interpersonal states preceding and following self-injury in female adolescents. Eur Child Adolesc Psychiatry. 2021;30(8):1299-1308.
[5]Wang YJ, et al. Risk factors for non-suicidal self-injury (NSSI) in adolescents: a meta-analysis. EClinicalMedicine. 2022;46:101350.
[6]Blanchard A, et al. Risk of Self-harm in Children and Adults With Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open. 2021;4(10):e2130272.
[7]Coll-Oltra JV, et al. Non-Suicidal Self-Injury in Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review of Associated Factors and Management Difficulties. J Clin Med. 2026;15(3):1254.
[8]Steinhoff A, et al. Self-injury from early adolescence to early adulthood: age-related course, recurrence, and services use in males and females from the community. Eur Child Adolesc Psychiatry. 2021;30(6):937-951.
[9]Matsumoto T, Imamura F, Chiba Y, Katsumata Y, Kitani M, Takeshima T. Prevalences of lifetime histories of self-cutting and suicidal ideation in Japanese adolescents: differences by age. Psychiatry Clin Neurosci. 2008;62(3):362-364.
[10]DeVille DC, et al. Prevalence and Family-Related Factors Associated With Suicidal Ideation, Suicide Attempts, and Self-injury in Children Aged 9 to 10 Years. JAMA Netw Open. 2020;3(2):e1920956.
[11]厚生労働省「こころもメンテしよう〜ご家族・教職員の皆さんへ〜」子どものSOSサイン「自分を傷つける」というサイン. https://www.mhlw.go.jp/kokoro/parent/mental/sos/sos_03.html (2026年7月21日閲覧)
[12]Aitken M, et al. Trajectories of parent criticism across treatment for youth self-harm. J Child Psychol Psychiatry. 2025;66(10):1449-1460.
[13]McCauley E, et al. Efficacy of Dialectical Behavior Therapy for Adolescents at High Risk for Suicide: A Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry. 2018;75(8):777-785.
[14]Bedics JD, et al. Covariation of symptomatic and mechanistic change during dialectical behavior therapy for suicidal self-harming youth. J Consult Clin Psychol. 2026;94(2):63-73.
[15]Tulloch AL, et al. Adolescent-parent communication in self-harm. J Adolesc Health. 1997;21(4):267-275.
[16]Hall S, Melia Y. What is Known About the Role of Friendship in Adolescent Self-Harm? A Review and Thematic Synthesis. Child Youth Care Forum. 2023;52(2):285-310.
[17]Hall S, Melia Y. I Just Pulled Myself Together and Realised I had to be Responsible: Adolescents’ Experiences of Having a Friend Who Self-Harms. Child Youth Care Forum. 2022;51(2):291-311.
[18]Bilello D, et al. Friendship and self-harm: a retrospective qualitative study of young adults’ experiences of supporting a friend who self-harmed during adolescence. Front Psychol. 2024;14:1221661.
[19]Wilkinson P, et al. Sporadic and recurrent non-suicidal self-injury before age 14 and incident onset of psychiatric disorders by 17 years: prospective cohort study. Br J Psychiatry. 2018;212(4):222-226.


※論文の検索、内容の推敲、ファクトチェック(事実検証)に生成AIを使用しています

執筆者

プロフィールイメージ
飯島慶郎
飯島慶郎

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック院長
精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士

島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。
多くの不登校児童生徒を医療の面から支えている。島根大学医学部精神科教室にも所属。
著書:『不登校は病気? ~医師の診断が子供と家族を救う~』(みらいパブリッシング、2025年)他

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ