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「CHANEL AND CINEMA – TOKYO LIGHTS」パリ初上映。是枝監督が支える若き才能、日本から世界へ

  • 2026.8.4
© CHANEL

「シャネル」と映画界の関係は、創業者ガブリエル・シャネルの時代にまでさかのぼる。ジャン・コクトーやルキノ・ヴィスコンティといった映画監督との親交、そして彼女が衣装を手がけた多くの俳優たちとの交流により、メゾンは映画界との強い絆を築いてきた。

今もなお、映画制作への支援や衣装の貸与・制作を積極的に取り組むなか、2024年には、日本映画界を代表する是枝裕和監督とともにメンターシッププログラム「CHANEL AND CINEMA – TOKYO LIGHTS」を始動。次世代を担う若手映画監督が創造性や大胆さ、独創性を存分に発揮できる機会を提供し、新たな才能の国際的な飛躍を後押ししている。第1回の受賞者3名のショートフィルムは、東京のシャネル・ネクサス・ホールで今年5月24日(日)まで上映された。そして今回、その作品をパリの観客へと届ける初の上映会が、映画館「サン・ジェルマン・デ・プレ」で開かれた。

© CHANEL

会場となった「サン・ジェルマン・デ・プレ」は、文豪や芸術家など多くの文化人が集まったとされる老舗カフェが立ち並ぶパリ6区に、1969年に開館した。コスタ=ガヴラス監督の『Z』をオープニング作品に迎え、以降はロベール・ブレッソン、フランソワ・トリュフォー、ミケランジェロ・アントニオーニらの作品を上映。パリの映画愛好家たちに長く親しまれる、アート系映画の重要な名画座として親しまれてきた。

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一度は閉館したものの、2026年6月、9人の映画愛好家による共同プロジェクトのもとで再オープン。「シャネル」は歴史ある劇場の改修と再始動を支援した。インテリアはパリを拠点とする建築家ファブリツィオ・カジラギが手がけ、1969年に設計した空間の面影を残しながら、クラシックなエレガンスとヌーヴェルヴァーグ時代の街角の映画館を思わせる親密な雰囲気を融合させた。

© CHANEL

チケット売り場は、かつて映画ファンを迎えていた小さな窓口を思わせるデザインに。さらにスクリーンの裏側には、かつての列車のコンパートメントを思わせるバーも新設。スクリーンは開閉可能で、この隠れ家的バーから舞台や客席へ直接アクセスできる仕掛けとなっており、映画の舞台裏へ足を踏み入れるような体験を演出している。大型シネコンの画一的な空間とは対照的な、温かく、落ち着きがあり、親密な雰囲気を備えた「サン・ジェルマン・デ・プレ」は、映画を鑑賞するという感情的で集合的な体験を未来へつなぐ、新たな文化発信の場へと生まれ変わった。

左から 古川葵監督、是枝裕和監督、首藤凜監督、田中さくら監督、 © CHANEL

今年6月に再オープンしたこの映画館が、「CHANEL AND CINEMA – TOKYO LIGHTS」の初となるフランスでのイベントの舞台。上映に先立ち、是枝裕和監督と受賞者である首藤凜監督、田中さくら監督、古川葵監督によるトークセッションが行われた。

© CHANEL

同メンターシッププログラムでの役割について問われた是枝監督は、「日本では若手育成の仕組みが十分とは言えないなかで、若手支援の方法を模索していた」と明かした。「5年程前から若いクリエーターのサポートに取り組んでいたが、なかなか実現しなかった。そして『シャネル』とのパートナーシップという機会に巡り合い、一緒にプログラムを立ち上げることができたのは、本当にうれしいことでした。私は若いクリエーターを引っ張るというよりは、後ろから背中を押すような存在でありたいと思っています。それが、私にとってのメンターの役割だと考えています」

是枝裕和監督 © CHANEL

受賞者は是枝監督をはじめ、メゾンのアンバサダーを務めるティルダ・スウィントンと安藤サクラ、映画監督・西川美和、そして俳優・役所広司ら各分野の第一線で活躍するクリエイターのサポートを受けながら、ショートフィルムを制作。一筋縄ではいかない映画制作の過程で、首藤監督はこんなエピソードを語っていた。

「作品のラストシーンについて是枝監督に相談したところ、『僕だったらこうする』と即答してくれたのです。まるでご自身の映画を作るかのように真剣に向き合って見てくださいました。そのおかげで最終的には、自分の方向性でラストシーンを描くことができました」と、メンターとして寄り添う是枝監督への感謝を語った。彼女の作品『親切がやって来る』は、夜道で泥酔した女性を介抱することになった主人公と、偶然居合わせた青年とのひとときを描く物語。見知らぬ者同士の間で“親切心”を通して絆が生まれるのか、生まれないのか……。首藤監督が選んだラストシーンと、是枝監督ならどのように描いたのか、想像を巡らせながら作品を振り返るのも興味深い。

首藤凜監督 © CHANEL

田中監督は、「私は映画を専門学校などで学んだ経験がなかったので、演出をはじめ、映画制作の基礎を教えていただきました」と振り返り、メンター陣との対話が自身の制作に大きな糧となったことを明かした。そうして生まれた作品『夜明け』は、人生の節目を迎えた姉妹が、二人暮らし最後の朝を静かに過ごすひとときを描く。「同じ出来事を経験したはずなのに、人によってまったく異なる形で記憶されることがあります。そして、その記憶の違いが人間関係に与える影響について、思いを巡らせていました」という監督の関心が物語の核となっている。前半では人物の表情をあえて見せ切らないカメラワークが印象的で、二人の間に横たわる言葉にならない感情や距離感を映像で繊細に描き出した。

田中さくら監督 © CHANEL

古川監督の『夕べの訪問客』は、夕暮れの法律事務所を舞台に、過去に救えなかった依頼人との再会を描く密室劇。罪悪感が恐怖へと変わっていく過程を、緊迫感あふれる心理描写と巧みな会話劇で映し出し、観る者を最後まで引き込む。「人は言葉では何かを伝えていても、身体はまったく別のことを語っていることがあります。そのズレや、隠された意味、コミュニケーションの複雑さや豊かさを、この短編映画で描いてみたいと思いました」と、古川監督は作品に込めた思いを語った。さらに彼女は、「CHANEL AND CINEMA – TOKYO LIGHTS」でともに受賞した監督との出会いも、このプログラムの収穫だったと述べた。「3本とも異なる映画のように見えるかもしれません。でも、お互いに話をしていくうちに、語り方が違うだけで、物語の語り方やテーマ、モチーフには意外なほど共通点があることに気づいたんです。そうした発見や交流は、私にとってとても良い刺激になりました」

古川葵監督 © CHANEL

3作品の上映後にはカクテルレセプションが開かれ、映画関係者やファッション業界のゲストが4人の監督たちと直接言葉を交わす場が設けられた。作品について活発な議論が交わされる中で印象的だったのは、日本とフランスの文化的背景による受け止め方の違いだ。首藤監督の作品では、見知らぬ者同士が夜道で会話を交わし、ともに行動する展開について、「フランスでは考えられない。治安の良い日本だからこその物語」と驚く声も聞かれた。一方、田中監督と古川監督の作品では、それぞれの登場人物の心情や結末の解釈をめぐって、ゲスト同士が異なる視点を交わす場面も。

同じ映画を観ても、日本とフランスでは受け止め方が異なり、対話を重ねるたびに新たな解釈が生まれていく。「CHANEL AND CINEMA – TOKYO LIGHTS」をきっかけに文化を越えた会話が広がり、尽きることのない語らいとともに、パリの夜はゆっくりと更けていった。

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