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声優・赤尾ひかる、初小説は“好き”の結晶 女子校の記憶と「百合×食べ物」で紡いだ甘い物語

  • 2026.7.31
小説『甘い制服をまとって』赤尾ひかるインタビュー (C)赤尾ひかる・館田ダン/KADOKAWA width=
小説『甘い制服をまとって』赤尾ひかるインタビュー (C)赤尾ひかる・館田ダン/KADOKAWA

声優・赤尾ひかるが、初小説『甘い制服をまとって』を刊行。舞台は、純粋培養の乙女たちが集う私立セレーネ女学園。憧れの「白薔薇会」への入会を夢見る新入生・犬甘ゆらは、「白薔薇会を潰す」と宣言する謎めいた美少女・美雪姫奈に、放課後のサロン「マシュマロ会」へと誘われる。強引でどこかトンチンカン、それでいて不器用な優しさを持つ美雪に、ゆらは次第に惹かれていき――。マシュマロのように甘く、可愛さ1000%のガールズラブコメディは、どのように生まれたのか。女子校での実体験やキャラクター作り、初の長編執筆を経て声優として芽生えた新たな思いを聞いた。

【写真】イラストレーター・館田ダンが描いた『甘い制服をまとって』イラスト集

■日常の“好き”が一冊の本に 女子校の記憶から生まれた初小説

――初小説の刊行が決まったときは、どのような思いでしたか?

赤尾:今の時代に、自分の作品が一冊の本になることは本当に貴重だと思うので、感激しました。声優を目指したときは、「絶対にこの夢をつかむんだ」と強く意気込んでいましたが、小説を書くことは、もともと日常の中にあった好きなことの一つだったんです。その“好き”が仕事になる喜びと同時に、責任の重さも感じ、身が引き締まる思いでした。声優とはまた違う形で、日々続けてきたことが実を結び、思いがけない幸運が舞い込んできたような感覚でした。本当にうれしかったです。

――これまで朗読劇の脚本も手がけてきた赤尾さんですが、物語を作ることには、いつ頃から親しんできたのでしょうか?

赤尾:本当に趣味の範囲ではありますが、当時流行していた携帯小説を読んだり、自分でも物語を作ったりしていました。中高時代は放送部に所属していて、NHKのコンテストにラジオドラマ部門があったので、10分弱の脚本を書いたこともあります。小説という形ではありませんでしたが、物語を作ることには以前から触れていたんです。

――今回は約9万字に及ぶ長編ですが、一冊の小説として書き上げることに、どのような思いで向き合いましたか?

赤尾:小説を書くことが決まったとき、気持ちは自然と「一冊の本として完成させたい」という方向へ向かいました。もともと、いつか短編ではなく、長くて大きな物語を書き上げたいという思いがあったんです。その願いが形になる機会だからこそ、約9万字にわたる物語の一言一言を大切に積み重ね、最後まできちんと届けたいと思いました。迷いはなく、「この物語を一冊の本にするんだ」と自然に心が決まったんです。

――学園を舞台にしたガールズラブコメディという本作の形には、これまでの創作や赤尾さんご自身の経験がどのようにつながっているのでしょうか?

赤尾:これまで手がけてきた朗読劇も、すべて百合作品なんです。さらに、いつも「百合×食べ物」という組み合わせで書いてきました。作品を観終えたあとに「あれを食べたいな」と思ってもらえるような、皆さんの日常を少し彩るきっかけを作りたくて。これまでにもワッフルやリンゴ飴、和菓子など、さまざまな食べ物を物語に取り入れてきました。

今回は、そこに「マシュマロ」というモチーフが加わりました。さらに、私自身が中高一貫の女子校に通っていたので、その経験も生かせると思ったんです。自分がよく知っている世界だからこそ、想像も膨らませやすい。そうした要素が重なって、この物語にたどり着きました。

――赤尾さんの中には、物語を作るうえでの一つの“方程式”があるのですね。

赤尾:そうなんです。やっぱり、何かを食べている女の子はかわいいですし、一緒に食べる時間には、二人の心の距離を自然と近づける力があると思います。そして、いつかその食べ物を目にしたときに、一緒に過ごした時間や相手のことまで思い出せたら、とてもすてきだなと。そんなふうに、思い出のそばにはいつも食べ物があってほしいと思っています。

――物語には、赤尾さんが6年間を過ごした女子校の“リアル”も盛り込まれているそうですね。どのような空気感や人間関係を作品に反映しましたか?

赤尾:物語の舞台となる私立セレーネ女学園は幼稚部から大学までありますが、私が実際に通っていたのは中高一貫の女子校なので、その6年間の経験をぎゅっと凝縮しています。

中等部と高等部では、やはり雰囲気が少し違うんです。高等部から入学してくる生徒もいるので、「中等部から知っている子」と「高等部に入ってから出会った子」という認識が、日常会話の中にも自然と表れていました。もちろん、内部生と外部生を隔てる意識があるわけではなく、それぞれの関係が始まった時期を示す言葉として存在していたんです。

犬甘ゆらは高等部から入学するため、周囲から見れば“外部生”にあたります。彼女がその環境へ飛び込み、すでに築かれている人間関係とどのように距離を縮めていくのかは、丁寧に描きたいと思いました。あとは、女子校ならではの、おもちゃ箱をひっくり返したようなにぎやかさですね。女の子たちが集まって、わちゃわちゃと過ごしている。そんな空気感も、この作品の中にたっぷり詰め込みました。

――犬甘ゆらと美雪姫奈の関係性を描くうえで、大切にしたことを教えてください。

赤尾:美雪は当初とてもミステリアスな存在として生まれたキャラクターです。ですが、ゆらと一緒に過ごすことで、少しずつ等身大の女の子になっていく。あるいは、美雪の中に隠れていた素顔を、ゆらが見つけていったとも言えるのかもしれません。ミステリアスなベールが一枚ずつ剥がれ、その奥にいる一人の女の子が見えてくる瞬間を大切にしました。

美雪の素顔を知るにつれて、ゆらの接し方も次第に変わっていきます。初めは一方が追いかけていたはずの“鬼ごっこ”が、いつの間にか立場の逆転した追いかけっこになっていく。そんな二人の関係性の変化を意識して描きました。

■マシュマロのような優しい甘さを 赤尾ひかるが物語に込めた思い

――声優は、台本から人物の心情や背景を読み取り、役を形作っていきます。一方、小説では、人物そのものをゼロから生み出します。「役作り」と「キャラクターメイク」には、どのような違いがありましたか?

赤尾:その子の心に寄り添うという点は、どちらも変わりません。ただ、声優の仕事では、自分なりに役を作り上げたうえで、共演者のお芝居を受けることで新たに生まれるものがあります。「こんな温度で届く言葉だったんだ」「こういうテンポで返ってくるんだ」と感じた瞬間に、自分のお芝居も変化していきます。

一方、小説には、声の掛け合いとは異なる“文字のテンポ”があります。読者が文章を読むリズムに合わせて、登場人物の心が動いていく。その中で彼女たちを立ち上げるには、一人ひとりが持っている要素を、いかに言葉にするかが大切でした。

そのために、性格や好きなものなど、キャラクターを形作る要素をいくつも書き出しました。声優のオーディションでは、作品の概要やキャラクターの情報をスライド形式でいただくことがあります。そうした資料を見ながら、「作品はこのように作られているんだ」「こう整理すれば、キャラクターのことを分かりやすく伝えられるんだ」と学んできました。

その経験を生かして、今回も物語のプロットとは別に、キャラクター資料をスライドで作りました。プロフィールはもちろん、作中ではまだ明かされていない誕生日や一人称まで、一人ひとりの設定を整理しています。そうして言葉を重ねながら、彼女たちの輪郭を作っていきました。

――小説を一冊書き上げた経験を通して、声優として台本やキャラクターと向き合ううえで、改めて感じたことはありましたか?

赤尾:脚本やそこに書かれた一文字一文字を大切にしたいという思いが、より深まりました。声優として活動する中でも、一つの作品が完成するまでには本当に多くの方が携わっていることを感じていましたし、感謝しながらキャラクターと向き合ってきました。ですが今回、自分自身が長い時間をかけて一つの物語を書き上げたことで、作品を生み出す大変さも、楽しさも、改めて実感したんです。

オーディションや収録の際に私たちが受け取るのは、基本的にはすでに形になった作品です。ですが、そこへ至るまでには膨大な時間があり、作り手の愛情や「好き」という気持ち、そして苦労も詰まっている。これからは、そのすべてを受け取るつもりで、これまで以上の熱量を込めて作品と向き合っていきたいと思います。

――最後に、この物語を読み終えた読者の心には、どのような“甘さ”が残ってほしいですか?

赤尾:この物語には、声優としての私だけではなく、これまで生きてきた中で得たものや、女子校で過ごした実体験も詰め込んでいます。

男性の読者には、「女子校って、こんなところなのかもしれない」「もしかしたら、ここがリアルなのかな」と想像しながら読んでいただけたらうれしいです。女性の読者には「あるある」と共感していただきたいですし、もちろん「これはないない」と感じる部分もあると思うので、その違いも含めて楽しんでほしいですね。

また、物語の中には、さまざまな関係性を張り巡らせています。「この二人が好き」という方もいれば、作中で描かれている組み合わせとは別の二人に惹かれる方もいるかもしれません。それぞれの視点で、好きな関係性を見つけていただけたらと思います。

女の子同士だからこそ生まれる柔らかさや、どこか艶めいた空気が、この作品にはあると思います。マシュマロのように柔らかな肌触りや、近づかなければ気づけないほのかな甘い香り。そんな優しく甘い感覚を、この物語を通して味わっていただきたいです。

(取材・文:吉野庫之介)

小説『甘い制服をまとって』は、KADOKAWAより発売中。

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