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25年前の世界水泳、テーマ曲は『ultra soul』だけじゃなかった B'zが同じ夏に用意していた「もう一曲」とは?

  • 2026.8.31
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2006年5月、オリコン40周年記念表彰式「WE LOVE MUSIC AWARD」に出席したB'z(C)SANKEI

夏の夜、テレビの中では水しぶきと歓声が続いていた。福岡で開かれた世界水泳。中継のたびに『ultra soul』の掛け声が街とお茶の間を覆い、2001年の夏はあの一曲の色に染まっていたと言っていい。だがあの夏、同じ大会のためにもう一曲が用意されていたことを、どれだけの人が覚えているだろうか。

B'z『GOLD』(作詞:稲葉浩志/作曲:松本孝弘)ーー2001年8月8日発売

レースの前を煽る歌ではなく、終わったあとの人を讃える歌。派手な掛け声の影で、この曲は静かに表彰台の側に立っていた。

同じ夏のために書き分けられた動と静

『GOLD』は、「第9回世界水泳選手権福岡2001」の大会公式テーマソングとして世に出た。同年3月に発表され大会を盛り上げた『ultra soul』と、同じ大会のために1年のあいだに2曲。しかも2曲の役割は、はっきりと分かれている。

片方は飛び込む前の心拍を上げる「動」の曲。もう片方は、勝負が終わった人間の肩に手を置く「静」の曲だ。テレビの前の記憶で言えば、レースの入りで鳴るのが『ultra soul』、選手が泳ぎ切り、電光掲示板を見上げ、表彰台に上がる場面に寄り添うのが『GOLD』だった。同じ大会の時間軸を、2曲が前半と後半で分担していたことになる。

同じ書き手が同じ舞台のために、興奮と労いという正反対の感情を書き分けた。この対構造こそが『GOLD』という曲の設計図の面白さだ。シングルには『ultra soul ~Splash Style~』も収められ、動と静が1枚のなかで背中合わせになっていた。

発売されるとこの曲は50万枚を超えるセールスを記録し、ヒットとしての体裁は十分に整えた。それでも『GOLD』の本領は、数字の外側にある。

静けさの奥に劇性を仕込む

技術的に見て、この曲がまず面白いのは「劇的なのに静か」という矛盾を成立させていることだ。

稲葉浩志の歌は、冒頭から力で押さない。言葉をひとつずつ置くように始まり、曲が進むにつれて声の面積が少しずつ広がっていく。サビで大きく開くときも、その声は聴き手を煽る方向ではなく、誰かを包む方向へ伸びる。

同じ声量でも、矛先を「前へ」でなく「相手へ」向けるだけで、歌はエールから讃歌に変わる。突き上げるような『ultra soul』の発声と聴き比べれば、同じ歌い手のなかにある引き出しの多さに驚かされるはずだ。声を張る場面と手前で止める場面の配分が、曲の主題そのものを説明している。

松本孝弘のメロディも、起伏の付け方が周到だ。低い場所から助走を取り、頂点へ向かって大きく持ち上げていく息の長い旋律線。ロックバンドの文法で言えばギターが前へ出る場面でも、ここではギターが歌の輪郭に寄り添い、旋律を後ろから支える側に回る。

壮麗な音の厚みのなかで楽器が我を張らないから、劇的なスケール感と静けさが同居する。表彰台の曲に必要なのは音の派手さではなく、音のスケールだという判断がここにはある。盛り上げるのではなく、見届ける。演奏全体がその一点に向かって設計されているから、聴き終えたあとに残るのは興奮ではなく、深い息のような余韻だ。

そして詞。ここで歌われているのは、勝った者への祝福だけではない。戦い終えた人間の疲れや孤独ごと受け止めて、その姿を金色にたとえて讃える視線だ。試合前の自分を鼓舞する『ultra soul』に対し、『GOLD』は試合後の誰かを見つめる。主語の向きが反転しているのだ。応援歌というジャンルの多くが「これから戦う人」に宛てられるなかで、視線を結果の出たあとへずらしたことが、この詞のいちばんの発明だ。

歓声の外側に置かれた讃歌の行き先

これほどの設計を持ちながら、『GOLD』は長く「影」の位置にいた。当時のオリジナルアルバムには収録されず、翌年のバラードベスト『The Ballads 〜Love & B'z〜』でようやくアルバム初収録となる。表舞台の記憶を『ultra soul』が総取りしていくあいだ、この曲は棚の奥で静かに金色を保っていた。

バラードを集めた一枚に迎え入れられたという経緯は、この曲の居場所がどこにあるのかを図らずも言い当てている。祭りの中心ではなく、祭りが終わったあとの時間にこそ、この歌は効く。

だからこそ、いまこの曲を『ultra soul』の双子、あるいは裏側として聴き直したくなる。表の一曲が勝負の前の胸の高鳴りを引き受け、裏の一曲が勝負のあとの沈黙を引き受ける。2曲で1組の応援歌だったのだと、四半世紀を経た耳にはよくわかる。

応援歌と聞いて思い浮かぶのは、背中を叩いて送り出す歌だろう。だが本当に歌が必要になるのは、結果が出てしまったあとかもしれない。勝っても負けても、戦い終えた人を讃える。『GOLD』は、そのために用意された数少ない場所に、いまも静かに立っている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・笄坂かける)

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