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BoAとAKB48の「意外な共通点」はこの曲にある 25年前、海を渡ってきた十代に書き下ろされた夏の一枚

  • 2026.8.31
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BoA-2002年3月撮影(C)SANKEI

K-POPという言葉は、いまや説明のいらない日常語になった。日本の街でも配信でも韓国発のポップスは当たり前に流れ、BoAはその流れのいちばん先頭を歩いてきた人として、日韓の音楽シーンに深く根を張っている。だが、その道のりの出発点近くまで戻ってみると、風景は一変する。2001年の夏、彼女はまだ、日本では名前をほとんど知られていない十代の新人だった。

BoA『Amazing Kiss』(作詞・作曲:BOUNCEBACK)ーー2001年7月25日発売

デビューから間もない時期に放たれた、日本での2枚目のシングル。大きな脚光を浴びる前の、静かな出発の記録である。

喝采の外側で静かに始まった助走

日本での1枚目のシングル『ID;Peace B』が世に出たのは、同じ年の5月30日。『Amazing Kiss』はそこからわずか2カ月足らずで届けられた2枚目だった。矢継ぎ早のリリースは、この新人にかけられた期待の大きさを物語っている。もっとも、当時の音楽シーンの中心にいたのは別の顔ぶれで、この曲が街を席巻したわけではない。

それでも、この一枚には独特の佇まいがある。大きな話題の輪の外側で、のちに時代を動かす歌声が、確かな足取りで歩き始めていた。その事実を知ったうえで聴き直すと、曲の輪郭は違って見えてくる。背伸びも気負いもない。ただ歌のうまい少女が、目の前の一曲に全力で向き合っている。その無防備さが、いまの耳にはかえってまぶしい。

ブレイク前夜という言葉すらまだ早い、前夜のさらに手前。誰の視線も集めていない場所でこそ、歌そのものの実力がいちばん正直に試される。この曲は、その試験にまっすぐ向き合った作品に映る。

覚えたての言葉を歌で自分のものにする

楽曲を手がけたのはBOUNCEBACK。日本のポップスの文法をよく知る作り手たちが、海を渡ってきたばかりの歌い手のために曲を用意した。ちなみにBOUNCEBACKが後に作曲家として参加した曲のひとつにAKB48の『会いたかった』がある。ただし、この曲の主役はあくまで歌声だ。

当時のBoAは、日本語を覚えながら歌っていた時期にあたる。それなのに、歌からは言葉のぎこちなさがほとんど聞こえてこない。むしろ、揺らめくようなサウンドの上で、甘さを帯びたハイトーンが自在に伸び縮みする。

まだ手に馴染んでいないはずの言語を、発音の正確さではなく、歌の呼吸そのもので乗りこなしている。そこにこの曲のいちばんの聴きどころがある。

覚えたての言葉で歌うとき、人はふつう言葉を置きにいく。だがこの歌は、言葉の意味より先に、旋律の起伏へ感情を乗せることを選んでいる。だから聴き手には、翻訳を経ない温度がそのまま届く。

高い音域へ駆け上がる瞬間の迷いのなさ。語尾がすっと消えていくときの儚さ。十代の声だけが持つ勢いと、それに不釣り合いなほどの表現の細やかさが、ひとつの歌の中に同居している。聴くたびに背筋が伸びる思いがする。

名前より先に声が知られていく夏

この曲は、カネボウ『テスティモ』のCMソングに起用された。化粧品のCMといえば、その時代のいちばん華やかな場所である。画面を彩る音楽には、季節の空気を一瞬で塗り替える力が求められる。そこに、まだ顔も名前も広く知られていない十代の歌声が選ばれた。

2001年の夏、テレビの前にいた人たちの多くは、歌い手が誰かを知らないまま、この声だけを浴びていたことになる。名前が先に立つのではなく、声が先に届く。新人にとってこれほど幸福で、これほど厳しい届き方もない。声そのものの魅力だけで、記憶に残らなければならないからだ。

化粧品の映像に求められるのは、艶やかさだけではない。見る人の気分を一段引き上げる、清潔な高揚感だ。甘さのなかに凛とした芯を残すこの歌声は、その注文にぴたりと合っていたのだろう。

実際、この曲を「あのCMの曲」として覚えていた人もいたはずだ。夏の光と艶やかな映像に重なっていた歌声の主が、やがて日本の音楽シーンの第一線へ駆け上がっていく。答え合わせは、少し先の未来に取っておかれていた。

空港の椅子でひとりだった時間から

この歌声の裏側には、ひとつの原風景がある。韓国でデビューして間もない少女が、日本へ単身で渡る直前、韓国の空港の椅子にひとりで座っていた。日本語は話せない。円への両替の仕方すらわからず、同乗者に頼み込んでどうにか済ませた。付き添いのいない出発。その時間の心細さは、のちのちまで本人の中に残り続けた。

あの夏の歌声が、そういう心細さを知っている人のものだったという事実は、曲の聴こえ方を静かに変える。甘いハイトーンの奥にある芯の強さは、生まれつきのものではなく、ひとりで海を渡った時間が育てたものかもしれない。

それから四半世紀。K-POPは日常になり、海を渡って歌うことは特別な冒険ではなくなった。その当たり前の風景の起点のひとつに、まだ駆け出しだった2001年夏の一曲がある。いま『Amazing Kiss』を再生すると、完成された現在のBoAではなく、空港の椅子から立ち上がったばかりの、心細くてまっすぐな声に出会える。それが、この曲のかけがえのなさだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・高輪田マチ)

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