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格付け連勝のあの王者が27年前に放った「艶」 甘い名前と裏腹に体が先に反応しちゃう一曲

  • 2026.8.31
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2001年8月、「ノイエメンズ」のCM撮影に挑むGACKT(C)SANKEI

いまのGACKTは、音楽の枠に収まらない顔で知られている。テレビや映画で名前を見かける機会のほうが、新曲の話題より先に来ることも珍しくない。その現在の姿からさかのぼっていくと、ひとりの青年が声と官能だけで勝負を仕掛けた一曲に行き着く。

MALICE MIZERを離れた直後、ソロとしてまだ2作目。耽美の黒をまとっていた青年は、そこで肌の温度をそのまま音にしたような歌を世に放った。

GACKT『Vanilla』(作詞・作曲:Gackt.C)ーー1999年8月11日発売

タイトルの甘い響きとは裏腹に、鳴っているのは濃密な官能の歌だ。キャリアの入り口で、恋の切なさでも夢の大きさでもなく、欲望そのものを歌う。この度胸と振り幅こそが、いまへ続くGACKTというアーティストの原点に映る。

黒の美学を脱いだ先で鳴った熱の律動

MALICE MIZERのGACKTは、耽美の様式のなかで歌う人だった。豪奢な衣装、演劇のようなステージ、幻想の世界に置かれた声。バンドを離れてソロを始めた青年に世間が期待したのも、おそらくその延長線上の音だったはずだ。

ところが、ソロ2作目で鳴らしたのは、情熱の律動だった。スカを思わせる弾むリズムが腰から下を動かし、その隙間を縫ってホーンセクションが鋭く吠える。金管の音が官能の温度を一気に引き上げ、幻想の城から出てきた声が、汗の匂いと熱気をまとった音の上で歌っている。この落差は、聴き手の予想を裏切るというより、予想の枠そのものを壊しにきている。

面白いのは、ホーンの強さがこの曲では威嚇に聞こえないことだ。跳ねるリズムだけなら陽気な曲になり、金管の音だけなら押しの一辺倒になる。その二つを重ねたとき、陽気でも強引でもない、艶という第三の温度が生まれる。転身の派手さに目を奪われがちだが、この配合の細かさこそ、聴き直すたびに効いてくる部分に映る

官能を歌うのに、なぜ踊れるリズムを選んだのか。答えは体のほうにある。この曲の色気は、言葉の意味を追うより先に、リズムに揺らされた体が理解してしまう。頭で納得させるのではなく、体を先に説得する。その順番の設計が、この曲をただの過激な歌と分けている。

しかも声は、様式の後ろに隠れない。低く艶のある声が言葉を口説くように運び、高いところへ駆け上がる瞬間に、この歌の主題である官能が音として立ち上がる。転身の照れも、様子見の余白もない。振り切ることそのものが、この曲の表現になっている。

官能の設計図まで自分の手で引く

この曲の作詞も作曲も編曲も、すべて本人の手によるものだ。ソロでは詞から音の細部まで、ひとりで責任を引き受ける側に回った。

甘い言葉で飾った恋の歌ではなく、欲望を正面から扱う詞の世界を、旋律の作り方からアレンジの隅々まで、自分で設計している。借り物のセクシーではない。本人の美学が、詞と音の両方に同じ濃度で塗り込まれている。

官能という扱いの難しい題材を、他人の筆に任せず自分の言葉で組み立てる。その設計の側に、この曲の核がある。何をどこまで言うか、どこで言葉を止めて音に渡すか。その線引きを自分で決められる人だけが、この題材を歌として成立させられる

だからこの曲の官能は、下品に転ばない。熱いリズムの上にホーンの光沢を重ねる配合も、詞の題材に音の側から華やぎを与える計算に見える。挑発と美意識を同じ手が握っているからこそ成立する均衡だ。

若さの賭けが揺るがぬ土台になった

発売から時間が経つほど、この曲の位置づけははっきりしてきた。ソロ初期のGACKTを代表するヒットとして、いまも真っ先に名前の挙がる一曲になっている。1stアルバム『MARS』にも収録され、ソロの骨格を語るうえで外せない位置に組み込まれていった。

転身の一曲は、のちの完成形へ向かう途中経過として聴かれてもおかしくない。だがこの曲は、途中経過ではなく完成品として受け止められ続けている。熱の律動も、金管の艶も、官能の詞も、最初からひとつの美学として仕上がっていたからだ。

最も大胆に舵を切った歌が代表曲として残った。この事実が示すのは、選んだ方向の正しさだ。耽美の様式を脱ぎ、官能を自分の言葉と音で鳴らす。その選択が聴き手に受け止められたからこそ、以後のGACKTは自分の美学だけを頼りに歩いていけた。

いまテレビで見かける堂々としたGACKTの佇まいの、いちばん深い根のところに、この夏の一曲がある。甘い名前を掲げて、まったく甘くない勝負をした歌。27年経っても、その熱の律動は色あせずに残っている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・目黒権之助)

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