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ジブリアニメの最後に流れた「ライアー」の正体は? 25年前、宮崎駿への手紙が生んだデビュー曲

  • 2026.8.31
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木村弓。手に持つのが竪琴のライアー-2005年2月撮影(C)SANKEI

劇場の暗がりに、竪琴をつまびく澄んだ音がぽつりと灯る。そこへ、飾り気のないひと声がまっすぐ重なっていく。物語が幕を下ろしたあとのスクリーンに流れたのは、美しい竪琴(たてごと)の弾き語りだった。

木村弓『いつも何度でも』(作詞:覚和歌子/作曲:木村弓)ーー2001年7月18日発売

スタジオジブリ映画『千と千尋の神隠し』(宮崎駿監督)の主題歌。そして、この1曲が木村弓のデビューシングルである。

デビュー曲がそのまま生涯の代表曲になった歌は、どうやって生まれたのか。その道のりは、曲の響きと同じくらい静かで、まっすぐだ。

竪琴と声だけで立つ音の佇まい

木村弓が奏でるのは、ライアーという楽器だ。膝の上に抱えられるほどの小さな竪琴で、一般には馴染みが薄いが、弦を指で直接つまびくため音の立ち上がりがやわらかく、余韻が長い。

2001年当時、アニメ映画の主題歌もJ-POPも、分厚い音の重なりで聴き手を包み込む作りが主流だった。その真ん中で、この曲は竪琴の粒立つ音と歌声で立っている。編曲も木村弓自身が手がけており、音を足して盛り上げるのではなく、音と音の間にたっぷりと呼吸を残す設計だ。

旋律もまた、この設計に寄り添っている。童謡のように口移しで覚えられそうな素直な歌の運びで、劇的な起伏に頼らないのに、一度聴いたら輪郭が消えない。難しいことを何ひとつしていないように聞こえる歌ほど、実は作るのが難しい。

華やかさを競う時代のまっただ中で、竪琴の弾き語りが深く胸に残ったのは、音楽の豊かさが音の多さでは決まらないことを静かに証明している。

歌声もまた、この編成とひとつづきにある。声を張って感情を押し出すのではなく、弦の余韻の上に言葉を一つずつ置いていくような歌い方。聴き手の耳に飛び込んでくる歌ではなく、聴き手の内側から鳴り出したかのように響く歌である。だからこそ、映画の余韻を壊さず、むしろ余韻そのものになれたのだと感じる。

歌を吹き込んだ手紙が扉を開けた

始まりは、一通のファンレターだった。『もののけ姫』に深く心を動かされた木村弓は、自分の歌を吹き込んだカセットテープを添えて、宮崎駿監督へ手紙を送る。返ってきたのは、企画中の作品が実現するときには声をかけるかもしれない、という趣旨の返信だった。

やがて木村のもとに届いたのが、『煙突描きのリン』というジブリの企画である。大地震のあとの東京を舞台に、銭湯に居候する画家志望の少女を描くはずだった物語。木村はこの作品のためにメロディーを紡いだ。ところが企画そのものが実現に至らず、曲は行き場を失ってしまう。

幻に終わった物語のために生まれた旋律は、しかし姿を変えずに生き残った。歌だけが企画の中止を知らず、次の物語を静かに待っていたようにも映る。

実際、宮崎監督は『千と千尋の神隠し』の制作中もこの曲をよく聴いていて、完成した映画の最後に流れることが決まっていく。

別の物語のために生まれた歌が、まったく別の物語の結末にぴたりとはまったという経緯は、この曲が特定の筋書きを超えた普遍の祈りを宿していたことの証に映る。

仕事の売り込みではなく、作品に動かされた一人の観客としての手紙。そこに自分の歌を添えたところに、歌い手としての飾らない本気がのぞく。一人のファンが送った手紙とカセットが、国民的な一曲の起点になった。アニメの世界では作品から歌が生まれるのが常道だが、ここでは歌への信頼が先にあり、作品のほうが歌を迎えにきた。この順序の逆転こそ、この曲の特別さの核心だと言いたくなる。

遠慮がちな問いに返された確信

採用が決まろうかという段になって、「(この曲)合いますか?」と尋ねたのは木村弓のほうだった。宮崎駿はそのたびに、『いつも何度でも』を最後に流したいのだという確認を繰り返したという。歌い手が遠慮がちに問い、監督が揺るがず答える。歌った本人よりも先に、この歌と物語の縁を信じ切っていたのが監督だったという構図に、作り手同士の信頼の深さがのぞく。

覚和歌子の詞も、この縁を支えた立役者だ。出会いと別れ、壊れてはまた始まる世界、悲しみを数えながらそれでも呼び声に応えて歩き出す心。特定の登場人物の心情に寄せるのではなく、誰の人生にもそのまま重なる抽象度で言葉が選ばれているからこそ、少女の物語の結末にも、映画館を出たあとの私たちの日常にも、同じ強さで寄り添ってくれる。

映画のための説明をひとことも歌わないのに、映画の余韻を誰よりも深く引き受ける。主題歌という言葉の理想形が、ここにある。そしてその言葉たちは、竪琴の余韻と歌声の間にすっと収まる長さで刻まれていて、耳で追うだけで呼吸が整っていくような心地よさを連れてくる。

映画が終わっても歌は消えない

この曲は第43回日本レコード大賞で金賞を受け、日本アカデミー賞では協会特別賞として主題歌賞に選ばれた。第56回毎日映画コンクール音楽賞も加わり、デビュー曲としては異例なほどの評価が並んだ。シングルは累計で50万枚を超えるセールスを記録している。

ただ、この歌の本当のすごさは、賞や枚数の外側にある。四半世紀を経ても、竪琴のつまびきが聞こえた瞬間に、あの映画の景色と、それを見ていた頃の自分がいっぺんに立ち上がってくる。悲しいときに口ずさむと、責めも励ましもせずに、ただ隣にいてくれる。エンドロールの暗がりでこの歌に初めて出会った夜の、劇場を出て夜風にあたったときの気分まで、一緒に連れて戻ってくる。

デビュー曲が生涯の代表曲になることを、不運と見る向きもあるかもしれない。けれどこの歌に限っては、最初の一曲がすでに完成された祈りだったのだと受け止めたい。竪琴と声だけの小さな歌は、スクリーンが暗転したあとも聴き手の中で鳴りやまず、口ずさむたびに新しい温度で戻ってくる。その温かさを、約四半世紀後の耳はいっそう深く感じる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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