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15年前、初日舞台あいさつで涙を流した【一人の名俳優】映画を一緒に作る喜びの一筋

  • 2026.9.21
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2011年9月、映画「僕たちは世界を変えることができない。」公開3日目舞台あいさつに登壇した向井理(C)SANKEI

今から15年前の2011年9月、映画『僕たちは世界を変えることができない。』の初日舞台あいさつで、向井理が涙を浮かべた。会場に届いたのは、その場に来られなかった深作健太監督の声。共演の松坂桃李、柄本佑、窪田正孝らと並んだ主演俳優は、映画を好きな人たちと作品を作れた喜びを語った。

初主演作の公開日なら、主役の晴れ姿を見たくなる。だが、この日の向井の言葉は、同じ映画を作った仲間へ向いていた。その主演作で演じたのも、仲間と一緒に、できそうにないことへ手を伸ばす青年だった。

大きな志より先に一枚のパンフレット

向井が演じた田中甲太は、何となく満たされない毎日を送る医大生。郵便局で手にしたパンフレットをきっかけに、カンボジアに小学校を建てるための募金活動を始める。目標は150万円。仲間を集め、チャリティーイベントを開き、現地へも足を運んでいく。

原作は、実際に学校建設に取り組んだ葉田甲太の本だ。2005年に始まった活動が、自費出版という形で本になり、その後、映画になった。向井は、一人の青年が残した体験を、スクリーンの中で別の人にも身近に感じられるものにする役を担った。

医大生と聞けば、将来の目標がはっきりした人を想像しがちだが、甲太の出発は、そんなに整っていない。退屈を感じていた若者が、偶然目に入ったものに心を動かされる。立派な答えを持つ主人公ではないから、やってみたい気持ちと、実際にやる難しさの間へ、見る側も入りやすい。

学校を建てる話なのに、最初に必要なのは、隣にいる仲間を誘うこと。遠くの世界へ目を向ける物語が、ごく近い人間関係から始まる。その距離感が、この映画の題材を特別な人だけの話にしない。

公開初日に届いた監督の声

2011年9月23日の初日には、映画を一緒に作った若い俳優たちがそろった。向井は、欠席した監督の音声メッセージを受け、共演者やスタッフと同じ方向を向いて作品を作れたことへの思いを伝えた。舞台あいさつの最後には、客席からスタンディングオベーションも起きた。

完成した映画を前に、出演者と観客が同じ会場にいる。作品の中で力を合わせていた若者たちが、今度は作り手として観客と向き合っている。初日の涙が印象に残るのは、向井一人の達成だけでなく、一緒に作った人たちの存在まで感じられる場面だからだ。

主役を演じることと、映画を自分たちの作品として届けること。その両方を抱えた向井は、後年、出演するだけではない形でも映画に関わる。

祖母の手記を映画に

2017年に公開された『いつまた、君と〜何日君再来〜』では、向井自身が企画に携わった。原作は祖母・芦村朋子の手記。向井は祖父の吾郎を演じ、尾野真千子が朋子役を務めた。戦中、戦後の時代を生きた夫婦の暮らしが、一つの映画になった。

2017年6月のイベントで向井が語ったのは、自分の家族だけの物語にしたくないという思いだった。同じ時代を生きた人たちの生活や思いを、形にして残したいと話している。

医大生の体験を演じた2011年と、祖母の手記を映画にした2017年。どちらも、誰かが実際に過ごした時間が、俳優やスタッフの手を通して、知らない人にも届く物語になっている。向井の映画との関わり方は、ここで違う形を見せている。

15年前、監督の声を聞いて涙を浮かべた初日の向井は、映画を一緒に作れたことを喜んでいた。やがて自ら企画に加わり、大切な記録を作品として届ける側にもなる。主演作の公開という節目を振り返ると、その後も続いていく映画の作り手としての顔が見えてくる。


※記事は執筆時点の情報です

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