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40年前、16歳のアイドルソングを手掛けたのは伝説の職人たちだった 「強がりと可愛らしさ」が同居するヒットナンバー

  • 2026.8.10
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1986年12月、第28回日本レコード大賞で金賞受賞した中山美穂(C)SANKEI

テレビをつければ、はじける笑顔がそこにあった。1986年の秋、化粧品会社のCM合戦が街の空気を彩り、口紅の色や香水の名前と一緒に、その曲は茶の間に流れ込んでいた。跳ねるようなイントロが鳴った瞬間、部屋の空気まで少し軽くなる。そんな一曲だった。

中山美穂『ツイてるねノッてるね』(作詞:松本隆/作曲:筒美京平)ーー1986年8月21日発売

7枚目のシングルとして送り出されたこの曲は、当時16歳だった彼女のキャリアの中でも、とりわけ贅沢な布陣によって作られている。1986年という年、この一曲に懸けられた仕事の中身を見ていくと、単なるアイドルソングでは片づけられない設計の緻密さが見えてくる。

十代へ手加減なしで挑んだ設計

作詞に松本隆、作曲に筒美京平。日本の歌謡曲・ポップスを支えてきた、当代トップクラスの職業作家コンビだ。編曲は大村雅朗と船山基紀の連名で、この二人もまた、80年代の歌謡ポップスの音像を語るうえで欠かせない名前が並ぶ。

十代のアイドルに向けた楽曲というと、どこか型にはまった量産型を想像してしまいがちだが、この曲の作りはそう単純ではない。松本隆の詞は、浮き足立った心の弾みを、気取らない言葉のリズムで転がしていく。難しい比喩に頼らず、口にした瞬間に体が動き出すような言葉選びだ。

筒美京平のメロディは、サビに向かって畳みかけるように音を積み上げる。ワンフレーズごとに小さな驚きを仕込みながら、聴き手を飽きさせない。イントロからAメロ、サビへと向かう流れの中で、音の重心がじわじわと前へせり出してくる感覚がある。それを支える大村雅朗と船山基紀の編曲は、シンセサイザーの粒立ちとリズム隊の弾みを丁寧に重ね、歌が息継ぎするたびに音の隙間が呼吸するように動く。

職業作家が手がけたアイドル曲だからといって、その仕事が軽いわけではない。むしろ十代のアイドルにこそ、完成された設計図を惜しみなく注ぎ込む。それが80年代の歌謡曲を支えた職人たちの流儀だった。

調子に乗った声がちょうどいい

この曲を単なる作家陣の仕事として終わらせないのは、中山美穂自身の歌声だ。

タイトルの「ツイてるね ノッてるね」という言葉には、浮かれた気分を隠さず前に出す図々しさがある。普通に歌えば嫌味にもなりかねない台詞を、彼女は屈託のない軽やかさで押し通す。ちょうどいい距離感で、幸運を信じきっている少女の顔がそのまま声になっている。

十代のアイドルが背伸びして大人びた表現を演じるのではなく、あくまで自分の年齢の勢いのままに歌いきる。この振り切り方こそが、職業作家の設計図に命を吹き込んだ。松本隆と筒美京平が描いた言葉とメロディの型に、彼女自身の呼吸とテンポがぴったり重なったとき、譜面の上の設計図は初めて一人のアイドルの表情になる。

歌のなかで彼女は、幸運を自分の手柄のように語りながらも、どこか誰かに見せびらかしたいような照れも滲ませる。強がりと可愛らしさが同居するその歌い口が、この曲の一番の聴きどころだ。

短尺に懸けた推進力の設計

1986年の秋、この曲は資生堂のCMソングとして起用された。テレビをつければ本人の顔と声が繰り返し流れ、当時の化粧品会社各社が凌ぎを削っていたCM合戦の一角を、この曲が担っていた。

CMソングとして起用されるというのは、単に露出が増えるという以上の意味を持つ。限られた尺のなかで瞬時に印象を残さなければならず、そのぶん曲そのものの推進力が試される。跳ねるようなイントロと、覚えやすいタイトルフレーズは、まさにそうした場で強さを発揮するために磨き上げられたものだったとも言える。

CMの中の彼女は、商品の魅力を語る前に、まず自分自身が浮かれて見せる。その屈託のなさが、化粧品を手に取る側の気分を軽くする役割を果たしていた。売り込むための曲でありながら、押しつけがましさをまるで感じさせない。そこにも、松本隆の詞と筒美京平のメロディが持つ軽やかさの効能があった。

数字でなく賞が語る仕事の重み

この年、『ツイてるねノッてるね』は第28回日本レコード大賞で金賞を受賞している。当代トップの作家陣が本気で組んだ仕事が、業界内でも正当に評価されていたことの証だ。

タイトルの「ツイてるね」という言葉は、その後も口をついて出てくるような軽やかな響きを持っている。幸運を信じ、それを声に出して確かめる。そんな単純な喜びを、この曲は歌詞のワンフレーズに凝縮していた。難しい理屈を並べなくても、口ずさむだけで気分が上向く。そういう即効性のある言葉を選び抜けるのも、職業作家の腕の見せどころだった。

40年近くが過ぎた今、テレビの中で流れていたCM合戦も、口紅の色も、当時のままではなくなった。それでも、あの跳ねるイントロと、少し調子に乗った少女の声を思い出すとき、松本隆と筒美京平、大村雅朗と船山基紀が本気で組んだ仕事の確かさが、変わらず伝わってくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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