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「半年で会社を辞めた」超氷河期時代の元OL、四半世紀余りを経て主演女優賞をつかむまで

  • 2026.8.20
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井川遥-2001年1月撮影(C)SANKEI

「そういうのは学生の時に決めておくべきだ!」。退職を申し出た入社半年の社員に、上司の声が飛んだ。本人も「その通りです」と受け止めたという。

その若い社員が、のちに柔らかな微笑みで「癒し系」と呼ばれる井川遥だった。穏やかな顔立ちが広く知られる前に、就職難の会社へ入り、迷い、叱られ、それでも席を立った半年間がある。

退職から数カ月で立った場所

短大卒業後、井川遥は一般企業へ就職した。モデルへの憧れは胸に残っていたものの、もう年齢的に難しいのではないかと考え、一度は会社員を選んでいる。2025年の映画『見はらし世代』のイベントでは、自らを「超氷河期」と呼ばれる世代だったと振り返った。

上司に叱られても、学生時代に参加した作品撮りの感触が消えなかった。退職後、そこで知り合ったヘアメイク担当者の紹介を受け、モデル事務所へ。1999年、事務所に入ってわずか数カ月で水着キャンペーンガールに選ばれた。

会社の机を離れ、モデル事務所に入ってから、人前に立つまで数カ月。けれど井川遥が自分の居場所を決めるまでには、就職難のなかで選んだ半年があった。

水着姿でカメラに向かう井川遥には、肩の力を抜いた静かな華があった。強く押し出さずとも視線を引き寄せる佇まい。「癒し系」という短い言葉は、その見た目をたちまち時代の顔へ変えた。

「癒し系」の顔を、役の生活へ

グラビアやCMで知られたあと、井川遥は映画やドラマへ活動を広げた。2005年公開の映画『樹の海』では、青木ヶ原樹海を訪れる人々を描く群像の一人を演じ、日本映画批評家大賞助演女優賞と高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞している。

画面にいるだけで空気を和らげる人が、痛みや諦めを抱えた人物の沈黙を引き受ける。笑顔を見せることより、表情を動かさない時間のほうが長く残る役も増えていった。

2020年放送のTBS系ドラマ『半沢直樹』第2シリーズでは、半沢たちが情報を交わす小料理屋の女将・智美役。客の話を聞きながら、店の空気を乱さない。カウンターの内側に立つ姿には、長くCMで親しまれた華やかさとは違う、生活の手触りがあった。

井川遥の柔らかな見た目は、役を飾るためだけのものではなくなった。相手の言葉を受け止め、場を静かに保つ人物の時間へ溶けていった。

白い着物で受け取った主演女優賞

2025年公開の映画『平場の月』で演じたのは、須藤葉子。中学時代の同級生と再会した中年女性で、若いころの恋だけでは埋まらない年月を、言葉の間や視線ににじませた。相手役は『半沢直樹』で共演した堺雅人だった。

2026年、井川遥は同作で第35回日本映画プロフェッショナル大賞の主演女優賞を受賞した。授賞式に現れたのは、白い着物姿。1999年の水着キャンペーンガールから四半世紀を超え、同じ人が今度は映画賞の壇上に立っていた。井川遥は壇上で、これからの人生が映画の中で肉付きとなり、花咲いていくように精進したいと語った。完成を宣言するのではなく、まだ先の時間を見ている言葉だった。

会社を辞めた日の若い社員は、上司の叱責に「その通りです」と返した。それから四半世紀余り。白い着物で賞を受け取った井川遥は、静かな声で次の仕事を見ていた。「癒し系」の微笑みだけでは語れない、選び直してきた人の現在だ。


※記事は執筆時点の情報です

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