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過激な少女漫画から“快感”を鳴らすバンドが飛び出した「2.5次元アーティスト」を先取りした【異色のデビュー曲】

  • 2026.9.18
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1999年12月、東京・渋谷で行われたΛuciferのライブより(C)SANKEI

ビジュアルが整ったバンドが夕方のテレビにまで届き、少女漫画誌とアニメが同じ熱を分け合っていた世紀末の空気を覚えているだろうか。音楽番組では派手な化粧と黒い衣装が並び、書店では過激さで話題を呼んだ少女漫画がふつうに売れていた。

その熱がひとつに重なった1999年、妙な驚きが起きた。漫画のページの中にいたはずのバンドが、テレビの中で本当に演奏を始めたのだ。作り物なのか本物なのか、誰もが一瞬考え込み、次の瞬間にはサビを口ずさんでいた。

Λucifer『堕天使BLUE』(作詞:森雪之丞/作曲:TAKUYA)ーー1999年9月15日発売

企画の珍しさは、いまでも語り草になる。ただ、この曲がいまも聴き直せるのは、珍しさのせいではない。企画がどうであれ、曲そのものが一本の柱として立っていたからだ。

ページの中のバンドが現実の楽器を握った日

Λucifer(リュシフェル)の出発点は、新條まゆの少女漫画『快感♥フレーズ』にある。作中で主人公が惹かれていく人気バンドを、実在のバンドとして立ち上げる企画から生まれた。メンバーの多くが原作の登場人物と同じ名を名乗り、紙の上にしかいなかった五人が、現実のステージに立った。

当時、この成り立ちには「作られたバンド」という視線がつきまとった。ロックは自分たちの手で組むものだという、あの時代のバンド観からすれば、漫画の設定をなぞって組まれたグループは異物に映ったはずだ。

それでも『堕天使BLUE』は、入口として機能した。原作を読んでいた少女たちにとっては、ページの中で鳴っていたはずの音がついに耳に届いた瞬間であり、原作を知らない耳にとっては、勢いのあるロックが一曲増えた瞬間だった。

どちらの耳にも同じ曲が届く。漫画の中では読者一人ひとりが勝手に想像するしかなかったバンドの音に、この曲がひとつの答えを与えた。想像していた音が本当の音になって返ってくる体験は、当時の読者にとって小さな事件だったに違いない。企画バンドのデビュー曲としては、これ以上ない出発点だったと言っていい。

企画の裏側に第一線の骨格

企画バンドだから曲も軽い、という先入観は、クレジットを見た時点で崩れる。作曲はJUDY AND MARYのTAKUYA。ヒットを重ねていたバンドの現役ギタリストが、デビュー曲の旋律を書いていた。サビに向かって階段を駆け上がるような旋律の組み方には、当時の音楽番組で毎週のように耳にしていた、あの弾けるバンドの手つきがはっきりと残っている。

作詞は森雪之丞。hide、氷室京介、布袋寅泰といったロックの第一線に言葉を提供してきたベテランが、堕天使という題材を耽美とキワどさの両面から組み立てた。編曲は辻剛。歌の勢いを殺さず、ギターとリズムを前に押し出す音作りで、旋律と言葉を一本のロックに束ねている。

アニメの冒頭で鳴らされることを前提に、短い時間で聴き手をつかみ、サビまで一気に運ぶ設計が、最初から曲の中に組み込まれていた。出自が企画であっても、中身は当時の第一線の手で組まれた本物だった。ここに、この曲がいまも聴ける理由の半分がある。

荒削りのまま高みを押し切った一瞬

残りの半分は、聴いた者にしかわからない一瞬にある。Aメロで低く溜めていた歌が、サビに入った途端に一気に高いところへ跳ね上がる。落差の大きさに、初めて聴いたときは思わず身構えたはずだ。

その高い場所を、MAKOTOの歌声はまだ荒削りなまま駆け抜けていく。整った歌い手なら滑らかに処理してしまうところを、力でねじ伏せる。その粗さが、曲にとっては欠点ではなく勢いになっているのを感じる。堕天使という題材にふさわしい、落ちながら飛ぶような危うさが、その一瞬に宿っている。

後年、Λuciferは2.5次元と呼ばれる手法の先駆けとして語られることがある。だが、先駆けだったから残ったのではない。サビで跳ね上がるあの一瞬が、企画も設定も忘れさせるほど強かったから、この曲は残った。再生してサビにたどり着くたび、身構えたあの日の耳が、いまも戻ってくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・目黒権之助)

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