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12年前、突然“日本を去った”一人の芸人。知名度のない場所を選び成功を収めた【人気芸人】とは

  • 2026.8.13
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2019年5月、「東京2020オリンピック観戦チケット抽選申込受付開始イベント」に登場した渡辺直美(C)SANKEI

2014年、国内ですでに人気を得ていた一人の芸人が、仕事を離れて約3カ月、ニューヨークに滞在した。目的はただの海外旅行ではない。自分を知らない人たちの中で、知名度を抜きにしてどこまで通じるのかを試すことだった。

その芸人が、ビヨンセの楽曲に合わせたダンスで注目を集め、コントや俳優、モデルなど幅広い場で活動してきた渡辺直美だ。後に英語のポッドキャストを始め、全編英語の舞台にも立つことになるが、その歩みは一度の決断で完成したものではない。

渡辺の海外での12年は、住む場所を変えた物語というより、言葉と形式を変えながら笑いの届け先を増やしてきた時間として見えてくる。

知名度が通じない場所で試したかった

2014年の渡辺は、長年出演した『笑っていいとも!』の終了を一つの節目としてニューヨークへ渡った。帰国直前のインタビューでは、「誰もアタシのこと知らない環境でどこまでできるか試したかった」と、その理由を語っている。

日本では姿を見ただけで笑ってくれる観客もいた。一方、ニューヨークでは渡辺を知らない人ばかりだ。そこで「この子、面白いな」と思ってもらえれば、自分の力を確かめられる。その発想には、人気者になった後だからこそ、いったん肩書の通じない場所へ出ようとする厳しさがあった。

滞在は順調な場面ばかりではなかった。当初は英語が「YES」と「NO」程度しか分からず、店に入ることさえ難しかったという。夢に白いごはんが出てきたことで、ようやく向かいの惣菜店へ飛び込んだというエピソードは可笑しいが、未知の環境で生活する苦労も率直に伝えている。

後年の大きな公演発表より先にあったのは、食事一つにも戸惑いながら、自分の名前が通じない場所に身を置いた3カ月だった。

ニューヨーク、ロサンゼルス、台湾へ

2016年、渡辺はニューヨークとロサンゼルスの2都市に加え、台湾でも公演した。各公演のチケットは即完した。ここで重要なのは、米国の2都市と台湾という異なる地域で観客の前に立った事実だ。

その後、2019年から東京とニューヨークの二拠点生活を始め、2021年4月には活動の本拠地をニューヨークへ移した。公演先を海外へ広げたことと、日々の活動の足場を変えたことは同じではない。それでも時系列で追えば、海外が一時的な訪問先から継続的に仕事をつくる場所へ変わっていったことが分かる。

短期滞在、公演、二拠点生活、本拠地の変更と、渡辺は異なる段階を一つずつ重ねていった。

英語で「話す場」と「笑わせる場」をつくる

2022年には英語のポッドキャスト『Naomi Takes America』を開始。さらに2023年には、全米7都市でPodcast LIVEも行った。音声番組で会話を届け、ライブでは観客の前に立つ。海外にいるという事実だけではなく、英語で観客と接する場を自ら持ったことが、この時期の変化だった。

さらに2024年10月、ニューヨークのGramercy Theatreで、自身初となる全編英語の単独ライブを開催した。2公演は1時間以内に完売したという。

日本語のテレビや舞台で培った間合いを、単純に英語へ置き換えれば同じ反応が返ってくるわけではない。題材をどう切り取り、どの言葉で組み立て、客席へ渡すのか。全編英語の舞台は、渡辺が英語でコメディーをつくる試みを、単独公演として形にした場だった。

誰も自分を知らない環境で試したいと語った2014年から10年後、渡辺は知名度ではなく英語のコメディーそのもので客席と向き合っていた。

北米18都市へと拡がったライブ活動

2025年12月には、初の全編英語による北米ツアー『FROM TOKYO』を発表。2026年4月17日のロサンゼルスから6月13日のバンクーバーまで、米国とカナダの18都市を巡るものだった。

2014年の約3カ月滞在、2016年の米国2都市と台湾での公演、2023年の7都市ライブ、2024年の単独ライブ。そして2026年の18都市公演。順に並べると、突然規模を広げたのではなく、観客との接点と表現の形式を変えながら次の計画へ進んだ流れが浮かぶ。

18都市という数字の大きさ以上に、発表に至るまでの段階の多さが、渡辺の海外活動を物語っている。

日本か海外かではなく、舞台を増やす

海外での活動が続く一方、渡辺は2025年に日本で13年ぶりとなる単独コントライブを開催した。さらに2026年2月11日の東京ドーム公演では44,356枚を販売し、「女性ソロコメディアンによるコメディーショーの販売チケット最多」としてギネス世界記録を達成している。

国内で大勢の観客へ届けることと、自分を知らない観客へ英語で届けようとすること。そのどちらか一方を選ぶのではなく、異なる場所に異なる方法で笑いを運ぶ現在地がある。誰も自分を知らない場所で自分を試した3カ月は、12年後、国内外に複数の舞台を持とうとする渡辺直美の歩みへと広がっている。


※記事は執筆時点の情報です

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