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妹に夫を取られる妻も、既婚男性との関係に迷う女性も演じた 四半世紀で「奪う側」と「奪われる側」を行き来した女優

  • 2026.8.12
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稲森いずみ-2002年1月撮影(C)SANKEI

夫には愛人がいる。自分にも若い恋人がいる。さらに、昔の恋人と結婚した「もう一人の自分」が目の前に現れる。

2003年にNHK総合で放送された『ブルーもしくはブルー〜もう一人の私〜』で、稲森いずみは、そんな複雑な状況に置かれた佐々木蒼子と河見蒼子を一人二役で演じた。二人は同じ顔を持ちながら、選んだ結婚相手も、その後の人生も異なる。

夫に裏切られる側と、自ら別の恋を抱える側。その境界を一つの作品の中で行き来した役は、稲森が四半世紀にわたって演じてきた女性たちを象徴している。

夫を求める妹に闘いを挑んだ妻

その5年前、1998年放送のTBS系ドラマ『略奪愛・アブない女』で演じた樹子は、精神科医・浅野岳史(赤井英和)の妻であり、岳史へ思いを寄せる鈴(鈴木紗理奈)の姉だった。

岳史が鈴と一夜を共にしたことで、夫婦と姉妹の関係は同時に崩れ始める。樹子は裏切りを黙って受け入れるのではない。夫を求め続ける妹に怒りをぶつけ、ときには離婚の意思も示しながら、自分の家庭を揺るがす相手と向き合っていく。

稲森がこの作品で担ったのは、ただ傷つけられる妻ではなく、妹の求愛に正面から闘いを挑む妻だった。

2003年の『ブルーもしくはブルー〜もう一人の私〜』では、稲森が名前も顔も同じ「二人の蒼子」を一人二役で演じた。二人は、過去のある選択を境に別々の人生を歩むことになった、いわば「もう一人の自分」である。

佐々木蒼子は、愛人のいる夫・祐介(石黒賢)との冷えた結婚生活を送りながら、自身にも若い恋人・直也(内田朝陽)がいる。一方の河見蒼子は、佐々木蒼子がかつて愛した俊一(細川茂樹)と結婚し、別の人生を送っていた。

やがて二人は、「相手の人生なら幸せになれるのではないか」と互いの生活を交換する。しかし、選ばなかった人生へ移っても、すべてが思いどおりになるわけではない。一人二役という仕掛けを通して、結婚相手も境遇も異なる二人の迷いが重なっていく。

関係の外からではなく、当事者として迷う

2005年のカンテレ・フジテレビ系ドラマ『曲がり角の彼女』では、稲森はホテルの企画営業部で働く33歳の独身女性・大島千春を演じた。千春は、既婚のシェフ・堀内正光(伊原剛志)との関係を断ち切れずにいる。

夫の裏切りに立ち向かった樹子とは、置かれた側が反対だ。しかし千春も、誰かの家庭を壊す役としてだけ描かれるわけではない。仕事では20代の後輩を意識し、恋愛では先の見えない関係を抱え、自分にとっての幸せを探している。禁じられた関係は、30代の岐路に立つ主人公の迷いの一つとして物語に組み込まれていた。

2019年のWOWOW『それを愛とまちがえるから』で演じた伊藤伽耶は、夫・匡(鈴木浩介)と結婚して15年。伽耶には漫画家の誠一郎(安藤政信)という恋人がいて、匡にも別の恋人がいる。4人の関係は深刻さだけに沈まず、思わぬ言動が状況を動かすラブコメディーとして展開する。

稲森は伽耶を「真面目でちょっと不器用」と表現し、考え過ぎてうまく立ち回れない人物だと説明している。同じ禁断の関係でも、千春の迷いと伽耶の不器用な行動では、物語に生まれる温度がまるで違う。

証拠を手に、不倫夫を追い込む女医へ

2023年の日本テレビ系ドラマ『夫婦が壊れるとき』で演じた真壁陽子は、医師として働きながら、夫・昂太(吉沢悠)と息子と暮らしている。夫の持ち物から小さな違和感を見つけた陽子は、やがて不倫の確証にたどり着く。さらに、信頼していた周囲の人々まで夫の秘密に関わっていたことを知り、復讐へ動き始める。

1998年の『略奪愛・アブない女』の樹子と2023年の『夫婦が壊れるとき』の陽子は、どちらも夫の裏切りに直面する妻だ。それでも二人は同じではない。樹子は夫婦と姉妹の確執が絡み合う中で妹へ闘いを挑み、陽子は証拠を積み重ね、計算しながら夫を追い詰めていく。四半世紀を隔てた二人に共通するのは、裏切られたまま立ち尽くすのではなく、自ら次の行動を選ぶことだ。

夫を求める妹と闘う妻、自分と同じ顔を持つ女性と人生を交換する二人の蒼子、既婚男性との関係を断ち切れない独身女性、夫婦それぞれに恋人がいる妻、そして不倫夫へ復讐する女医。

稲森いずみが演じてきたのは、同じ題材の繰り返しではない。関係が壊れかけた瞬間、その内側で怒り、迷い、別の人生を望み、ときには反撃へ踏み出す女性たちだ。奪われる側と奪う側を行き来しながら、一つとして同じ選択をしない。その振れ幅が、四半世紀の出演作を一本の線で結んでいる。


※記事は執筆時点の情報です

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