1. トップ
  2. エンタメ
  3. 9人の愛人の一人から不倫を裁く弁護士まで 禁断劇の全方位を演じた「怪演」女優

9人の愛人の一人から不倫を裁く弁護士まで 禁断劇の全方位を演じた「怪演」女優

  • 2026.8.15
undefined
2008年4月、映画『あの空をおぼえてる』でインタビューに応じる水野美紀(C)SANKEI

クローゼットの奥から、女性の声がする。「ここにいるよぉ」。扉が勢いよく開くと、笑顔の妻が立っていた。

2017年放送のテレビ朝日系ドラマ『奪い愛、冬』で、水野美紀が演じた森山蘭の登場場面だ。夫・森山信(大谷亮平)と、その元恋人・池内光(倉科カナ)のキスを、蘭は隠れて見ていた。怖いのに、あまりの振り切れ方に笑ってしまう。この場面は再放送でも反響を呼び、水野の「怪演」を象徴する一幕になった。

しかし、水野が不倫をめぐるドラマで立ってきた場所は、嫉妬に燃える妻だけではない。妻、愛人、9人いる愛人の一人、そして不倫を裁く弁護士まで、同じ修羅場のまったく違う位置を演じてきた。

クローゼットの妻が残した怖さと可笑しさ

『奪い愛、冬』の蘭は、夫に激しい愛情を注ぎ、心が離れていく気配を察して暴走する。クローゼットから姿を現す場面も、ただ大声を出すだけでは成立しない。穏やかな声、笑顔、突然の爆発が一つの流れにあるから、相手も視聴者も逃げ場を失う。

一方で、蘭は単純な悪役でもない。夫を奪われる恐怖と、自分だけを見てほしいという切実さが、常識からはみ出すほど膨らんでいる。水野はその痛みを消さずに、動きや声を大胆に押し広げた。

深刻な本妻の傷を土台にしながら、ホラーと笑いが隣り合うところまで演技を振り切ったことが、蘭を忘れがたい存在にした。

正妻の前から逃げない愛人

翌2018年放送のテレビ朝日系ドラマ『あなたには渡さない』で、水野は立場を反転させる。演じた矢萩多衣は、上島通子(木村佳乃)の夫・旬平(萩原聖人)と関係を持つ女性だ。

多衣は通子の前に現れ、「ご主人をいただきにまいりました」と告げる。蘭のように愛する人を奪われまいと取り乱すのではなく、相手の家庭へ自分から足を踏み入れ、離婚届まで差し出す。静かな口調と余裕のある表情が、かえって宣戦布告の強さを際立たせた。

同じ愛憎劇でも、感情を爆発させる妻と、感情を隠して正妻を追い詰める愛人では、怖さの温度が違う。水野は、間と視線で役の立場を反転させた。

9人の愛人の中で

さらにさかのぼると、2016年放送の読売テレビ・日本テレビ系ドラマ『黒い十人の女』では、舞台女優・如野佳代を演じている。テレビプロデューサーの風松吉(船越英一郎)には妻のほかに9人の愛人がいて、佳代もその一人だった。

佳代は愛人歴の長い古株でありながら、恋敵を遠ざけるより「愛人同士で仲良くしよう」と動く。もちろん、そんな提案で関係が丸く収まるはずはない。気遣っているようで無神経、堂々としているようでどこかずれている。その可笑しさが、女たちの激しい会話劇をさらに混乱させる。

愛人役でも艶やかさだけに寄せず、善意と迷惑が同居する人物にしたことで、水野は修羅場そのものをコメディーへ傾けた。

不倫の当事者から、弁護士へ

2024年放送のテレビ朝日系ドラマ『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』では、不倫の当事者から一歩離れる。水野が演じた財田トキ子は、親権問題に強い敏腕弁護士。妻の不倫を知った岡谷渉(伊藤淳史)に厳しい現実を突きつけながら、証拠集めと親権獲得を支える。

ここでの水野は、感情に振り回される人々を外側から見つめる役だ。それでも、財田は冷たい説明役では終わらない。突飛さをにじませながら、渉が折れそうな場面では前へ進ませる。愛憎の渦中で暴れるのではなく、渦中の人を引っ張る強さがある。

妻から愛人へ、愛人集団の一人から弁護士へ。立つ位置が変わるたび、水野は修羅場の見え方まで変えてきた。

修羅場の中心にいても異なる顔たち

2026年9月18日公開予定の映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』では、真下雪乃役でシリーズに戻る。『踊る大捜査線』で知られる理知的な雪乃と、不倫劇で見せてきた濃密な人物たち。その落差もまた、水野の出演歴の面白さだ。

「怪演」という言葉は便利だが、水野の仕事は奇抜な表情や大声だけでは語れない。蘭には傷ついた妻の執着があり、多衣には相手を見据える静けさがある。佳代にはずれた善意があり、財田には人を立ち直らせる厳しさがある。

どの役も修羅場に強い。ただし、同じ強さではない。その違いを一人ずつ作り分けるからこそ、水野美紀は禁断の関係を描く物語で何度も求められてきたのだろう。


※記事は執筆時点の情報です

の記事をもっとみる

注目コンテンツ