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妻を裏切り、欲望へ突き進む…「海猿系イケメン」が演じた“不倫夫”の系譜

  • 2026.8.9
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伊藤英明-2012年7月撮影(C)SANKEI

野心のために危険な関係へ踏み込み、不倫相手と妻の殺害を企て、遊びに夢中になって家庭を顧みない。伊藤英明は、欲望に突き動かされる危うい男性を繰り返し演じてきた。

しかも、ただ嫌われるだけの人物にはならない。強さも明るさもある男が勢いのまま突き進み、相手を振り回し、最後は自分まで窮地に追い込んでいく。その転落ぶりに、なぜか目を奪われる。

『海猿』シリーズで人命救助へ飛び込む主人公を演じた伊藤には、たくましく、いざというときに頼れる印象がある。だからこそ、その頼もしさが身勝手さへ裏返ったとき、危うい男の厄介な魅力が際立つのだ。

野心の強さが危うさへ変わる

2007年放送のTBS系ドラマ『孤独の賭け〜愛しき人よ〜』で、伊藤が演じたのは実業家・千種梯二郎。野心を抱いてのし上がろうとする、危うい男女関係の中心人物だ。

梯二郎は長谷川京子演じる乾百子と出会い、金と欲望、復讐心が絡み合う“賭け”へ踏み込んでいく。互いを利用しようとしながら、やがて割り切れない感情にのみ込まれていく。その関係には、恋愛だけでは片づけられない重さがある。

伊藤が演じる梯二郎には、人を押しのけてでも前へ進む力がある。成功をつかむための行動力が、同時に愛情の境界を越えさせる危うさにもなるのだ。頼もしさと身勝手さは別々に存在するのではなく、同じ勢いから生まれているように見える。

この作品で前面に出ていたのは、欲望の深さだった。そして9年後、伊藤が演じる危うい男は、より身近な家庭の中で、ブラックな笑いを伴う姿へ変わっていく。

妻を消すはずが翻弄される

2016年放送のカンテレ・フジテレビ系ドラマ『僕のヤバイ妻』で、伊藤が演じた望月幸平はさらに強烈だ。

裕福な妻・真理亜の資金援助を受けてカフェを経営しながら、店で働く北里杏南と不倫関係にある幸平。やがて杏南とともに妻の殺害まで企てる。ところが、毒を仕込んで帰宅すると、真理亜は何者かに誘拐されていた。

妻を消そうとしたはずの幸平は、ここから次々と起こる出来事に翻弄されていく。大がかりな悪事を考えたわりに詰めは甘く、窮地に立つたびに取り乱し、疑心暗鬼になる。その小心さと人間臭さを、伊藤は感情をむき出しにする演技で見せた。

たくましい体格と精悍な顔立ちも、この作品ではおかしさに変わる。いかにも強そうな男が、妻の仕掛けたゲームの中で誰より慌てているからだ。

家庭を裏切った夫が、実は妻のことも自分の置かれた状況もほとんど分かっていない。前へ進む力はあっても、足元は見えていない。幸平の身勝手さと頼りなさ、その落差がブラックな笑いを生んでいた。

遊び人なのに憎みきれない

それから9年後。2025年放送のテレビ朝日系ドラマ『花のれん』で伊藤が演じたのは、河島多加の夫・吉三郎。北川景子演じる多加をよそに、女遊びや道楽に明け暮れる人物だ。

商売より遊びを優先し、妻に苦労を背負わせる吉三郎は、頼れる大黒柱とはほど遠い。現代の感覚なら、笑って許すのは難しい夫だろう。

ところが、伊藤が演じる吉三郎には、人を引きつける明るさがある。調子がよく無責任なのに、完全な悪人としては片づけられない。その厄介な愛嬌があるからこそ、多加が振り回される日々にも妙な説得力が生まれる。

頼りにならない夫に代わり、多加は自ら商いの世界へ踏み出していく。吉三郎の道楽と女遊びは夫婦の揉め事で終わらず、妻が興行の世界で道を切り開く物語の起点になる。妻を苦しめながら、その人生を思いがけない方向へ動かしてしまう。吉三郎は、まさに憎みきれない厄介者だった。

梯二郎の野心や幸平の殺害計画ほど切迫してはいない。それでも、欲望のままに進んで妻を振り回すところには、伊藤が演じてきた危うい男たちと同じ勢いが流れている。

頼もしさが裏返ると、男の弱さが見えてくる

2007年の梯二郎は、野心と愛情の境界を越えて危険な関係へ踏み込んだ。2016年の幸平は、自分の欲望のために妻を消そうとしながら、誰よりも翻弄された。そして2025年の吉三郎は、遊びに夢中になって妻へ苦労を押しつけた。

立場も物語の色も違うが、3人には共通点がある。強い勢いで前へ進み、そのまま引き返せないところまで行ってしまうことだ。

『海猿』シリーズでは、伊藤の迷いのない行動力が人を救う力になった。一方、妻を裏切る夫や欲望に突き動かされる男を演じると、同じエネルギーが家庭を揺らし、自分自身を追い詰める力へと変わる。

爽やかで頼もしく見えるからこそ、身勝手さも小心さも鮮やかに浮かぶ。伊藤英明が演じてきた危うい男たちは、その大きな落差によって、ただの悪役では終わらない面白さを残している。


※記事は執筆時点の情報です

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