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実母から茶髪とピアスを命じられた“俳優一家の長男”。初主演から20年以上、作品ごとに更新する表情

  • 2026.8.7
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2019年2月、第92回キネマ旬報ベストテン表彰式で主演男優賞を受賞した柄本佑(C)SANKEI

中学生になる息子に、髪を染めてピアスを開けるよう勧める。しかも、それを口にしたのが母親だったというのだから意外だ。

2026年6月放送の日本テレビ系『おしゃれクリップ』で、柄本佑は、母・角替和枝から「顔が古い」という理由で茶髪とピアスを命じられたと明かした。なかなか大胆な助言だが、柄本という俳優を知る入口として、これほど印象に残る話もない。

ただし、現在の柄本を形づくったのは、一度のイメージチェンジではない。映画監督を夢見た少年がオーディションで選ばれ、作品ごとに異なる人物を演じ、そのたびに評価を積み上げてきた20年以上の時間がある。

監督に会いたくてオーディション会場へ

父・柄本明、母・角替和枝はいずれも俳優。映画や芝居が身近にある環境で育った柄本が、最初に思い描いた将来は俳優ではなく映画監督だった。小学校の卒業文集にも、その夢を書いていたという。

転機は、母のマネージャーから映画のオーディションに応募されたことだった。本人が知らない間に書類選考が通り、俳優志望ではないものの監督に会えるならと会場へ向かい、そこで黒木和雄監督に見いだされた。撮る側に憧れていた少年が、演じる側として映画の現場に入った瞬間である。

その作品が、2003年公開の映画『美しい夏キリシマ』だ。柄本は映画初出演で主演に抜てきされ、太平洋戦争末期を生きる中学生・日高康夫を演じた。空襲で友人を失い、自分だけが生き残った痛みを抱える少年の感情を、大きく説明するのではなく、沈黙や視線の奥ににじませた。

初主演で得た評価が長い道の出発点に

柄本は『美しい夏キリシマ』で、第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞と第13回日本映画批評家大賞新人賞を受賞した。身近に映画があったことは出発点の一部だが、実際に役をつかんだのはオーディションであり、俳優として届いた最初の大きな反応は作品への評価だった。

それから15年後、2018年公開の映画『きみの鳥はうたえる』では、函館で気ままに暮らす「僕」を演じた。軽やかに見える身のこなし、力の抜けた声。その奥から嫉妬や孤独がじわりとのぞき、何げない日常に危うさを残す。柄本は同作などで第92回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞に輝いた。

戦時下の少年を演じた初主演作と、つかみどころのない青年を演じた『きみの鳥はうたえる』。声の温度も、視線の揺れ方も、そこに立つ身体の重さも違う。新人賞から主演男優賞へと続く歩みは、同じイメージを守った結果ではなく、役に応じて自分の見え方を変え続けた軌跡でもある。

表情も声も変わる。それでも残る余韻

2024年放送のNHK大河ドラマ『光る君へ』で演じた藤原道長も、その変化の幅をよく示していた。若いころの率直さをたたえた表情から、政治の中心へ近づくにつれて増していく威圧感と孤独まで、一人の人物に流れる長い時間を少しずつ刻んだ。

穏やかなまなざしのすぐ後ろに欲や迷いをのぞかせ、柔らかな声にも立場の重みを宿す。映画で見せてきた危うさや色気を持ち込みながら、道長という人物の年月に合わせて佇まいを変えていく。その役を見終えたあとには、人物の感情だけでなく、柄本の視線や声の残響までふとよみがえる。

柄本の演技には、役ごとに別の表情を見せながら、どこか忘れがたい余韻が残る。強い個性を前へ押し出すのではなく、役の内側へ置き直すことで、同じ俳優がまったく違う人物として立ち上がるのだ。

20年以上を経てもまた変わる

同じ『おしゃれクリップ』で、柄本は「誰よりも芝居が好きな父の背中を見て育った」と語り、柄本明について「誰よりも自分に厳しく、誰よりも怖がり」と表現した。多くの作品で評価された現在も、その背中を追い続けているという。

2026年公開の主演映画『メモリィズ』では、義父の写真館を手伝いながら家族の記憶と向き合う男を演じた。同年公開の映画『黒牢城』では、黒沢清監督の時代劇ミステリーに雑賀下針役で参加。静かな生活の気配をまとわせる主演作と、緊張感のある群像劇の一角とで、また異なる存在感を見せている。

母の大胆な助言で外見を変えた中学生は、監督に会いたくて出向いたオーディションから、思いがけず俳優の道へ入った。そこから20年以上、作品に選ばれ、役に応じて表情や声、佇まいを変えながら、一本ずつ評価を重ねてきた。

次はどんな人物として現れるのか。予想させながら、簡単には予想どおりにならない。そのたびに新しい表情を見せ、見終えたあとには柄本佑らしい余韻が残る。それこそが、この俳優を何度でも見たくなる理由なのだ。


※記事は執筆時点の情報です

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