1. トップ
  2. エピソード
  3. 「全然見えないんだけど!」子どもの発表会の日、開演の直前に前の席へ座った人。困った私を救ったのは

「全然見えないんだけど!」子どもの発表会の日、開演の直前に前の席へ座った人。困った私を救ったのは

  • 2026.7.31
「全然見えないんだけど!」子どもの発表会の日、開演の直前に前の席へ座った人。困った私を救ったのは

開場と同時に入った席

子どもの発表会の日でした。

開場の時間ちょうどに会場へ入り、中ほどの列のはしに座って、ビデオカメラを三脚に載せます。

舞台の中央に画面を向けたとき、前の列はまだ空いていました。

「そこ、映りますか」

隣に座っていた年配の女性に聞かれて、画面を見せました。

孫の発表を見に来たのだと言います。

「きれいに撮れるのね。うちはこの目で見るだけよ」

やがて客席の照明が落ちて、幕が開きました。

最初は全校の合唱です。

前列の小さい子が、思いきり口を開けて歌っています。

二番目は低学年の劇でした。

台詞をとばした子に、袖から先生の声がそっと届きます。会場に笑いが起きて、拍手が長く続きました。

前の席に立った三脚

次が、うちの子の学年の出番でした。

プログラムを膝に置いて、録画ボタンに指をかけたときです。

入口の扉が開いて、コートを腕にかけた人が早足で入ってきました。

空いていた私の前の席に、荷物を置いて腰を下ろします。

そこまでは、よくあることでした。

その人が袋から大型の三脚を取り出し、脚を広げはじめたときに、手が止まりました。

三脚は、私のカメラの正面に立ちました。

(全然見えないんだけど!)

画面の中の舞台が、黒い脚と背中で半分ほど隠れます。

「あの…」

声が小さすぎたのか、その人はこちらを見ませんでした。高さを合わせるのに夢中で、振り返る様子もありません。

荷物をまとめて、後ろの空席へ移ろうと腰を浮かせました。ちょうど、司会の先生が学年の名前を読み上げたところです。

静かに届いた一声

そのとき、隣の女性が身を乗り出しました。怒った声ではありません。

舞台を見たまま、前の席へ静かに言葉を落とします。

「後ろの方が見えないと思いますよ」

その人の肩が、はっきり跳ねました。振り返って、私のカメラと自分の三脚を順番に見ます。

「すみません、気がつかなくて」

脚を縮めて、三脚を膝の上に抱え直しました。それから、もう一度振り向きます。

「これで、見えますか」

「はい。ありがとうございます」

画面の中の舞台は、元どおりでした。私は座ったまま、録画ボタンを押します。

幕の奥からうちの子が歩いてきて、真ん中の立ち位置で足を止めました。隣の女性が、膝の上で小さく手を叩いています。

発表が終わって照明が明るくなると、前の人が三脚を抱えたまま、こちらへ小さく頭を下げました。ひと言あれば、それで済んだことでした。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ