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「気づいたら目の前に」帰省の帰り道に鹿と衝突した20代女性。元事案担当者が“秋じゃなくてよかった”と言ったワケ

  • 2026.8.5
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「まさか、鹿が出てくるなんて思っていませんでした」

お盆休みが明けた頃、車両保険を主に担当する同僚から、契約者のAさん(20代・女性)の事故について相談を受けました。損害写真から、修理費がどの程度になりそうか、そして鹿との接触による損害と判断できるかを見てほしい、という内容です。

Aさんはお盆休みを利用して帰省し、その帰り道、山あいの国道で事故に遭いました。

事故相手は、鹿でした。

今回は、損害保険会社で事故対応と損害査定を兼任していた私が、同僚から相談を受けたある事例のお話です。

「気づいたときには、もう目の前にいて」

事故が起きたのは夜。街灯のない山あいの国道を、Aさんは実家から自宅へ向かって走っていました。すると突然、道路脇から走り出てきた鹿が、車の左前面に接触。

幸いAさんに怪我はなく、車も自走できる状態。鹿は現場からすぐに立ち去っていったとのことで、どうやら鹿自身にも別条はなかったようです。
「気づいたときには、もう目の前にいて。ハンドルを切る余裕もありませんでした」

Aさんは事故のときの様子をそう振り返っていたそうです。車の損害は、左のフロントバンパーとヘッドライト周り。私の見立てでは、修理費は20万円ほどです。

車の損害写真を見た私は、まず同僚にこう言いました。

「Aさんにとっては本当に災難ですが、この時期でまだ良かった。あと半月もすれば角が硬くなり始めますから、もっと大きな損害になっていた可能性がありますよ」

夏の鹿と、秋の鹿では損害が変わる

ニホンジカのオスの角は毎年生え替わります。春に落ちた角は夏のあいだに袋角と呼ばれる状態で伸びていき、この時点ではまだ血の通った皮膚に覆われた柔らかい角です。この皮が剥がれて硬い骨質の角があらわれるのは、繁殖期を迎える8月末から9月頃にかけてとされています。

そして、この角の変化は、車と接触した際の損害にも違いを与えます。

硬化した角は、接触した車の表面を深く抉ります。しかし本当に厄介なのは、その傷の深さではなく、鹿が接触の際に頭を振ることにより、損害が広範囲に及びがちな点です。

実際に、角が車体を引っ掻いたまま流れていき、フロントフェンダーからドア、リアフェンダーにかけて、傷が伸びている車を見たこともあります。場合によっては、角の先端がガラスを突き破ることもあり、一歩間違えば車内の人間が怪我をしかねない危険もあるのです。

猪(イノシシ)と衝突した車は、全損になった

動物との衝突で私が最も損害が大きいと感じたのは、相手が猪の事例です。

猪は体高が低く、低い姿勢のままフロントバンパーのあたりに突っ込んできます。実際に損害査定をした事故では、強度のある車のフレーム(骨格)が歪み、ラジエーターまで損害がおよんでいました。そのため、修理費が車両保険金額を上回る「全損」の状態となり、結果として車を買い替えることになったケースもあります。

ラジエーターが破損すると冷却水が抜け、気づかずに走り続けるとエンジンの冷却ができずオーバーヒートを起こす可能性があり、大変危険です。

また昨今の車には、事故を未然に防ぐことを目的としたセンサー類が多く取り付けられており、これらは漏れなく高額な部品です。センサーの交換や再調整などを含めて、修理金額が50万円を超えることも珍しくはありません。

「エコノミー型だから対象外」とは限らない

では、Aさんのケースはどうだったのか。

ここで問題になったのが、Aさんの車両保険がエコノミー型(車対車+A)だったことです。エコノミー型は事故の相手が車であることなど、補償する条件を制限する代わりに安く加入できる車両保険です。

今回に関しては、相手は動物。自動車ではありません。ところが、動物との衝突を補償の対象とするかどうかは、保険会社や商品によって異なっています。

車両保険の種類を問わず補償対象とする会社もあれば、エコノミー型では対象外と明示している会社もあります。取り扱いを途中で変更した会社もあり、一律には判断できません。

同僚が約款を確認した結果、Aさんの契約するエコノミー型では補償の対象になるとの案内ができました。

「使えるんですね。よかったです」

Aさんは、そう返したそうです。

なお、走り出てきた動物との衝突で車両保険を使うと、等級は3等級ダウンとなります。一方、飛んできた鳥がぶつかった場合は「飛来中の他物との衝突」にあたり、1等級ダウンとなることがあります。

同じ動物でも、飛んできたのか走り出てきたのかで等級ダウンの扱いが変わるのです。

使うか使わないかを、選べる状態にしておく

Aさんは免責金額(事故の際の自己負担額)を1回目5万円、2回目10万円に設定していました。加えて、20代は保険料の水準が高い傾向があり、等級がダウンしたときの増額幅も大きくなりがちです。

免責金額を引いた保険金の額と、翌年度以降の保険料の上がり幅を比べた結果、今回は保険を使わないと判断しました。

結果としては自己負担での修理ですが、車両保険に入っていたからこそ「使うかどうか」を選べました。入っていなければ、選択肢そのものがありません。

そしてもう一つ。「エコノミー型だから対象外だろう」と自分で結論を出してしまうと、受けられるはずの補償を逃すことがあります。まずは契約内容を確認し、保険会社に問い合わせてみてください。

帰省の道は、年に数回しか走らない道

車両保険を選ぶとき、私たちは無意識に「いつもの道」を思い浮かべています。

通勤路、買い物へ行くスーパー、子どもの送り迎え。その範囲で起こりそうな事故を想定し、必要な補償を決めていくのが一般的です。

しかし帰省や旅行は、その前提の外側にあります。

年に数回しか走らない山道、初めて通る峠、街灯のない夜の国道。行動範囲が変われば、遭遇するリスクも変わるのです。

保険料の安さだけで選ぶのではなく、自分が走る道を思い浮かべながら自分にとって適切な補償範囲を確認したいところです。

「まさか、鹿が出てくるなんて」

その「まさか」は、いつもの道のすぐ外側で待っているのかもしれません。

帰省の予定があるなら、出発前に一度、契約内容を確認しておくことをおすすめします。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、わかりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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