1. トップ
  2. 暮らし
  3. 「前の車がいきなり止まったんです」夏休みの住宅街で3台絡む玉突き事故…ドラレコが捉えていた“急ブレーキの理由”

「前の車がいきなり止まったんです」夏休みの住宅街で3台絡む玉突き事故…ドラレコが捉えていた“急ブレーキの理由”

  • 2026.8.6
undefined
出典:photoAC(※画像はイメージです)

「前の車がいきなり止まったんです」

ある夏の平日のことでした。電話の相手は、私が事故対応の担当をしていた契約者のAさん(40代・男性)。先日、片側一車線の住宅街の道路で、3台が絡む玉突き事故を起こしていました。

Aさんの主張としては、次のようなものです。

「確かに追突した自分が悪い。しかし、追突した原因は前の車の急ブレーキであり、自分は避けようがなかった」

追突事故は、後ろの車の過失が大きくなるのが一般的です。ただし、前の車が理由もなく急ブレーキを踏んでいた場合には、過失割合が修正されることがあります。Aさんが訴えていたのは、まさにその点でした。

果たして、Aさんの言い分は通るのでしょうか。

今回ご紹介するのは、私が実際に担当した玉突き事故の事案。そこには、この季節ならではの要素が隠れていたのです。

「Bさんにも過失があるのではないですか」

事故当時の状況について少し整理します。

車の並びは、先頭からCさん(50代・男性)、Bさん(30代・女性)、Aさんの順です。AさんがまずBさんに追突し、その衝撃でBさんの車が前に押し出され、Cさんに追突する、いわゆる玉突き事故の形でした。

「あの急ブレーキがなければ、ぶつかっていません。Bさんにも過失があるのではないですか」

Aさんは、電話口でそう続けました。確かにAさんの言う通り、理由のない急ブレーキは道路交通法(第24条)で禁止されています。過失割合の一般的な基準においても、前の車が理由のない急ブレーキを踏んだ場合には、追突した側と追突された側の過失割合は、7:3が基本です。

争点となるのは「理由のあるブレーキ」なのか、そうでないのか。私は、まずはBさんのブレーキの理由から確認することにしました。

急ブレーキを踏んだのは、Bさんが最初ではなかった

「私も、前の車が急ブレーキを踏んだから止まったんです。Cさんとの車間は詰まりましたが、ぶつからずに止まれました」

Bさんはこのように説明し、ドライブレコーダーを送ってくれました。

映像の内容を確認すると、Bさんの言う通り、Cさんの急停止の後にBさんが急ブレーキで一瞬静止。そのすぐ後に、後方から押し出される形で、Bさんの車がCさんの車の後部に接触していました。

この映像から、Bさんの急ブレーキはCさんの急停止によるものと確認でき、Bさんには過失がないことが裏付けられたのです。

残る焦点は、Cさんのブレーキ。その理由です。

ドラレコが映していた、止まった理由

「前に横断歩道が見えてきたので、速度を落としていました。そうしたら子どもが、左右も見ないで渡ろうとしたんです」

Cさんは、このように説明しました。私がドライブレコーダーを確認させてほしい旨を伝えると、Cさんは了承。映像データを確認させてもらいました。

映っていたのは、昼間の住宅街です。前方の横断歩道。その脇の電柱の陰から、小学生がわき目もふらずに飛び出そうとします。Cさんは急ブレーキを踏み、横断歩道の手前で急停止。直後に鈍い音とともに車が前方へ押し出されますが、幸い小学生には接触しませんでした。

Aさんが「いきなり」と話したブレーキには、理由があったのです。

止まれなかったのは、Aさんだけだった

3台の動きを整理すると、次のようになります。

Cさんは、子どもとの接触を避けるために急ブレーキを踏み、横断歩道の手前で止まった。Bさんはそれを見てブレーキを踏み、車間は詰まったものの、Cさんにぶつからずに急停止。そしてAさんは、ブレーキが間に合わず、Bさんの車に追突した。

この状況を言い換えると「Aさんの前を走る2台は、それぞれ止まれていた」ということでもありました。

Cさんの急停止には理由があり、Bさんのブレーキはそれに続いたもの。理由のない急ブレーキではない以上、BさんとCさんに過失を求めることはできません。

そして見方を変えれば、Aさんの車間距離と速度は、「前の車の動きに対応できるものではなかった」ということです。

今回のケースでは、Aさんの過失が10割という結論となり、Aさんの対物賠償責任保険でBさん、Cさんの双方に賠償対応を行うことになりました。

横断歩道の手前は「車が止まる場所」

まず、横断歩道を渡ろうとした子どもについてです。

道路交通法(第38条)では、横断歩道を渡ろうとする歩行者がいるときは、車はその手前で一時停止し、通行を妨げてはならないと定められています。横断歩道では、歩行者が優先されるということです。

なお、今回のケースでは、子どもと車の接触はなく、子どもが損害を受けたわけでもありません。そのため、賠償の問題は生じませんでした。

そして後ろを走る車には、前の車が急に停止した場合でも追突を避けられるだけの車間距離を保つことが、法律上求められています。前の車が急に止まることは、「想定しておくべきこと」という位置づけです。

夏休みの時期はより注意が必要

そのうえで、夏休みの時期はより注意が必要です。

学校がある時期なら、子どもの通行は登下校の時間に集中します。しかし、夏休み期間中はプールや習い事の行き来で、平日の昼間でも子どもが歩いています。

加えて、帰省や旅行で、普段は通らない住宅街を走る機会が増えるのもこの季節です。時間帯からも土地勘からも、子どもの動きが読めなくなります。

最後に、この事故で忘れてはならない点があります。3台の車は壊れましたが、Cさんのブレーキのおかげで、子どもには何も起きていません。この事実は不幸中の幸いといえるでしょう。

「前の車が、いきなり止まった」

そう感じたとき、その先には理由があるかもしれません。

Aさんは「避けようがなかった」と話していましたが、同じ場面で、前を走る2台は止まっています。「避けようがあったかどうか」は、ぶつかる前に決まっているのです。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】

の記事をもっとみる

注目コンテンツ