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「キスする男」から本物のホストへ。理想の男を演じる俳優の“女性を魅了する才能”の行方

  • 2026.7.30
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2009年9月、ファッションショー「神戸コレクション2009秋・冬」にシークレット出演した山本裕典(C)SANKEI

俳優がドラマの中で女性を魅了することと、現実の世界で女性の心をつかむことは、似ているようでまったく違う。ドラマには、相手へかける言葉が書かれた台本がある。カメラは最も美しく見える角度から撮影し、編集や音楽がときめきを増幅させる。だが、実際のホストクラブには台本がない。目の前の相手が何を求め、どんな言葉を待っているのか。その場で見抜き、「もう一度会いたい」と思わせなければならない。

そんな世界へ飛び込んだのが、山本裕典だった。

ABEMA『愛のハイエナ』の人気企画「山本裕典、ホストになる。」では、かつて数々の学園ドラマや恋愛作品で女性を魅了した俳優が、実際にホストとして接客し、売り上げや人間関係に向き合う姿が映し出されている。不思議なのは、山本にとって「ホスト」が、突然現れた題材ではないことだ。その原点は、俳優として華やかな注目を集めていた時代の代表作に、すでに表れていた。

キスをするたび、物語が動いた

2013年放送のフジテレビ系ドラマ『山田くんと7人の魔女』で、山本が演じたのは問題児の高校生・山田竜だった。この作品では、キスをすることで相手と体が入れ替わったり、特殊な能力が発動したりする。恋愛の到達点としてではなく、物語を動かすためにキスが繰り返されるという異色の設定だった。

山本は西内まりやをはじめ、さまざまな共演者とのキスシーンに挑んでいる。一般的な恋愛ドラマなら、一度のキスを迎えるまでに何話もかけて二人の距離を縮めていくが、この作品ではキスが特別な一回ではない。

相手が変わり、意味が変わり、何度も繰り返される。

それでも一つひとつの場面が同じに見えなかったのは、そこに恋愛感情だけではない、戸惑いや勢い、驚き、笑いが含まれていたからだろう。山本は、キスをロマンチックな見せ場として演じるだけでなく、作品を展開させる軽快なアクションとして成立させていた。キスの多さそのものが、俳優としての華やかさや、相手との距離を一瞬で縮める力を際立たせていたのである

“女性をもてなす男”を演じた若手時代

『山田くんと7人の魔女』より前、山本はドラマでホストを演じていた。2011年放送のTBS系ドラマ『桜蘭高校ホスト部』で演じた須王環は、名門校の女子生徒をもてなす「ホスト部」の部長だ。

もっとも、環は夜の街で働く現実のホストとは異なる。

きらびやかな衣装を身にまとい、大げさな言葉や振る舞いで女性を楽しませる一方、好きな相手を前にすると途端に不器用になる。格好よさと、どこか抜けた愛らしさ。相手を喜ばせようとするサービス精神と、自分の感情には鈍感な純粋さ。山本の明るさや華やかさは、この環という人物に強く重なっていた。

そこでは、ホストとは女性から金を引き出す仕事ではない。女性が望む夢を演じ、日常を忘れさせる時間を提供する存在として描かれていた。山本は若手時代から、「相手が求める理想の男性を演じる役」を託されていたのである

台本のない世界でも、女性を魅了できるのか

それから十年以上が過ぎ、『愛のハイエナ』で山本は本物のホストクラブへ入った。そこでは、きらびやかな衣装を着て笑顔を見せるだけでは通用しない。俳優としての知名度があっても、客が指名し、実際に金を使わなければ結果には結びつかない。売り上げをめぐる焦りや、周囲との衝突、後輩をまとめる難しさも隠されずに映される。

若い頃の山本が演じていたのは、登場するだけで女性を魅了する男性だった。しかし、『愛のハイエナ』にいる山本は、女性を魅了できるかどうかを毎回試されている。

相手の話を聞き、場の空気を読み、求められている自分を見せる。ときには自信を振りまき、ときには弱さや人間くささをさらけ出す。必要なのは、顔のよさや知名度だけではない。相手が自分のために用意されたと感じられる時間をつくり、「また会いたい」と思わせる力だ。ドラマのキスシーンでは、山本が唇を近づければ物語が動いた。

『桜蘭高校ホスト部』では、華やかに振る舞えば周囲の女性が笑顔になった。だが、現実のホストには決められた反応も結末もない。女性の反応を読み違えることもあれば、思うように数字が伸びないこともある。演じてきたホストと実際のホストの間には、簡単には埋められない距離があった。

キスとホストに共通する“距離の縮め方”

一見すると、『山田くんと7人の魔女』のキスと、『桜蘭高校ホスト部』や『愛のハイエナ』のホストは、別々の題材に思える。しかし、そこには共通点がある。どちらも、相手との距離を一気に縮める行為なのだ。

『山田くんと7人の魔女』では、キスをした瞬間に相手と体が入れ替わり、それまで見えなかった事情や感情へ触れることになる。ホストもまた、初対面の相手と短い時間で距離を縮め、普段は見せない悩みや欲望を引き出す仕事だ。ただし、キスをすれば自動的に物語が動くドラマとは違い、現実では相手の心を開かせる保証はない。

山本は、若い頃には華やかな容姿と勢いで距離を縮める役を演じていた。だが『愛のハイエナ』では、年齢や経験を重ねた一人の男性として、もっと不器用で生々しい形で人の心へ踏み込もうとしている。そこには、俳優として完成された美しい姿だけではなく、焦りやプライド、空回りもある。それでも山本から目を離せないのは、うまく女性を魅了する姿だけではなく、魅了しようともがく姿までさらけ出しているからだろう

演じていた男に、自分自身が近づいていく

『山田くんと7人の魔女』では、キスをすることで相手と入れ替わった。『桜蘭高校ホスト部』では、女性が求める理想のホストを演じた。そして『愛のハイエナ』では、山本裕典本人がホストの世界へ入り、自分にどれだけ人を引きつける力があるのかを試されている。

かつて役として与えられていた「女性を魅了する男」が、十数年を経て、本人の生き方と奇妙に重なった。もちろん、ドラマのキスと現実の接客は同じではない。それでも、相手との距離を縮め、求められている自分を見せるという点では、どこかでつながっている。

キスを重ねた学園ドラマも、華やかなホスト部も、現在の山本裕典を予告していたわけではない。しかし、過去の役柄を知ったうえで『愛のハイエナ』を見ると、偶然とは思えない一本の線が浮かび上がる。若い頃、山本裕典は台本の中で女性を魅了していた。現在は、台本のない場所で、その力が本物なのかを問い続けているのである。


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