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「甲子園の土を20キロ持ち帰った」元・高校球児。少年院で「命の授業」をする“全力芸人”とは

  • 2026.7.30
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2014年12月、少年院での講演活動が評価され、表彰状を受け取るゴルゴ松本(C)SANKEI

甲子園で敗れた高校球児たちが、グラウンドの土を袋に詰める。高校野球を象徴する、切なくも美しい光景だ。選手たちは涙を浮かべながら、青春の思い出が詰まった土をそっと持ち帰る。

しかし、なかには「そっと」では済まなかった球児もいる。

お笑い芸人のゴルゴ松本は、高校3年生のときに春の甲子園へ出場。その際、甲子園の土を約20kgも持ち帰ったという。20kgといえば、スーパーで売られている米袋なら10kg入りが2つ。少し大きな子ども一人分に近い重さである。もはや記念品ではない。

仕入れである。

「命!」で知られるゴルゴ松本とは?

ゴルゴ松本は、レッド吉田とお笑いコンビ・TIMを結成し、1990年代からバラエティー番組などで活躍してきた芸人だ。代表的な持ちネタは、両腕と片脚を大きく広げ、全身で漢字を表現する人文字ギャグ。なかでも大声で叫ぶ「命!」のポーズは、コンビや本人の名前を知らなくても、見覚えがある人は多いかもしれない。

現在は芸人として活動する一方、少年院や学校などを訪れ、漢字を題材に人生や生きることについて語る「命の授業」も続けている。そんなゴルゴには、芸人になる前に夢中になっていたものがある。

野球だ。

埼玉県立熊谷商業高校の野球部に所属し、1985年春の選抜高校野球大会に出場。同じ大会には、PL学園の桑田真澄や清原和博、東北高校の佐々木主浩ら、後にプロ野球界を代表する選手となる高校球児も出場していた。つまりゴルゴは、「野球が得意な芸人」という程度ではない。本当に甲子園のグラウンドまでたどり着いた元高校球児なのである。

土を持ち帰るというより、グラウンドを削っていた

ゴルゴもほかの高校球児と同じように、試合に敗れたあと、甲子園の土を持ち帰ろうとした。

ただし、集め方が違った。少量の土を手で拾い、袋に詰めたのではない。スパイクを使い、グラウンドをガンガンと削り始めたという。その勢いは、審判から注意されるほどだった。甲子園の土を集めて怒られる高校球児も珍しい。

しかし、審判からすれば当然だろう。ほかの選手が思い出を持ち帰っている横で、一人だけ本格的な採掘作業を始めているのだ。放っておけば、ゴルゴがいた場所だけ内野の高さが変わっていたかもしれない。それほど夢中で集めた結果、持ち帰った土は約20kgに達した。甲子園の土を詰めた小袋なら、ユニホームのバッグにも入るだろう。

20kgとなれば話は別だ。記念品というより荷物であり、帰宅するまでの間にも「なぜ自分は大量の土を運んでいるのか」と我に返りそうな重さである。

美談に収まらないところがゴルゴ松本らしい

甲子園の土を持ち帰ったエピソードは、通常なら涙や青春を交えて語られるものだ。しかし、ゴルゴの場合は約20kgという数字が強すぎる。敗退の悔しさも、高校野球への思いもあったはずなのに、話の最後には「持って帰りすぎだろう」という笑いが残る。そこが、いかにもゴルゴ松本らしい。

ゴルゴの人文字ギャグも、動きを小さくまとめていたら、これほど記憶には残らなかっただろう。両腕と片脚を限界まで広げ、大声で「命!」と叫ぶ。漢字を表現するだけなのに、必要以上に体力を使い、必要以上に熱い。冷静に見れば、かなりばかばかしい。だが、本人が一切手を抜かず、全身でやり切るからこそ笑いになる。

甲子園の土を20kg集めた行動にも、同じものがある。少しでいい場面でも、少しでは終われない。ゴルゴ松本の芸風は、芸人になってから作られたものではなく、高校球児のころから完成しかけていたのかもしれない。

笑わせる全力が「命の授業」へ

ゴルゴは2011年から、少年院などでボランティア講演を始めた。やがて「命の授業」として全国の学校や施設でも講演するようになり、漢字の成り立ちや言葉を独自に読み解きながら、生きることや挑戦することの大切さを伝えている。

「命」という文字を全身で表現していた芸人が、今度は言葉として命を語る。

一見すると、ギャグから講演活動への大きな転換に見える。しかし、ゴルゴ本人の姿勢は、それほど変わっていないのではないだろうか。相手に何かを届けるとき、中途半端に済ませない。大きな声を出し、体を動かし、ときには笑いも交えながら、目の前の人へ全力でぶつける。静かに語れば数分で済む内容でも、ゴルゴは全身を使って伝える。

甲子園の土を少し持ち帰れば済んだのに、20kg集めてしまった高校球児と同じだ。

やりすぎる。

だが、そのやりすぎるほどの熱量が、見る人を笑わせ、ときには誰かの心を動かす。

持ち帰った土の量まで、やっぱり「命」だった

甲子園の土を持ち帰る高校球児は大勢いる。だが、グラウンドをスパイクで削り、審判から注意され、約20kgもの土を持ち帰った選手は、そう多くないだろう。美談だけでは終わらず、「もはや業者ではないか」という笑いが生まれるところに、ゴルゴ松本という人物の魅力がある。ほどほどでは終われない。青春にも、笑いにも、言葉にも、必要以上の熱量を注ぎ込む。甲子園から大量の土を運び出した高校球児は、後に全身で「命」を表現する芸人となり、現在はその命について人々の前で語っている。

何をするにも少しやりすぎる。

そのサービス精神と全力さこそ、ゴルゴ松本が長く人の記憶に残ってきた理由なのかもしれない。


※記事は執筆時点の情報です

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