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8年前、イケメン俳優と“キス”を何回も重ねた「ヒロイン女優」成人指定作品で映画賞を受賞した“実力派”とは

  • 2026.7.28
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2019年12月、「エル シネマアワード2019」授賞式に出席した門脇麦(C)SANKEI

恋愛ドラマにキスシーンはつきものだが、キスそのものが全編通してストーリーを動かすアイテムとなっているのは少々めずらしい。2018年に日本テレビ系で放送された『トドメの接吻』は、その数少ない例外だった。門脇麦が演じた佐藤宰子は、山﨑賢人が扮する主人公と濃厚なキスを繰り返す。触れるたびに話が動き、関係が組み替わっていく。この作品でくちびるが果たしていたのは、色気の演出ではなく、物語を先へ進める役目だった。

演じる側からすれば、これは相当に負荷の高い仕事である。恥じらって引けば嘘になり、割り切って流せば物語のほうが冷えてしまう。門脇麦は、その種の負荷を正面から引き受けてきた俳優だ。そして、こうした役は演技が達者というだけでは回ってこない。退路のない仕事ばかりが集まる人には、それだけの理由がある。

逃げ場のない一作から始まった

門脇が広く知られるきっかけは、2014年公開の映画『愛の渦』だった。性行為を主軸とした成人指定の作品でヒロインを務め、身体をさらす場面から一歩も引かずに立っている。露悪に振り切ることもなく、恥じらいで画面を濁すこともない。その場に置かれた女性の体温だけを保ち続けるような芝居だった。怖いもの知らずの若さで押し切った、という種類の仕事ではない。この一本が注目を集め、映画賞では新人として名前が呼ばれた。

キャリアの入口でこうした作品を通過した俳優は、その後の呼ばれ方が変わる。演技がうまいという評価より先に、難しい場面を渡しても崩れない相手だという判断が、作り手の側に共有されるからだ。門脇のもとに負荷の高い役が集まっていく道筋は、ここから始まっている。出発点で引き受けたものが、そのまま仕事の輪郭を決めたのだった。

くちびるが物語を動かす

『トドメの接吻』で門脇が引き受けたのは、キスが物語の鍵になるという設定を、芝居として成立させる仕事だった。このドラマで、宰子は主人公と幾度もくちびるを重ねる。会話よりも先に接触で関係が進み、回を追うごとにキスの意味が変わっていく。救うためのキスもあれば、確かめるためのキスもある。同じ動作なのに、そのつど温度も距離も違う。門脇はそれを、表情を作り分けるのではなく身体の力の入れ方で描き分けた。

くちびるが触れるたび、宰子という人物の切実さのほうが濃くなっていく。しかも用意された場面は、男女の間だけではなかった。窮地の相手を助けるために、女性同士でくちびるを合わせる展開まで組み込まれている。話題として扱われやすい場面である。だが門脇の芝居からは、見せ場を意識した力みが出てこない。必要だからそうする、という顔でやりきってしまう。

キスでストーリーが進む物語は、演じ手が一度でも照れた瞬間に土台から崩れる。作り手がこの役に門脇を置いたのは、そこを崩さない俳優だと踏んだからだろう。求められていたのは大胆さではなく、接触の一つ一つに別の意味を負わせられる精度のほうだった。

濃厚な場面を重ねる役は、演じる側にとって難度が高い。少しでも自意識がにじめば、物語ではなく行為だけが画面に残ってしまう。門脇はくちびるを見せ場としてではなく、役に課された仕事として扱いきった。艶を消したわけではない。艶ごと物語の側へ運んだのである。

主演女優賞という裏書き

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2019年撮影、FM802公開収録に参加した映画「さよならくちびる」主演の女優、小松菜奈(左)、門脇麦(C)SANKEI

キスの多い役で名前が広がった時期は、そのまま映画での評価が固まっていく時期でもあった。2018年公開の白石和彌監督作『止められるか、俺たちを』では主演を務め、第61回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞している。翌2019年の映画『さよならくちびる』では小松菜奈とともに主演し、第41回ヨコハマ映画祭の主演女優賞を受けた。2年続けて、主演としての評価がはっきりと形になった。

もっとも、この2つの賞は、門脇が新しい技術を身につけた印ではない。入口から続けてきた引き受け方が、主演という重い位置でもそのまま通用すると確かめられた印である。負荷の高い場面を、負荷の高い場面として観客に意識させない。役の内側の温度が保たれたまま、観る側は物語だけを追っていられる。地味な資質だが、作品の中心を任せる側にとっては最も欲しいものでもある。主演は画面に映る時間が長いぶん、ごまかしのきかない場所だ。難しい場面をいくつ越えたかではなく、越えたことを感じさせないまま一本を運びきれるかどうかで測られる。2018年と2019年、門脇はそれを示した。

賞が拾い上げたのは、話題になった役の数ではなく、どんな役を渡されても画面の重心が揺れないという一点だった。

変わらない構えで次の役へ

その構えは、いまも変わっていない。2026年2月から始まったWOWOWの『ながたんと青と -いちかの料理帖-』第2期で、門脇は引き続き主演を務めた。2026年8月には、日中韓の合作映画『ゴースト・オブ・ウエノ』が公開される。上野を舞台にしたこの作品でも、門脇は主演だ。

10年以上にわたって、この俳優は難しい役を渡され続け、その一つ一つを、身をもって受け止めてきた。キスの多い役も、身体をさらす役も、門脇の手にかかると挑戦の記録ではなく仕事の記録になる。消費されやすい題材を、この人は毎回、静かな結果へ変えてきた。次にどんな負荷が回ってきても、きっと同じ顔で受け取るだろう。逃げないことを流儀にするとは、そういうことなのだ。


※記事は執筆時点の情報です

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