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市川團子さんインタビュー「ヒーローのようだった祖父の思いを継いで、ひたむきに」

  • 2026.7.2
YOSHIYUKI NAGATOMO

涼やかで、穏やかな素顔と舞台で見せる圧倒的な熱量。その両極の魅力を併せもち、輝きを放つ、歌舞伎界の若き俊英――22歳の團子さんが今夏、挑戦するのは、スーパー歌舞伎の新作『もののけ姫』。大役に臨む覚悟と共に、歌舞伎にかける熱い思いを伺いました。

澤瀉屋の情熱とアシタカのひたむきさ

――スーパー歌舞伎は、團子さんの祖父である二世市川猿翁さんが創始してから、今年で40周年。第1作となる『ヤマトタケル』は今や古典といわれるほど上演を重ね、團子さんにとっては14年前にワカタケルとして初舞台を踏んだ思い出深い作品でもあります。おととしには4都市でのロングラン公演で主役のヤマトタケルを勤め、大好評を博しました。

自分の演技の基礎になっている作品です。5カ月にわたって上演されたおととしは、毎日舞台のビデオを撮ってもらい、客観的に見直して研究する日々でした。歌舞伎は先人たちの工夫の積み重ねによって今に継承されていますが、ひとつのお役を繰り返し演じることで、改めてその〝工夫〟の大切さを実感しました

――『ヤマトタケル』の初演の筋書で、二世猿翁さんは「これからの新作歌舞伎の在り方やその可能性を求める冒険への旅立ちである」と思いを語っています。その冒険を受け継ぐ團子さん。7、8月の新橋演舞場で、スーパー歌舞伎の新作に初めて挑みます。原作はスタジオジブリの宮﨑駿監督による名作『もののけ姫』。自然と人間が対峙する物語を大きなスケールで描いた映画が、スーパー歌舞伎の新たな扉を開きます。

歌舞伎はデフォルメ、様式美の演劇なので、『もののけ姫』の壮大な世界観や絵面の美しさと親和性が高いと思うんです。作品の根底に流れる深いテーマ性もこれまでのスーパー歌舞伎と相通ずるものがあります。

ただ、大きく違うのが、『ヤマトタケル』や『新・三国志』のように原作が『古事記』や『日本書紀』『三国志演義』といった古典ではないこと。四半世紀にわたって愛されてきた『もののけ姫』は、皆さんのなかに原作映画のイメージが強くありますよね。その名作と歌舞伎をどう融合させていくか。そこが難しさであると同時に、よい化学反応を起こすチャンスだと思っています。僕も大好きな映画ですので、原作へのリスペクトを大切に臨みたいです。

――團子さんが演じるのは、村を追われ、呪いを受けながらも森と自然の共生の道を懸命に模索する少年、アシタカ。

アシタカは孤独ですよね。でも、その運命と果敢に向き合い、決して腐らずに自分の信念を貫き続けている。森に生きるサンとタタラ場を統率するエボシ御前、ふたりの思いを受け止め、みんながよい方向に進めるように必死に闘っている。ひとつひとつのひたむきな行動が、“バタフライエフェクト”となって、未来に大きな影響を及ぼしていくのではないか、と思います。今回映画を改めて見直し、エボシ御前が最後に言う『ここをよい村にしよう』という言葉にも、その一歩を感じました。

――アシタカの人物像は「ヤマトタケルにも通じる」と話しますが、そのひたむきさは團子さんにぴったりなイメージです。

アシタカは寡黙で、僕はおしゃべりですから(笑)。寡黙なかっこよさに憧れます。

祖父がよく『役者は上手いかきれいか一所懸命か、どれかひとつはないといけない。自分は上手くもきれいでもないから、ただ一所懸命やってきた』と言っていたそうです。僕からすれば、祖父はヒーローであり、三つとも兼ね備えていると思うのですが。でも僕は本当に一所懸命やるしかありません。舞台にかける情熱は澤屋の色でもありますから、一所懸命に勤めて、少しでもアシタカのひたむきさに近づきたいと思っています。

取材の最後、「もうひとつ大事なことが!」と團子さん。歌舞伎が初めての方へのアドバイスをくださいました。「歌舞伎はネタバレOKの演劇なんです。言葉が少し難しい古典も、あらすじをすべて知ったうえで観ていただくと、面白さが段違いになると思います。事前に読むことができなかった際は、イヤホンガイドを借りてみてください。歌舞伎の魅力に触れていただけたら嬉しいです」 YOSHIYUKI NAGATOMO

芸は人なり。人間性を磨いていきたい

――團子さんが背中を追い続ける二世猿翁さんが亡くなったのは、3年前。そのとき、南座で『新・水滸伝』に出演中だった團子さんは、終演後に偶然「アシタカせっ記」を聴いたそうです。

「気持ちが沈んだまま、なんとなく音楽を聴いていたら、流れてきたんです。とっても胸に響き、勇気をもらえました。ジブリ映画の曲だとは知っていたのですが、タイトルまではわからず、帰ってから曲名を調べたんです」

――その作品が、團子さんにとっての初のスーパー歌舞伎での新作となりました。不思議な巡り合わせです。

アシタカのお役の話をいただいてから、ふと、あの日のことを思い出して。祖父の導きを感じました。『もののけ姫』の音楽は本当に素敵ですよね。宮﨑駿監督と久石譲さんがとことん突き詰めて作り上げたと聞きました。美しい旋律が流れた瞬間に、雄大な太古の森が脳内に広がり、孤独のなかにある希望の光を感じるんです。アシタカを勤めるうえで、背中を押してくれると思います。

――その音楽を劇場の素晴らしい音響で毎日聴くことができることも楽しみだと目を輝かせる團子さん。

お客さまもきっと没入できますよね。この作品は自然との共生が大きなテーマではありますが、情報が溢れる今の世の中で、改めて『正しさとは何か』という自分の軸を問い直されるところがあると思います。劇場空間で、いろいろなことに思いを巡らせていただけたら嬉しいです。

――今回の新作創りにあたり、「歌舞伎をいつも観ていただいている皆さまに楽しんでいただけること、そして初めて観ていただく皆さまにも楽しんでいただけること」を大切にしたいと話します。

それは、祖父がすごく意識していたことです。スーパー歌舞伎は、現代の人にも歌舞伎の魅力を届けるということがひとつの目的で始まったもので、台詞がほぼ現代語なんです。現代の人に響くストーリーとテーマ性をもちながら、演出は古典作品からの換骨奪胎で、歌舞伎独特の魅力的な演出をふんだんに使う。

先ほどお話ししたように、演出も美術も衣裳もリアルを誇張した、デフォルメの様式美。リアルを超えたリアルなんです。真実を超えた真実が味わえる。それを一度でも観てしまったら、もうきっと歌舞伎沼です(笑)。感動を超えた規格外の感動が押し寄せてくるんですよね。今回も全世代の方に楽しんでいただけるように、横内さんの演出のもと、全力を尽くしてアシタカのお役を創っていきたいと思っています。今、歌舞伎は難しいんじゃないかな?と迷っている方は、ぜひ劇場にいらしてみてください!

――歌舞伎の魅力を伝えたいという思いが溢れる團子さん。今春に大学を卒業し、社会人としてのスタートを切りました。これから、目指していきたい姿は?

祖父は『芸は人なり』と言っていたそうです。役者の魅力は最終的にはその人の人間性で決まる。その言葉を胸に自分としっかりと向き合い、人間性を磨いていきたいです。

市川團子さん
PROFILE
2004年1月16日生まれ。市川中車の長男。祖父は二世市川猿翁。'12年6、7月新橋演舞場『ヤマトタケル』のワカタケルで五代目市川團子を名乗り初舞台。5月は祖父の当り役『獨道中五十三驛』の早替り舞踊に取り組み、評判を呼んだ。

スーパー歌舞伎『もののけ姫』
宮﨑駿監督が原作・脚本を手がけた名作アニメーション映画『もののけ姫』が、スーパー歌舞伎として初めて歌舞伎舞台化。原作の壮大な世界観とスーパー歌舞伎のダイナミックな演出が融合する、必見の公演です。

日程:7月3日(金)~8月23日(日)
※7月8・13・21・27・31日、8月3・10・17日は休演日
劇場:新橋演舞場
原作:宮﨑 駿 オリジナル音楽:久石 譲
脚本:丹羽圭子 戸部和久 演出:横内謙介
協力:スタジオジブリ 製作:松竹
出演:市川團子、中村壱太郎、中村時蔵、市川中車ほか
●チケットホン松竹 tel.0570-000-489

ジャケット¥93,500 シャツ¥35,200(2点共アンセルム)

Photos : YOSHIYUKI NAGATOMO
Hair&Make-up : CHISATO MORI
Styling : NAO NAKANISHI
Interview & Text : NATSUKO OHKI

25ans(ヴァンサンカン)8月号掲載(2026年6月26日発売)

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