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判明したばかりの「鳥を食べるコウモリ」の捕食行動、実は400年前の絵画に描かれていた

  • 2026.7.1
『Air』(1647)/ Credit: en.wikipedia

空飛ぶコウモリといえば、主に昆虫を食べるイメージが強いでしょう。

ところがヨーロッパには、渡りの途中の小鳥を空中で捕まえ、そのまま飛びながら食べるコウモリがいます。

この驚くべき行動は、近年になって最新の観測機器によってようやく確認されたばかりです。

しかし新たな研究によると、その捕食シーンは、実は400年以上前の絵画にすでに描かれていた可能性があるといいます。

スペイン・ドニャーナ生物学研究所(Doñana Biological Station)の研究チームは、フランドルの画家ヤン・ブリューゲル(父)が1611年に描いた油彩画『Air(空気)』を分析。

その結果、絵の中に「鳥をくわえたコウモリ」が描かれていることを発見したのです。

研究の詳細は2026年6月29日付で学術誌『PNAS』に掲載されています。

目次

  • 400年前の絵に隠れていた「鳥を食べるコウモリ」
  • 絵画は「見過ごされてきた自然観察の記録」かも

400年前の絵に隠れていた「鳥を食べるコウモリ」

ヤン・ブリューゲル(1568〜1625)は、現在のベルギー出身の画家で、父親はかの有名なピーテル・ブリューゲル(1525?〜1569)です。

いわゆる「ブリューゲル」の名前で世界に知られているのは、こちらの父親の方です。

しかし、今回の驚くべき発見がなされたのは、息子のブリューゲルの作品でした。

ヤンの作品『Air』は、空に関係する生き物や神話的モチーフを描いた寓意画です。

『Air』(1647)/ Credit: en.wikipedia

作品には、鳥やコウモリなど60種以上の動物が細かく描き込まれており、その中にはヨーロッパ在来の鳥類や外来の鳥、家禽なども含まれています。

研究チームが注目したのは、画面の中に描かれた1匹のコウモリです。

そのコウモリは、体の大きさや赤褐色の色合い、耳や翼の形から、ヤマコウモリ属(Nyctalus)に近い特徴を持っていました。

さらに興味深いことに、その口には小鳥がくわえられていたのです。

これは、単なる不気味な演出では済まされない描写です。

なぜなら、ヤマコウモリ属の中でもオオヤマコウモリ(Nyctalus lasiopterus)は、実際に渡りをする小鳥を捕食することで知られているからです。

オオヤマコウモリはヨーロッパ最大級のコウモリで、通常の昆虫だけでなく、夜間に移動するスズメ目の鳥を捕まえることがあります。

実際の絵画と拡大部分、およびオオヤマコウモリの画像/ Credit: Romero-Vidal et al., PNAS, 2026 / CC BY-NC-ND 4.0

ただし、この行動は長い間、直接観察が非常に困難でした。

夜の高空で起こるため、人間の目で確認することが難しかったからです。

そのため、科学者たちは最初、糞の中に残された鳥の羽毛などから、このコウモリが鳥を食べている可能性を調べていました。

そして近年、バイオロギング装置や音響記録、高度や動きのデータを組み合わせることで、オオヤマコウモリが飛行中の小鳥を捕らえ、空中で食べることが直接確認されました。

つまり、現代科学が最新技術でようやく確かめた行動が、約400年前の絵画にすでに描かれていた可能性があるのです。

ではブリューゲルは、いったいどうやってこの行動を知ったのでしょうか。

絵画は「見過ごされてきた自然観察の記録」かも

チームは、ヤン・ブリューゲルが実際に夜の高空でコウモリの狩りを見たと断定しているわけではありません。

歴史的な絵画、とくに寓意画には、象徴的な表現や空想的な要素が含まれることが多いからです。

そのため、「鳥をくわえたコウモリ」が描かれているからといって、それだけで400年前にこの行動が科学的に観察されていたとは言えません。

しかしチームは、この描写には注目すべき点があると考えています。

まず、鳥をくわえているのが、ほかのコウモリではなく、ヤマコウモリ属らしい個体であることです。

また、くわえられている鳥も、スズメ目の小鳥のように見える点が重要です。

これは、現在知られているオオヤマコウモリの捕食行動とよく対応しています。

ヤン自身が珍しい昼間の捕食場面を目撃した可能性もあります。

あるいは、当時の人々がコウモリの糞に混じった鳥の羽毛に気づき、「このコウモリは鳥を食べる」と経験的に知っていた可能性もあります。

また、誰かから聞いた自然観察の話を、画家が作品の細部に取り入れたのかもしれません。

いずれにしても、この絵画は、芸術作品が単なる美術史の資料にとどまらないことを示しています。

昔の画家たちは、動物の姿や行動を驚くほど細かく観察し、それを作品の中に描き込んでいました。

その中には、現代の科学者が後から重要性に気づく情報が眠っている可能性があります。

現在、世界中の美術館や博物館では、所蔵作品のデジタル化が進んでいます。

高解像度画像として作品を見られるようになれば、専門家や画像解析ツールによって、これまで見過ごされてきた動物の描写を調べやすくなります。

今回の研究は、古い絵画が過去の生物多様性や動物行動を知る手がかりになりうることを示す好例です。

400年前のキャンバスに描かれた小さなコウモリは、科学がようやく追いついた自然の一場面を、静かに記録していたのかもしれません。

絵画は、ときに美しさだけでなく、失われかけた自然観察の記憶も残しているのです。

参考文献

A 400-Year-Old Painting Caught Bats Eating Birds Before Science Did
https://www.sciencealert.com/peculiar-bat-behavior-revealed-in-a-400-year-old-painting

元論文

Natural history on canvas: Brueghel knew about bird-eating noctule bats
https://doi.org/10.1073/pnas.2536525123

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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