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【注目アーティストfile.31】写真と絵画の関係性を探求し続ける――田中和人

  • 2026.2.27
KATSUO TAKASHIMA[BOW PLUS KYOTO]

ファッションのスタイリングを楽しむように、もっと気軽にアートを生活に取り入れてほしい――そんな思いでキュレーションしたアート作品をELLE SHOPで販売中! 今回は、東京発の現代アートギャラリーKANA KAWANISHI GALLERYディレクター河西香奈さんとタッグを組み、アーティスト田中和人さんに注目。写真と絵画の境界線を越える作品を生み出す創造の裏側と、表現へと託す思いをインタビューした。作品の詳細・購入はELLE SHOPへ。

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KANA KAWANISHI GALLERYディレクター河西香奈さん YOKO YAMASHITA

「田中和人さんは、ニューヨークで写真を学び、写真の具象性と抽象絵画のアブストラクトな面、それぞれ魅力的ですが、ひとつの作品にそのふたつのおもしろさを共存させようとしているアーティストです。今回ELLE SHOPで展開する作品にもそのおもしろさが詰まっています」

Videographer : AZUSA TODOROKI[BOW PLUS KYOTO] Video Editor : YUMI KONDO Title Design : NURAN DEMIR

一冊の写真集をきっかけに、突き動かされるように写真の道へ

写真とは。絵画とは。そして抽象とは何か。自身のなかに点滅し続けるこの問いを作品にしているのが田中和人さん。きっかけは会社員時代、ライフスタイル雑誌で目にした一冊の写真集だという。

「大学の商学部を卒業して会社に就職したのですが、入社間もないある日、たまたま『SWITCH』という雑誌のなかに、ロバート・フランクという写真家の写真集『The Americans』が紹介されていたんです。彼は、スイスからアメリカに移住した移民で、言わば、よそ者の視点でアメリカ全土を車で旅しながら人々を撮ったものでした。それを観た瞬間、直感的に『自分も写真をやらなくてはいけない』と思いました」

最初のボーナスでCONTAX GIというカメラを買った。「カメラのことなど何も知らなくて、見た目が格好良かったのでこれを買いました。それなりに高かったけれど、オートフォーカスのカメラでした。最初のうちは空いた時間に身の回りのものや友達を撮影して、写真屋さんでフィルムを現像してもらってプリントを受け取って、誰にも見せずに、ただ自分だけが見るということを、ひたすら繰り返していました。あの頃が一番写真を撮っていたかもしれない」

やはり写真を本格的に勉強したい。とはいえ今から日本の美大に入るのも大変だし、写真の専門学校というのもピンと来ない。そんななか、ニューヨークで学ぶというアイデアが浮かんだ。「ニューヨークの空気感が好きで、大学時代にも一人旅をしたりしていたんです。調べてみると現実味が帯びてきて、会社勤めをしながら4年間英語の勉強と貯金をして、26歳で飛び立ちました」

ただひたすら、写真と絵画の関係性を考える

「 Picture(s) ♯118」(H343×W253×D68mm、2024) Kazuhito Tanaka

ニューヨークの美術大学で4年間写真とアートを学び、帰国後は京都でアーティストとして活動している。しかしいわゆる「写真家」になったわけではない。田中さんのもうひとつの大きなテーマが「抽象」だ。「映画やアートなどを観るのは昔から好きでした。東京の大学生の頃、セゾン美術館で開かれていた、アメリカの抽象絵画展に足を運びました。そのとき、彼らの作品が自分の世界を見るときの感覚とすごく近いものを感じて。それ以来ずっと『抽象とは何か』『絵画を見るとはどういうことなのか』ということを現在に至るまで考え続けています」

こうした思考がつながりあって、現在の作風が生まれた。「2008年頃から20近く、さまざまなシリーズを作っているけれど、一貫しているのは、『写真と絵画の関係性』と『抽象』。いろんな角度からそれを検証しています」。今回ELLE SHOPに出品するシリーズ「Picture(s)」は、作品を作り始めてからずっとこのテーマと向き合ってきたなかで最も端的に表現できているシリーズ、と田中さん。「キャンバスの半分にアクリル絵の具で描かれた絵画、もう半分には写真のコラージュ的な部分。写真と言ってもカメラを使わず、暗室で露光させて発色させたカラーフォトグラムです」

『Picture(s)』のコラージュ部分を構成する、暗室で印画紙を露光させて発色させたカラーフォトグラム。 Kazuhito Tanaka

こうした作品の『完成』はどこにあるのかを尋ねると、少し考えてこう答えた。「絵画の部分と写真の部分が完全に等価な状態で提示できていると感覚的にわかったときに、完成としています。この両者がヒエラルキーのない状態になっていることが大事なのです。またもうひとつ、アクリルケースをつけることも重要で、これも作品の鍵になります。これによって、作品が『もの』から『見るもの』になります。アクリルケース越しに、この等価に置かれたふたつのものを見ることで、絵画でも写真でもない、もうひとつのピクチャーが見る人の中に生成され、『絵画を見るとは、写真を見るとはどういうことか』ということを考える場になります」

全く別に見えるふたつの世界も、実はつながっているという視点

田中さんが2018年に京都で立ち上げたアーティスト・ラン・スペース「soda」で、「Picture(s)」について話を伺った。アトリエにもほど近い。 KATSUO TAKASHIMA[BOW PLUS KYOTO]

ふたつを並べることで生まれる第3のイメージ。このことについても田中さんは常に考えている。「『別々に見えるものが実は互いに影響し合っている』という考え方が、自分のなかには昔から強くあるんです。高校生のとき、村上春樹の小説『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を読んで、ハッとさせられました。この小説では『世界の終わり』と『ハードボイルドワンダーランド』という全く別のふたつの世界が同時進行で描かれているけれど、最終的にはつながっていく。別々に見えるものが実はつながっているという視点にものすごく共感したし、それを作品として見せることができるのが芸術なんだ、と感じました。その感覚が、今も続いています」

「Picture(s)」というシリーズタイトルも、重要なキーワードだ。「絵画と写真も、PaintingとPhotographと言うと違うけれど『Picture』と言えば両方を意味する。これは『絵画』と『写真』というメディウムの問題でもあるけれど、もう少し広い視点で、『異なるものをひとつの平面上に全く等価に並べることで、違う者同士が徐々に影響し合い、もとの形を超えていく』という、自分の世界の見方を検証しているものでもあって」

アトリエは京都に構えるが、暗室設備は希少な機材が揃う東京のスペースを利用している。 Kazuhito Tanaka

絵画と写真の間に、隙間がある。「これは自分の『抽象』というものへの考えも意味しています。ものとものの間にあるもの、が抽象だと。絵画と写真を交互に見るということを通して、絵画でも写真でもない第3のイメージが生成される、そのふたつのものを行き来する『間』にこそ、最も豊かな意味があるんじゃないかと考えているんです」。作品を作るうえでは、絵を描く場と暗室の間を、田中さん自身も行き来する。「この制作工程自体も作品とリンクしていておもしろいところです」

作品を観る人の中に、自分自身がアートと出合ったときのように心が動く瞬間があれば、と思う。「作品を観る前と観た後で、ちょっとでも世界の見え方が変わってくれたらいいな、と。自分も人生の節目節目でアートを通じて、そういう経験を経て今があるから、そういう人が誰かひとりでもいてくれたらうれしいな、と思います。アートでしか感じられない何かがあるはず、そう思って日々作品を作っています」

「Picture(s) ♯48」(H343×W253×D68mm、2023) Kazuhito Tanaka

KAZUHITO TANAKA
1973年、埼玉県浦和生まれ。明治大学商学部を卒業。会社勤務を経て渡米し、2004年 School of Visual Arts(ニューヨーク)卒業。写真と絵画の関係を軸に、写真による新しい表現を探究し、国内外で精力的に作品を発表している。現在、京都および福岡を拠点に活動。また2018年に京都にてアーティスト・ラン・スペース「soda」を立ち上げ、ディレクターとして年に数回展覧会を企画、開催している。

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