1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 「空虚感」に襲われる人は「共感能力が高い」と判明

「空虚感」に襲われる人は「共感能力が高い」と判明

  • 2026.7.1
空虚感に襲われる人の特徴とは / Credit:Canva

ふとした瞬間に、「何をしても満たされない」「心が空っぽだ」と感じたことはないでしょうか。

こうした「空虚感」は、単なる退屈や一時的な落ち込みではなく、自己の感覚や感情の整理、人とのつながりに関わる複雑な心理状態だと考えられています。

カナダ・トロント大学(University of Toronto)の研究チームは、空虚感が日々揺れ動くものであり、アイデンティティの不安定さや感情調整の難しさと関係することを報告。

さらに意外なことに、空虚感を強く感じやすい人ほど、共感能力が高い傾向も見られました。

この研究は2025年の『Personality Disorders: Theory, Research, and Treatment』に掲載されました。

目次

  • 空虚感は「自己の不安定さ」や「感情調整の難しさ」と深く関係していた
  • 空虚感が高い人は「共感能力も高い」と判明

空虚感は「自己の不安定さ」や「感情調整の難しさ」と深く関係していた

空虚感は、精神医学では境界性パーソナリティ障害の症状の1つとして扱われてきました。

しかし実際には、「自分が何者なのか分からない」「何をしても意味がない」「人とつながっている実感がない」といった感覚は、特定の診断だけに限らず、うつや不安、人生の目的感の低下とも関係すると考えられています。

そこで研究チームは、空虚感を「どれくらい強く感じやすいか」だけでなく、「日々どれくらい揺れ動くのか」に分けて調べました。

研究では、一般コミュニティの成人120人を対象に、まずパーソナリティ機能、アイデンティティの乱れ、感情調整の難しさなどを測る質問紙に回答してもらいました。

その後、参加者はスマートフォンアプリを使い、14日間にわたって1日4回ランダムに通知を受けました。

通知が来るたびに、直近1時間で「悲しみ」「怒り」「恐怖」「空虚感」をどの程度感じたかを1〜7段階で報告したのです。

技術的な問題があった参加者を除き、最終的には113人のデータが分析されました。

その結果、平均的に空虚感が高い人ほど、アイデンティティの乱れやパーソナリティ機能の問題が強いことが分かりました。

また、空虚感が大きく上下する人では、感情調整の難しさも同時に見られました。

より詳細な結果は、次項で見ていきましょう。

空虚感が高い人は「共感能力も高い」と判明

今回の研究で特に重要なのは、空虚感の「高さ」と「揺れ」が、少し違う心理的特徴と結びついていた点です。

まず、平均的な空虚感の高さは、アイデンティティの乱れと強く関係していました。

これは単に「目標がない」というよりも、「自分という存在のまとまりが感じられない」「自分の中に確かな核がない」といった感覚に近いものです。

つまり空虚感の根っこには、「何をしたいか分からない」こと以上に、「自分が何者なのか分からない」という自己感の不安定さがあるのかもしれません。

一方で、空虚感が日々大きく変動する人では、つらい感情を整理したり、うまく対処したりする難しさが関係していました。

また、日々の記録を見ると、空虚感は悲しみ、怒り、恐怖といったネガティブ感情と同時に高まりやすく、特に悲しみとの結びつきが強く示されました。

同じ人の中でも、普段より悲しみが強いタイミングでは、空虚感も強まりやすかったのです。

そしてもう1つ意外だったのが、平均的な空虚感が高い人ほど、共感能力も高い傾向が見られたことです。

この理由についてはまだ確定的な結論は出ていませんが、いくつかの心理的な可能性が考えられます。

1つは、自己の不安定さや内面的な苦しさを経験している人ほど、他者の痛みや孤独に敏感になるという見方です。

自分自身が「満たされない感覚」や「つながりの欠如」を感じているからこそ、似たような状態にある他者の感情を察知しやすくなる可能性があります。

また、空虚感を抱く人は、自分の内面に注意を向ける時間が長く、感情や人間関係について深く考える傾向があるとも考えられます。

その結果、他者の気持ちを想像したり理解したりする力が高まるのかもしれません。

さらに、つながりを求める欲求が強いことも一因として考えられます。

空虚感を感じる人ほど「誰かと分かり合いたい」という動機が強く、その過程で相手の立場や感情をより丁寧に読み取ろうとする可能性があります。

ただし、これはあくまで仮説であり、「空虚感が共感能力を高める」と示されたわけではありません。

別の集団でも同じ結果が得られるかは、今後の研究で確かめる必要があります。

今回の研究は、空虚感が単なる「気分の落ち込み」ではなく、自己のまとまり、感情調整、人とのつながり、さらには他者への共感のあり方とも関係する複雑な体験であることを示しています。

心が空っぽに感じられる状態は、「何も感じていない」のではなく、自己の感情や他者への感受性がうまく整理できないときに現れるサインなのかもしれません。

参考文献

People who experience a frequent inner void may actually possess higher levels of empathy
https://www.psypost.org/why-we-feel-empty-a-smartphone-study-explores-the-roots-of-an-enigmatic-emotion/

元論文

Emptiness, personality dysfunction, and emotion dysregulation: An experience sampling study.
https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/per0000737

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる