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炎天下、最寄りのスーパーまで徒歩20分。閑静な住宅街に「お店がない」のは偶然ではなかった…【一級建築士は見た】

  • 2026.7.31
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「緑が多くて静かな住宅街が気に入って買ったんですが、一番近いスーパーまで徒歩20分。平日は車が通勤で出てしまうので、夏の買い出しは子ども連れで汗だくです…。炎天下を重い袋をさげて歩くお年寄りも見かけます。どうしてこの街には、お店が1軒もないんでしょう」

そう話すのは、昨年、郊外の住宅街で中古の一戸建て(築18年・4LDK・延床約105㎡/土地約185㎡、約3,400万円)を買ったAさん(30代夫婦・子ども1人の3人暮らし)です。整った街並みと静けさが決め手でした。

購入時の重要事項説明で、用途地域の説明は受けていましたが、その言葉の意味までは気に留めていませんでした。夏を迎えて、この街の「ないもの」が暮らしに響き始めたのです。

お店がないのは、偶然ではなく「決められている」

じつは、Aさんの街にお店がないのは、偶然ではありません。

日本のまちは、都市計画で13種類の「用途地域」に分けられ、地域ごとに建てられる建物が決められています。Aさんの街は「第一種低層住居専用地域」。低層住宅の良好な住環境を守るための、一番制限の厳しい地域です。ここでは、コンビニやスーパーといった店舗は原則として建てられません(例外は、小さな店舗を兼ねた住宅などごく一部です)。

この街が静かで、空が広く、夜になると暗いのは、この規制のおかげ。つまり、静けさと買い物の不便さは、同じ規制がもたらすコインの裏表なのです。少し歩いた大通り沿いに急にお店が並び始めるのは、そこから用途地域が変わるからです。

この不便は、年を重ねるほど切実になる

見落とされがちなのが、この不便の「時間差」です。

30代の今は、車や自転車、まとめ買いでなんとか不便を補えます。けれど、年齢を重ねて運転をやめたとき、同じ距離が急に遠くなります。実際、店まで直線で500m以上あって車の利用が難しい65歳以上の人を、国は「食料品アクセス困難人口」として推計しているほどで、買い物のしにくさは都市部でも広がる政策課題です。Aさんが見かけた、重い袋をさげて歩くお年寄りの姿は、その一場面でした。

一方で、まちの側も変わろうとしています。国土交通省は2016年、技術的助言「第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域におけるコンビニエンスストア等の立地に対する建築基準法第48条の規定に基づく許可の運用について」を発出し、住民の徒歩圏に日常の店が足りない地域などでは、例外的にコンビニの立地を許可できるという考え方を自治体に示しました。すぐにどこにでも建つわけではありませんが、「静けさを守りながら、暮らしも支える」方向へ、制度は動いています。

Aさん夫婦はどう対応したのか

Aさん夫婦は、「運ぶ買い物」と「選ぶ買い物」を分けることにしました。

重くてかさばるもの(飲み物・米・洗剤)は、ネットスーパーと生協の宅配に切り替え、玄関まで届けてもらいます。配達料は数百円ほどで、炎天下に運ぶ苦労を考えればじゅうぶん見合いました。生鮮品などを自分の目で選ぶ買い出しは、夏のあいだは朝夕の涼しい時間帯に、保冷バッグを持って。週末は車でまとめ買いし、冷凍も活用します。

あわせて市の広報を見ると、移動販売の巡回や、スーパーを回るコミュニティバスの案内が見つかりました。「うちはまだ使いませんが、重い袋をさげて歩いていたご近所のおばあちゃんに教えたら、喜ばれました。この街の不便は消えませんが、静けさとセットだと分かって、付き合い方が見えた気がします」とAさんは話します。

静かな街には、静かな「理由」がある

整った静かな住宅街は、それ自体が用途地域という仕組みに守られた価値です。騒がしい施設が入り込まない安心感は、子育ての環境としても魅力です。一方で、その仕組みは、暮らしの利便性とのトレードオフでもあります。家を選ぶときは、以下も確かめてみてください。

・一番近いスーパー・コンビニまで、実際に歩いてみる(夏なら夏の体感で)
・その街の用途地域を調べる(「市の名前+用途地域」で検索すれば無料で見られます)
・ネットスーパーや生協の配達エリアに入っているか確かめる
・移動販売や買い物支援、コミュニティバスの有無を市の広報で確かめる

静けさには理由があり、不便さはその裏返しだと知って選べば、静かな街との付き合い方はちゃんと見つかります。

参考:
第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域におけるコンビニエンスストアの立地に対する建築基準法第48条の規定に基づく許可の運用について(技術的助言)(国土交通省)
食品アクセス(買物困難者等)問題ポータルサイト(農林水産省)


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
行政で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。

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