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「車両保険で直せますよね?」夏の日、縁石に接触した60代男性、約16万円を全額自己負担した"盲点"

  • 2026.7.31
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「車両保険を使って車を修理したい」

ある夏の日、一本の電話が入りました。電話の相手は、縁石に接触する事故を起こした契約者のAさん(60代・男性)。聞けば、修理工場に見積もりをしてもらったところ、修理には約16万円かかると言われ、相談のために電話したとのことでした。

車両保険に入っていれば、当然使えるケース。そのはずでした。

しかし、Aさんは約16万円を全額自己負担することになります。「保険料を考慮し、保険を使わない方が得だった」からではありません。使いたくても、使えなかったのです。分かれ道は、契約時のAさん自身の選択にありました。

夏休みやお盆で少し時間ができるこの季節は、自動車保険の契約内容や補償範囲を見直す良いタイミングです。

今回ご紹介するのは、見直しの大切さを痛感するエピソード。これは私が損害保険会社で事故対応をしていた時に、「少しの確認不足」が約16万円の出費に繋がってしまった、ある相談案件のお話です。

「車両保険で直せますよね?」

私が相談案件として対応したAさんは、運転中に道路脇の縁石に接触し、フロントバンパーと左フロントフェンダー周りを損傷する単独事故を起こしてしまいました。

縁石側には損害がないため、相手への賠償(対物賠償)は発生せず、事故による損害はAさんの車だけ。Aさんにも怪我はありません。修理の見積もりは、フロントバンパーと左フロントフェンダーの取替えなどで約16万円。

「車両保険に入っているので、これは保険で直せますよね?」

Aさんの認識は、契約者としてはごく自然なものです。しかし、Aさんの契約内容を確認した私は言葉に詰まりました。Aさんの車両保険は、保険料を抑えた「エコノミー型」だったのです。

「エコノミー型」は縁石への接触が対象外

車両保険には、大きく分けて2つのタイプがあります。

まず「一般型」。これは相手のある事故はもちろん、単独事故や当て逃げなど、多くの事故を補償対象とする、いわゆるフルカバーの保険です。

一方の「エコノミー型」は、他の自動車との衝突などに補償範囲を限定する代わりに、一般型よりも保険料が安く設定されている車両保険です。名称は保険会社によって異なり、「車対車+A」「限定型」などと呼ばれることもあります。

そして、今回のAさんの縁石との接触事故は、Aさん加入のエコノミー型では、補償の対象外でした。

本来なら、保険を「使うべき事故」だった

Aさんの契約の免責金額(事故の際の自己負担額)は、契約年度中の1回目の事故は0円、2回目の事故なら10万円の設定でした。今回は年度内1回目の事故のため、免責金額の負担は発生しません。等級は3等級ダウンしますが、翌年度以降の保険料の上がり幅を踏まえても、本来であれば保険を使用するべきケースでした。

それでも、契約がエコノミー型である以上、保険金をお支払いすることができません。

「保険に入っているのに、どうして出ないんですか」

Aさんの言葉が突き刺さります。お支払いできないと伝えるのは、保険会社の人間としても苦しいです。しかし保険とは、契約で決めた範囲の出来事に備える仕組み。契約時に選んだ補償範囲の外にある損害には、どうしても保険金をお支払いすることができないのです。

Aさんは約16万円を自己負担し、車を修理することになりました。

「年間3万円」の節約と、「16万円」の自己負担

お話をする中で分かってきたのは、Aさんが補償内容を確認せず、保険料の安さを基準に車両保険を選んでいたことでした。

これは、Aさんに限った話ではありません。契約時に説明を受けて納得して選んでいても、数年も経てば内容は忘れてしまうもの。加えて、近年広く利用されているのがネット型保険です。ネット型保険のメリットは、保険料や補償内容を自分で選択できること。だからこそ、補償内容の把握までを自分で行う必要があります。そこを安さだけで選んでしまうと、気づかないまま補償範囲を絞っていた、ということも起こり得るのです。「入った時は分かっていたはず」の契約が、いつの間にか「中身の分からない契約」になっていきます。

そもそもエコノミー型の大きな魅力は、保険料の安さにあります。一般型との差は、一例では年間3万円前後になることもあり、決して小さくない金額です。しかし今回は、その節約の代償として、一度の縁石への接触でAさんは約16万円を支払うことになりました。

こうした事故自体も、特別なものではありません。損害保険業界のデータをまとめる損害保険料率算出機構の統計では、車両保険の保険金支払いのうち、電柱などとの衝突を含む「単独事故」の事故が約3割を占めるとされています。エコノミー型では、補償の対象外となる可能性がある事故です。

更新の案内が届いたら、補償内容の欄まで

ご自身の車両保険のタイプは、保険証券や契約内容のページで確認できます。「一般」「エコノミー」「車対車」などの表記を目印に確認すると良いでしょう。また、名称や補償対象外の範囲は保険会社・商品によって異なるため、正確なところは約款や重要事項説明書でご確認ください。

選び方の目安としては、新車や高額な車は修理費が大きくなるため一般型が安心です。年式が古く時価額の低い車なら、費用対効果の面からエコノミー型や、車両保険を付けない選択も考えられます。

特に確認したいタイミングは、契約更新時です。年間3万円の差額を高いと見るか、安いと見るか。その答えは人それぞれで構いません。ただしそれは、補償内容の欄まで読み、自分で選んだ場合の話です。

「保険に入っているのに、どうして出ないんですか」

Aさんのこの言葉を、いつかあなたが口にすることのないように。更新の案内が届いたら、保険料の欄だけで閉じず、補償内容の欄までしっかりと確認しましょう。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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