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イケメン俳優と11歳差の“電撃婚”から11年。夫の脚本でも演技する“アカデミー賞ノミネート”の国際的女優とは

  • 2026.7.30
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2023年7月、映画『658km、陽子の旅』完成披露舞台挨拶に出席した菊地凛子(C)SANKEI

菊地凛子には、代わりのきかない一枠が回ってくる。誰かの隣に置くための名前ではなく、その役が要るから挙がる名前として、この人はずっと呼ばれてきた俳優だ。

2015年、染谷将太との結婚が発表された。11歳差の二人である。あれから11年、二人はそれぞれ別の現場に立ち続けてきた。同じ作品で名前が並んだ回は数えるほどで、その並び方も一定ではない。一本の映画のキャスト表に別々の役で載り、やがて書く側と演じる側になる。

言葉のない役をまるごと預けられる

2006年の『バベル』は、モロッコ・メキシコ・東京で起きた出来事が一発の銃弾でつながっていく群像劇である。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が東京のパートに置いたのが、菊地の演じた綿谷千恵子だった。ろう者の女子高生で、母を失っている。手話の届かない相手には言葉そのものが通らず、その孤独を説明してくれる台詞も用意されていない。感情の起伏をこちらへ運ぶ道は、身体と表情しかない。

海外の監督が、物語の一角をまるごと日本の俳優に預けたということだ。台詞で補える役なら、演じ手が替わっても物語は動く。言葉を取り上げた役はそうはいかない。人物が成立するかどうかが、俳優の身体だけに乗る。菊地はこの役で第79回アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされた。

作品ではなく俳優に付いてくる役

2013年の『パシフィック・リム』で、菊地は森マコを演じた。ギレルモ・デル・トロ監督が巨大人型兵器イェーガーの操縦席に座らせた日本人パイロットで、主人公ローリーと二人一組で旧型機を駆る相棒である。幼い日に怪獣に襲われ、赤い靴を握りしめて逃げ惑った少女が、その記憶を抱えたまま戦う側に立つ。回想でその幼少期を演じたのは芦田愛菜だった。言葉を取り上げられた少女を託された俳優が、こんどは巨大兵器を動かす側に回っている。

そして2018年の『パシフィック・リム:アップライジング』に、菊地は同じ森マコとして戻ってきた。監督はスティーブン・S・デナイトに替わり、菊地は数少ない続投となった。相棒だったローリーの名前は、続編のキャスト表にない。この2作のあいだには、2015年の結婚発表が挟まっている。

規模の大きな座組ほど、続編では顔ぶれを入れ替える自由を持っている。撮る人間が替わればなおさらだ。それでも同じ名前が残った。役が作品にではなく、俳優に紐づいていた。

同じ一本でもひと組にはならない

2024年9月に公開された映画『あの人が消えた』は、水野格が監督と脚本を手がけたミステリーである。高橋文哉が演じる配達員の青年・丸子が、人が次々と消えるという噂の立つマンションへ荷物を運び入れ、住人たちの秘密に触れてしまう。職場の先輩に相談しながら正体を探るうち、思いがけない大事件に巻き込まれていく。舞台はほぼその一棟から出ない。

この一本に、菊地凛子と染谷将太が並んだ。菊地が演じたのは、住人を調べにくる警視庁の捜査官・寺田。染谷が演じたのは、302号室に暮らす七三分けの男・島崎で、こちらはいかにも挙動が怪しい。追う側と、疑われる側である。

夫婦が同じ映画に出ると聞けば、観客はどこかでひと組の登場を待つ。この一本はそうならない。それぞれの役を単独で受け持っている。同じ座組に名を連ねた、二人の俳優なのだ。

媒体を替えて届く二度目の指名

2025年12月、NHKラジオ第一でオーディオドラマ『だまっていない』が放送された。脚本と演出を手がけたのは染谷将太で、菊地凛子が出演している。表情も身振りも届かず、人物を立ち上げる手立てが声だけに絞られる場だ。同じ画面に並ぶ共演から、書いて立てる側と、その言葉を声にする側へ。二人の並び方はまた一つ形を変えた。

2025年、菊地はフジテレビ系のドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』に出演。三谷幸喜の脚本で、菅田将暉が演じる主人公を謎めいたメッセージで翻弄する、案内所のおばば役である。続けて2026年、三谷が作・演出を手がけた舞台『いのこりぐみ』に立った。放課後の小学校の教室だけで進む会話劇で、菊地が受け持ったのは担任を替えろと学校に迫る母親。小栗旬が演じる若手教師、平岩紙が演じる担任、相島一之が演じるベテラン教師を相手に、教室で心理戦を繰り広げる。

一度組んだ相手が、媒体を替えてもう一度呼ぶ。菊地凛子の10年は、そうやって次の座組へつながってきたのだ。

代わりのきかない一枠を背負う

2026年1月、サンダンス映画祭のU.S.ドラマティック・コンペティション部門で、ジョセフ・クボタ・ウラディカ監督の『Ha-Chan, Shake Your Booty!』がプレミア上映された。菊地は本作で主演をつとめた。そして、2027年1月には、NHK総合のドラマ『デンジャラス』が控える。桐野夏生の同名小説が原作で、吉岡里帆が主演を務め、オダギリジョーが谷崎潤一郎を演じる。菊地の役はその妻・松子である。

預けられ、呼び戻され、媒体ごと連れていかれた10年の先で、この人は一本をまるごと背負い、そして脇も固められる。どんなときも菊地凛子は、その役が要るから呼ばれる俳優なのだ。


※記事は執筆時点の情報です

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