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彼女を入口側に座らせたのには理由があった。記念日のサプライズを、僕は自分で台無しにしました

  • 2026.6.18
ハウコレ

せっかく用意したのに、向かいの彼女の表情はどんどん硬くなっていきました。僕がこだわっていたものは、本当に大切なことではなかったのかもしれません。

メニューを開くふりをしながら、僕は何度も入口のほうへ視線を送っていました。向かいに座る彼女には、その理由を言えずにいたのです。記念日のために用意したものがうまく運ばれるかどうか、僕は気が気ではありませんでした。

奥の席を選んだ理由

お店を予約するとき、僕は店員さんにひとつだけお願いをしていました。食事の終わりに、用意しておいたデザートプレートを運んでほしい、と。彼女に気づかれないように合図を送るには、入口や店員さんの動きが見える奥の席に、自分が座る必要があったのです。

だから席に着くとき、僕は迷わず壁側に腰を下ろしました。彼女を通路に面した側に座らせることになるのは、少しだけ気がかりでした。それでも、彼女が後ろを振り返らなければ準備は見えません。きっと喜んでくれる、と心の中で言い訳をしていました。

うまく運ばせたくて

ところが、いざ始まってみると、僕はそわそわするばかりでした。合図のタイミングを見計らおうと、つい彼女の背後の入口に目が行ってしまいます。彼女が仕事の話をしてくれているのに、僕の相槌は「うん」「ああ」と短くなっていきました。

「ねえ、どこか具合でも悪い?」彼女にそう聞かれて、僕は「ううん、何でもないよ」とごまかしました。サプライズなのだから、ここで打ち明けるわけにはいきません。けれど、その「何でもない」のひとことが、彼女との距離を少しずつ広げていることに、僕は気づけずにいました。

しぼんでいった彼女の笑顔

「私といても、つまらない?」彼女のその一言で、僕はようやくまっすぐ顔を上げました。彼女の表情は、お店に入ってきたときの楽しそうな様子とは、まるで違っていました。「そんなことない。ちょっと落ち着かないだけ」そう答えるのが精いっぱいでした。

僕がこだわっていたのは、彼女を喜ばせる完璧な瞬間でした。けれど目の前の彼女は、サプライズよりもずっと前から、ただ僕とちゃんと向き合いたかっただけなのだと、ようやくわかりました。僕は店員さんにそっと首を振り、用意したプレートを引っ込めてもらいました。あの演出を出すには、もう遅すぎたのです。

そして...

帰り道、僕は何度も切り出そうとして、そのたびに口を閉じてしまいました。本当は、彼女を入口側に座らせた理由も、上の空だった理由も、全部その場で話してしまえばよかったのです。

記念日を特別にしたくて用意したものが、かえって彼女を寂しい気持ちにさせていました。大切だったのは、用意した品物でも、完璧な演出でもなく、ただ目の前の彼女とまっすぐ向き合うことだったのだと思います。次に二人で出かけるときは、隠しごとはやめて、彼女の目を見て話そう。引っ込めてもらったあのプレートのことも、いつか笑って打ち明けられたらいいなと思っています。

(20代男性・営業職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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