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新著『大草原の小さな農家』インタビュー。中谷美紀さんが語るオーストリアでの自然体の毎日

  • 2026.6.10
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俳優のみならず、執筆家としても幅広く支持される中谷美紀さん。このほど上梓した新エッセイ集『大草原の小さな農家』には、ドイツ人音楽家のご主人と暮らすオーストリアの生活、異国での人々との交流、“野良着”を着ての畑仕事、ライフワークの始まりなど、暮らしのなかで感じたこと、発見されたことなどが、丁寧な筆致で彩り豊かに綴られています。その文面の随所には、日々を愛おしむ中谷さんの温かな眼差しや、異文化へのフェアな視点、探究心やインテリジェンスも感じられ、読み応えはたっぷり。年齢を重ねるごとにしなやかさを増し、美しさを輝かせる、その生き方の姿勢にも触れられる1冊です。

34篇の多彩なエッセイ。変化に富んだテーマ選び

Akinori Ito

<Profile>
中谷美紀(なかたにみき)/俳優
1993年俳優デビュー。以降、数々のドラマや映画に出演。映画『嫌われ松子の一生』(2006年)で、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。旅行記やエッセイなど執筆活動も続け、2023年には舞台『猟銃』のニューヨーク公演を成功させ、その挑戦の日々を『オフ・ブロードウェイ奮闘記』(2024年)に綴った。2018年、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団所属のビオラ奏者、ティロ・フェヒナー氏と結婚。オーストリアと東京の2拠点生活。

――新刊『大草原の小さな農家』は『小説幻冬』の連載が元になったエッセイ集。俳優の仕事と並行して、これだけのボリュームの文章を毎月執筆されていたのですね。

好奇心が旺盛で子どものようなところがあるものですから、楽しいことや未知の世界の扉を開いたとき、あるいは出会った素敵な方、鑑賞したアートなど、発見したことをお伝えしたいなという思いで書いていました。それをこうして1冊の本に印刷しようとよく思ってくださったなと、感謝しています。

Miki Nakatani

――オーストリアのご自宅の改修から芸術鑑賞まで、多彩なテーマはどう決めていたのですか。

自由に選ばせていただいていたのですが、夫がお天気によって行く場所を変える人なものですから、毎日が「人生、何が起こるかわからない」という状況で、書こうと思っていた主題が急に変わって慌ててひねり出し…みたいなことが何度も(笑)。俳優の仕事の状態によっては、題材がなかなか降ってこないときもありました。また、自分でもあさましいと思うんですが、ウクライナやアフガニスタンから逃れていらした方からお話を伺ったときにはそのことも文章に。一個人のエッセイの中でいいのだろうか、ジャーナリストでもないのにと、心苦しさを感じながら書いたテーマでした。

ウィーンでの人々との交流と、大草原での野良作業

Miki Nakatani

――ご近所さんとのエピソードなど、本の中にはいろんな人生が垣間見えます。

ウィーンで同じアパートに住む80代のマダムたちは、とてもおしゃれなアクティブシニア。お一人は、私の夫も出演しているウィーン・フィルの定期公演に毎月来てくださいます。先日も老舗メゾンのジャケットに白いボータイブラウス、ゴールドの三連リングにバケットバッグをさらりと身に着けてらして…、お写真を撮ってしまいました(笑)。エレベーターを開けて待っているとお花をくださったり、そうした交流が楽しいです。

――欧州での生活の中で、オーストリアと日本にどんな違いを感じますか。

羨ましいと思うのは、子どもたちの体験型学習の機会ですね。義理の娘の14歳のお誕生日に欲しいモノを聞いたら、物ではなく、アムステルダムのアンネ・フランクの記念館に行きたいと言うんです。日本にいつか行くことがあったら、原爆を投下された広島と長崎を訪れたいとも。学校でそれらについてディベートやプレゼンテーションをする授業があったようです。エプスタイン事件も課題となり、自ら詳細を調べていました。世界で起きていることに、敏感に反応していますね。

――本の終盤では、自然豊かな地への引越しも。庭づくりは、今、熱中していることですか。

Miki Nakatani

木を増やしたいと、がんばっています。干ばつと豪雨が交互に来るような気候変動は変えられなくても、雨を吸収し、干ばつの時期には乾燥しないように、せめて樹木の根を増やしたくて。今の土地は元の家主の方の思いを我々が継いで住むことになったんですが、「所有」よりも預かって管理している感覚なんです。そして我々の思いをさらに発展させ、次の世代の誰かにつなげていく。最近、空き家をきれいにする活動も始めました。近所のコミュニティがとにかく素晴らしくて、自分にできる範囲でこの地域に貢献したくて。野良着を着て、ボロボロだった廃屋のゴミを片付けていると、どんどん綺麗になっていく。それがすごく楽しい。ライフワークになると思います。

書くことは心のデトックス。視野の広さと幸せの感受性

――自然の循環を守り、地域に貢献…。視野の大きさは、どうやって培われたのでしょう。

『嫌われ松子の一生』という映画の撮影後、バーンアウトしてしまい、インドへと旅に出かけたのがきっかけですね。異なる宗教、言語、民族があれだけの人数でお住まいの国ですから、誰かにとっての正義が他の誰かにとっては正義ではないということを、目のあたりにしました。「正義は一つではない」と、無理やり視野を開かされた。今暮らしているオーストリアには、内戦のあった旧ユーゴスラビアの方がたくさんいらして、互いに忸怩たる思いをいまだ抱えて共存している。きれいごとかもしれませんが、極力穏やかな日常を過ごし、軋轢のない世界であってほしいです。

――中谷さんにとって「書くこと」とは? 「演じること」とは違いますか。

Akinori Ito

演じることは、原作者や脚本家の先生、監督やプロデューサーなど、他人(ひと)様の思いであったり、共演者の方々とのやり取りの中から生まれるものなので、自分自身ではないんですよね。また、仕事とプライベートをあえてきっちり分けているんですが、それでも心の中に澱のように溜まってしまう役柄があります。人を殺してしまう役だったり、子どもを失う役であったり。書くことは、そうした役に侵食された心を洗う感覚、デトックスですね。文章が上手なわけではないですけれど、拙いなりに書くことでスッキリする。心の整理ができます。

――マチュアでいてチャーミングで。素敵な年齢を重ねる中谷さんにとって、「豊かさ」とは?

まだまだ私は学びの途上です。豊かさとはやはり、澄んだお水を飲むことができて、健康で安全であること。命を脅かされることなく健康でいるだけで、幸せだと思います。

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『大草原の小さな農家』中谷美紀 著 幻冬舎 ¥825(税込)

PHOTOGRAPHS:AKINORI ITO
STYLING:MASAMI TANAKA
HAIR & MAKEUP:ERI SHIMODA
NAIL:MICHIKO KAWAMURA

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