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田舎の空き家をリノベーションして、モダンな住まいへ。フィリックス・コンランとエミリー・スミス、奈良の小さな「森の家」ができるまで。#2

  • 2026.5.30

Renovation

フィリックスさんが描いた間取り図。ドアはプライベートな空間を区切る最小限の2枚のみ。明快で必要十分な住まいだ。

小さなアイデアを重ねた、デザイナー視点による改装。

二人が移住を決めて下見に訪れた際には、建物の中に入ることはできず、外側のサイズだけを測りロンドンへ帰国。戻るとすぐにフィリックスさんはリノベーションのスケッチ(p.131上)を描き 上げた。広さは約75m²。けっして広くはないものの、ロケーションに魅了された二人にとって家の大きさは最優先事項ではなかったという。

実際に改装を始めると、壊せない柱があるなど想定外の多くの問題が発生。「いったんすべてをリセットし、まず考えたのは家の中にいながら周囲の自然と一体化するような、窓を多く作ること」とフィリックスさん。シンボルツリーの柿の木が玄関から見えるように窓を配置。床には〈ハ・パートナーズ〉が手がける吉野杉と吉野桧の木製タイルを張る。バスルームには緑色のタイルを使い、 自然との繋がりを持たせる。浴槽は二人が気に入った旅館の風呂にインスパイアされたサイズに。断熱材を入れて壁が厚くなったことで生まれた窓枠の奥行きに、腰掛けられる機能を備える。と、ディテール一つひとつから考えられていったリノベーションは、建築家ではなくプロダクトデザイナーの視点から作られたもの。冬の寒さなどのデメリットをデザインで乗り越え、あえて田舎の空き家を改装した現代的な家。それは都市で暮らす人にも魅力あるものであり、地方のサステナビリティにも寄与している。機能と美しさ、そして社会課題にもアプローチする。それがフィリックスさんの思う、よりよい生活のためのデザインだ。

地元の吉野杉や珪藻土など、天然素材をふんだんに使っているのもサステナブルのひとつの表現方法。それを踏まえて形にしたのは若い世代を中心とした職人たちだ。まずデザインありきで考えるフィリックスさんのアイデアは、既存の工法が使えないものも多い。言葉の壁を乗り越えるために使ったのは、数多くのスケッチだった。半年に及ぶ改装にはフィリックスさんも積極的に参加し、日本に受け継がれる職人技の奥深さも実感したという。「バスルームとベッドルームの間のアールを描いた壁を作る際に提案したのは、木の板を湾曲させ施工ラインを描く技法。後にそれは古くから神社仏閣で使われていた伝統の工法と知り驚きました」。緩やかにカーブする壁は、フィリックスさんが最も気に入っている部分となった。

外観だけを見て描いた最初のスケッチ。建物の中央には柱があると考えていたが実際はなく、想定より空間を広く使えた。
ロンドンに帰って作り上げた模型。間取りはこれをもとに検討された。当初の案ではベッドを置くことを想定していた。
今の寝室にあたる場所。躯体以外はすべて取り壊した。改装は2024年8月に開始し、12月には入居というスピード感。
改装は大工の北森健太さんを中心に進められた。若い世代の職人にとってもチャレンジングなプロジェクトだったという。
隣接する古民家に寝泊まりしながら、半年に及ぶリノベーションを行った二人。エミリーさんも積極的に参加した。
改装途中のユニークな空間で行われた二人の誕生パーティ。秋の豊かさと東吉野での友情を心ゆくまで満喫した。
張り終えた木製のタイルを磨くフィリックスさん。手を動かすひとりとして、職人たちとともに工事の日々を過ごした。
外壁にはしっかり断熱材を入れ、冬の寒さを解消した。右側の窓枠を見るとそれに伴って奥行きが生まれたことがわかる。
内装工事の途中。まっすぐ延びた梁が昔の建物の面影を残す。自らデザインしたモダンな〝囲炉裏〞と煙突が配置された。
フィリックスさんと職人とでコンセンサスを図るためのツールであった3Dの設計図。工程全体を通して使用された。
Felix Conran/フィリックス・コンラン家具デザイナー

1994年オーストラリア生まれ。 ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ在学中に起業。2018年には父と家具ブランド〈メーカー&サン〉を創業。Instagram@felixconran www.felixconran.com

Emily Smith/エミリー・スミスドキュメンタリープロデューサー

1993年イギリス生まれ。ロンドン大学キングス・カレッジを卒業後、ドキュメンタリー映画の制作に携わる。SNSで東吉野の生活を発信中。Instagram@down2forage

photo : Haruhi Okuyama text : Mako Yamato cooperation : Kazuki Nakamori (OFFICE CAMP)

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