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拉致した男は復讐相手か人違いか? スリリングかつ滑稽なサスペンス劇『シンプル・アクシデント/偶然』【映画レビュー】

  • 2026.5.27

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年6月号からの転載です。

カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの三大映画祭を制した世界的巨匠にして、長年にわたるイラン政府との自由を巡る闘いでも知られるパナヒ監督。その最新作は、不当に投獄された過去をもつ男女と、彼らに地獄の恐怖を味わわせた看守“かもしれない”男が繰り広げる、異色の復讐劇だ。

夜道を走る1台のクルマが、野良犬と衝突事故を起こし立ち往生。家族連れの男は、修理を求めワヒドが働く工房へ足を踏み入れる。聞き覚えのある音を耳にし、ワヒドの脳裏に忌まわしい記憶が去来。突然現れたこの男こそ、彼を残忍に痛めつけたエグバル、通称【義足】に違いない。そう確信した彼は、男を拉致して荒野に生き埋めにしようとする。だが頑なに否定する男を前に、彼の心に迷いが生じる。じつはワヒドは、エグバルの顔をみたことがないのだ――。

偶然の事故が導いた、人生のすべてを奪った男との再会。スリルとユーモアにみちた悲喜劇は、監督自身の二度目の収監や囚人仲間の体験談などを基に練られ社会派サスペンスへと結実。理不尽な暴力には暴力で報いるべきか。そもそも拉致した男はエグバル本人なのか? 確信がもてないお人好し主人公を軸に、非暴力主義のカメラマン、結婚直前のカップルらを次々と巻き込み、物語は思いがけない方向へと迷走してゆく。

テーマは骨太ながら、元囚人たちの反応やちぐはぐな会話、結婚や出産の幸せのお裾分けをねだる人々のしたたかな姿が、人間味あふれる妙味を発揮。また犬の遠吠えや衝突音、義足の軋む音など、音を活かした演出にも巨匠の腕が冴える、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作だ。

文:柴田メグミ

『シンプル・アクシデント/偶然』

監督:ジャファル・パナヒ

出演:ワヒド・モバシェリ、マルヤム・アフシャリ、エブラヒム・アジジ

2025年フランス、イラン、ルクセンブルグ 103分

配給:セテラ・インターナショナル

5月8日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

●かつて不当に投獄され、心身に癒えない傷を負ったワヒド。彼の前に偶然、残忍な義足の看守が現れる。ワヒドは復讐を果たそうとするが、男は人違いだと主張。復讐を中断したワヒドは、看守を知る元囚人たちを訪ねてゆく……。

しばた・めぐみ●フリーランスライター。『韓国TVドラマガイド』『MYOJO』『CINEMA

SQUARE』などの雑誌のほか、映画情報サイト「シネマトゥデイ」にも寄稿。韓国料理、アジアンビューティに目がない。

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