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【熊本地震】創造的復興 咲き始めた花「TSMC」…前知事・蒲島氏が振り返る10年〈下〉

  • 2026.5.13

熊本城や港湾、観光施設…。熊本地震からの復興には莫大(ばくだい)な資金が投じられた。国の支援取り付けに奔走した蒲島郁夫氏は、復興による恩恵を全国への恩返しにつなげたいと強調する。(中からの続き)

【熊本地震】遠慮の文化は対応を遅らせる…前知事・蒲島氏が振り返る10年〈上〉
【熊本地震】恐怖の時こそ明るい目標を…前知事・蒲島氏が振り返る10年〈中〉

空港民営化「採算は取れる」

熊本県民のシンボルともいえる熊本城は石垣などが大きく傷み、復興は長期にわたります。法律があって文化財の復旧で負担ゼロはあり得ません。でも、長期間にわたる城の復興には国も責任をもって取り組んでほしい。地震の後、初めて来県した安倍首相(当時)に「熊本城をお願いします」と申し上げました。

「熊本城は熊本市が管理している。知事がお願いするのはおかしい」という声もありましたが、それは違う。熊本城は熊本県民のシンボルですから、首相にお願いするのは知事ですよ。

安倍さんは、「熊本城の復興なくして熊本地震からの復興はない」と言ってくれました。会見の後で、当時の馳浩文部科学相から「安心してください。負担最小化で支援します」という電話もいただきました。熊本城の復興資金は、少なくともこの先10年分は十分に確保できています。

大型国際クルーズ船の受け入れ拠点となる「くまモンボート八代」は、国と県、そして民問企業が連携して整備しました。港のそばには大小合わせて84体のくまモンと遊べる公園を造っています。くまモンは海外でも人気で、クルーズ船を引き寄せる効果が出ています。古ぼけていた熊本駅は、同じ時期に東大教授だった縁で建築家の安藤忠雄さんにお願いして、デザインを一新したいいものができました。

地震で大きな被害を受けた熊本空港は、再建にあたって一から整備をやり直すため、コンセッション(運営権の民間への売却)方式をとりました。今は立派な新ターミナルビルができましたが、県はお金を出していません。お金を出さなければ運営に口も出せませんが、私は「十分に採算は取れる。民間に任せても大丈夫だ」という確信がありました。

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10年で1100億円

2021年秋、台湾積体電路製造(TSMC)が空港に近い菊陽町に進出することが決まりました。TSMCのトップは「すぐそばに空港があるのに、なぜ半導体を福岡まで運んで輸出するのか」と語り、空港を半導体の輸出拠点にする意向を示してきました。半導体は小さくて軽いから航空機で輸出できます。福岡までトラックで運べば排ガスを出して環境にもよくないし、時間もかかります。

熊本空港を中心にした熊本県中部に半導体産業を集積させる「新生シリコンアイランド」の構想があり、有識者会議の提言にも、「国内外からの経済活力を取り込む窓口となる交通インフラの創造的復興」が明記されていました。TSMCが進出しやすいように、空港につながる交通インフラ、道路や鉄道の整備が不可欠になりました。

試算したら、今後10年間で1100億円くらいかかる。そこで2023年8月に岸田首相(当時)と会って「これは熊本県だけではできません。国策としてやって欲しい」とお話ししました。岸田首相は「せっかくの民間の投資拡大の動きに政府がブレーキをかけてはいけない。戦略分野(半導体)の事業拠点に必要なインフラ投資を、追加的に複数年かけて安定的に対応できる機能的な仕組みを創設します」と言ってくれました。政府の支出は単年度が原則です。10年間続ける、と国がOKしたのは画期的なことです。

熊本の弱点として、道路ネットワークの弱さがありました。福岡や鹿児島に通じる縦の軸はありますが、大分や宮崎への横の往来は不便だったのですが、今は熊本市北部と大分市を結ぶ中九州横断道路と、熊本市から宮崎県延岡市に至る九州中央自動車道の整備が進んでいます。「全ての道は熊本に通じる」ようになります。

日本の経済安全保障に貢献

国は半導体産業を経済安全保障の核としたいからTSMCを誘致したわけで、熊本復興のために誘致したわけではありません。半導体生産に欠かせないきれいな地下水が豊富にあり、すでにソニーや東京エレクトロンの工場があったことも、TSMCの熊本進出の決め手になったと思います。

しかし、熊本が常に前を向いて、空港をはじめ道路、港、鉄道を整備してきた創造的復興も、評価してくれていると思っています。そうでなければTSMCは熊本に来てくれたかどうか。来てくれたとしても、第1工場に続いて第2工場を建設し、そこで世界最先端の3ナノ半導体を量産するということにはならなかったでしょう。

有識者会議座長の五百旗頭さんは昨年亡くなりましたが、最後に会った時に私に、「創造的復興を進めて道路も港も空港も良くなったね。ただ、最終目標である花が咲かないなあ、と気になっていたけど、ようやくTSMCという花が咲いてきたね」と話してくれました。

熊本は国や民間企業など、たくさんの方々の力を借りて創造的復興を進め、熊本経済は花を咲かせ始めています。その恩恵は熊本だけで享受してはいけない。新生シリコンアイランド構想の名前は、「シリコンアイランド熊本」ではなく「シリコンアイランド九州」です。この構想を実現し、九州に、そして日本の経済安全保障に貢献することで、全国に復興支援に対する恩返しをしたいと思っています。
(聞き手・構成 読売新聞東京本社編集委員 丸山淳一)

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