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大学卒業前、最後の肝試しへ…《アイスの森》と呼ばれる名もなき私有地に伝わる“漠然とした噂”

  • 2026.5.5
写真はイメージです。写真:Batsuamaru_Photo/イメージマート

生配信サービス「TwitCasting」の人気ホラーチャンネル「禍話(まがばなし)」。今年で放送開始10周年を迎えた同番組は、軽妙なトークが武器の語り手・かぁなっきさんが紡ぐ、聴いた者の背筋を凍らせる珠玉の怪談たちがその魅力です。

今回はそんな禍話から、奇妙な名前のついた曰く付きの心霊スポットを訪れた大学生たちに降りかかる恐怖を描き、YouTubeで映像化もされた名作「アイスの森」をご紹介します――。


心霊スポットに連れて行ってくれるO先輩

写真はイメージです。提供:アフロ

「O先輩ももうすぐ卒業かぁ~」

寒かった冬も終わりに近づいた頃。Tさんは大学の部室で黒い合皮がところどころ剥がれかけたソファに腰掛けながら、同級生のYさんにそう漏らしました。

「そうだなぁ。地元での就職ならまた会えるけど、就職先は東京みたいだしな」

「……」

手に持っていたゴム製ボールをポンポンと手の平で跳ねさせながら、Tさんは友人の問いに答えずにいました。

「卒業飲みの場所、Iちゃんが隣町のちょっと広くていいところ提案してくれたんだけど、お前もそこでいいだろ?」

「うん……」

「めっちゃ寂しがってるじゃん。そんなんじゃお前……痛って! おい、なんだよ」

からかうYさんに腹が立ち、Tさんはゴムボールをぶつけながら体を起こしました。

「なんかさぁー、酒飲んでハイおしまいっていうのも違う感じするんだよなぁ」

「まあ、確かに……。先輩とは飲み会よりも心霊スポットとかに連れて行ってくれたことの方が思い出深いもんね」

「あんま怖い体験できなかったけどなぁ」

「いつもいきなり夜中に行くことになるから、『暗ぇ』とか『寒ぃ』とか言って、写真撮って帰るだけだったよな」

Yさんはぶつけられたボールをポンと投げ返しながら、思い出を辿るように天井をぼんやり眺めていました。

「はは、それな。それでもさ、ああいう場所に連れてってくれるのはO先輩だけだったよ」

「俺らだけだったら、あそこまで行動力なかったよな」

O先輩が珍しくビビっていた場所

大学内でのO先輩は、少々いかつい見た目もあってか“やんちゃな人”というイメージで固まっており、彼が来ると聞くと萎縮してしまう同級生も多かったのですが、親交の深かったTさんたちは、そんなイメージとは裏腹の面倒見の良い一面も知っていました。

『よし、面白そうだから今から行くか!』

いつも、そう言ってエアコンの風がカビ臭い中古のワゴンを気軽に出してくれたO先輩。

写真はイメージです。提供:アフロ

『ちょっと走ったとこにさ、でっかいスーパーあるだろ。あそこ、深夜までやってるからライトとか買っていくか』

この手に持ったゴム製のボールも、あの日に立ち寄ったスーパーのガチャガチャコーナーで手に入れた物だったことを、Tさんは思い出しました。

「別に怖いのとか好きじゃなさそうだったのにね。遊んでくれていたんだろうな」

『T、お前そのボール捨てんなよ! いらなくねーよ、思い出だろ!』

ガチャガチャを引いた時にそう言って無理やりゴムボールを押し付けてきた先輩の笑顔。

「……別に先輩が死んだわけでもねぇのになんだよこの空気」

「あはは! 確かに!」

「あー、そういやさ、先輩が珍しくビビっていた場所あったよな~」

「え、あったっけ、そんな場所?」

「あったよ。確か去年の夏くらいに海で飲んでるときに怖い話になったじゃん。あのときに話題に出てたはず……なんだっけ名前」

「あー! 『海来てんのに森の話するのおかしいでしょ!』ってつっこんで終わったやつね」

「それそれ!」

「なんだっけ、なんの森だっけ」

「……変な名前だったのは覚えてるんだけどなぁ」

そのとき、部室のドアが開きました。

「行こうぜ最後に“アイスの森”」

写真はイメージです。提供:アフロ

「“アイスの森”な」

「うわぁ! ビビった!」

「何してんすか、先輩!?」

「何って、部室来たんだろうが」

部室の入り口にO先輩が立っていました。

「聞いてたんすか?」

「聞いてたよ」

「全部……?」

「どうだろなぁ~」

「ねぇ、恥ずいですって!」

かすかに蓄えた口髭とギラッとしたネックレスに外ハネ気味の黒髪。O先輩はホットスナックの入ったコンビニ袋を部室のテーブルに置きながら、かぶっていたキャップを脱ぎました。

「ちょうどさ、お前らと送別会とは別にどっかで遊びたいなぁと思ってたんだよな」

「普通に全部聞いてたんじゃないっすか……」

「それよりいいじゃん、行こうぜ最後に“アイスの森”」

O先輩はコンビニ袋からフランクフルトを1本取り出し、ビリっと音を立てて封を破りました。やたら響いたその音とは裏腹に、さっきまで笑い声に満ちていた部室は妙な静けさに包まれたそうです。

「そんな急にビビるなって。多分言うほどじゃねぇよ。ネットにも載ってないし」

「余計怖いっす。てか、なんなんすか、そのアイスの森って」

「卒業前に1回くらい、確認しとこうかなって」

写真はイメージです。写真:gimayuzuru/イメージマート

O先輩は口をモグモグと動かしながら、少しだけ考えるように視線を天井へ向けました。

「そういやあんとき話してなかったか……結構な不良だったOBの先輩から聞いたんよ。その人もまた先輩から伝え聞いていたらしいけど。山奥にあるっつー誰かの私有地でさ、そこがヤバイらしいんだわ。皆『あそこはヤベー』つってろくに近づかなかったみたいで、それ聞いて当時の俺らもビビっちゃって行けなかったんだよ」

「……なんかあったんすか、事件とか」

「特にそれらしい事件はないみたいなんだけどさ。みんな詳細話してくれねぇんだよ」

「え?」

「な、気になるだろ?」

そう言って、O先輩は食べ終わったフランクフルトの棒を紙ごと丸め、ゴミ箱に放り投げました。

「だからさ。卒業前に1回くらい、確認しとこうかなって」

「確認……?」

「何を目撃したのかだよ。それにさ、“アイスの森”なんつー変な名前の由来も気になるじゃん」

徐々に湧いてきた好奇心。O先輩は2人の心のざわめきを見逃しませんでした。

「お、それは興味出てきた目だな。よし、面白そうだから今から行くか!」

「え、マジで言ってんすか」

「マジ」

こうして、Tさんたちはその日の夕方に“アイスの森”に実際に足を運ぶことになったのです。

文=むくろ幽介

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