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ビニール袋の擦れる音が怖い……新興住宅地の“空き家”でかつて少年たちが見た不気味な男とは

  • 2026.5.4
写真はイメージです。提供:アフロ

“著作権フリー”を公言する人気怪談語りチャンネル「禍話(まがばなし)」。語り手であるかぁなっきさんが収集した実話怪談たちはリスナーたちにリライトされ、新たな味わいを宿した怪談として生まれ変わる……そんな時代にフィットした同番組のスタイルは、多くのホラーファンたちを魅了してきました。

今回は今年で放送開始10周年を迎えた禍話から、“ビニール袋”がトラウマになってしまったとある会社員男性にまつわる奇妙なお話をご紹介します――。


「ビニール袋系全般が苦手で……」

令和になってすぐの頃。当時30代だった会社員の男性Eさんは、勤めていた会社の命で、普段はあまり交流のなかった別部署の先輩男性Aさんと共に、とある地方都市に出張をすることになったそうです。

「はい、わかりました。わざわざこんな遅くまで申し訳ありませんでした」

「いえ、とんでもございません。それでは、失礼いたします」

取引先との仕事を無事に終えたEさんたちでしたが、夕食をとるには少々時間が遅く、その日はそのままビジネスホテルに引き上げることになりました。

もともと、仕事後の打ち上げでAさんとの親睦を深めようと思っていたEさん。コンビニで遅い夕飯を買おうとなったときに、Aさんに『ホテルの部屋で食事がてら軽く飲みませんか?』と提案したところ、快い返事をもらえたそうです。

会計時、Aさんがレジ袋をもらわずに仕事用のカバンに入れていたエコバッグを取り出すのが妙に記憶に残ったと言います。

写真はイメージです。提供:アフロ

「じゃあ、かんぱ~い!」

「お疲れ様です~」

Eさんの部屋で始まった小さな打ち上げ。

ビールを一口飲んだEさんが、何の気なしにおつまみをレジ袋からガサゴソと取り出した瞬間、Aさんが体をビクッと強張らせたのに気がつきました。

そんな彼の視線に気がついたAさんは、気まずそうに言いました。

「私、ちょっとレジ袋っていうか、ビニール袋系全般が苦手で……」

レジ袋が苦手とはなんとも奇妙だと話を聞いてみると、その原因はAさんが子どもの頃に住んでいたある新興住宅地での出来事に遡るのだとか。

ただただポツンとある空き家

「そのエリアはどこも家族連れが入っていて、いつもワイワイと騒がしかったんですけど、その一角にいつまで経っても人の住まない一軒の“空き家”がありましてね……」

「売り家」などの看板や貼り紙がされるでもない、ただただポツンと建つその空き家。

『あの空き家、実は鍵のかかってない窓があって、そこから入れるらしい』

同じ住宅地出身の同級生も多かった学校ではいつしかそんな噂が広がり、あるとき探検しに行こうということになったのだとか。

写真はイメージです。写真:beauty_box/イメージマート

そうして学校が春休みに入ったとある平日の昼間。Aさんら数人の小学生たちは例の空き家に忍び込むことになったのです。

しかし、見慣れた机に見慣れたエアコン、部屋の配置もほぼ自分たちの家と変わらないその内装を見て、小学生たちの好奇心はあっという間にしぼんでいきました。

「なんだよ、何もないじゃん」

「つまんねー。帰ってAの家でゲームしようぜ」

「てか、もう夕方じゃん。こんな時間じゃゲームできないよ、早く帰らないとママに怒ら……」

ふと、Aさんは部屋に備え付けてあった時計を見て言葉を詰まらせました。

慌てて部屋の窓辺に駆け寄り、閉まっていた紺色のカーテンをバッと開けると、外がオレンジ色に染まっていたのです。

真昼なのに窓の外は…

空き家に来てから経った時間はせいぜい20、30分のはず。昼間の明かりが沈むほど長居した記憶はありませんでした。

「ねえ、やばいって」

「お、俺もう帰るから――」

ガタン!

写真はイメージです。提供:アフロ

2階から椅子を動かしたような物音が響きました。

大騒ぎになった一同でしたが、メンバーの1人が『さっき2階探索のときに動かした物が落ちたのではないか』と言い出したことで、一同の足はその場に釘付けになってしまいました。

そもそも空き家に勝手に入ってしまったことへの罪悪感に加え、“動かしたものは元に戻さないといけない”という小学生的な倫理観も働き、再び一同は恐る恐る2階に足を運んだのです。

電気の点かない薄暗い空き家では、カーテンの隙間から差し込む外のオレンジ色の明かりだけが頼り。

抜き足差し足で近づいたのは2階の子ども部屋。そこのドアを開けた一同が目にしたのは信じられない光景でした。

2階に上がった一同が目にした信じられない光景

写真はイメージです。提供:アフロ

部屋の真ん中に置かれた一脚の椅子。こちらに背を向けたその椅子に大人の男性が座っていたのです。

キィ。

男が自分たちに向かって振り向き始めるような、微かなゆらぎを見せたその瞬間、Aさんはとっさに声をあげました。

「ご、ごめんなさい! すみませんでした!」

突然謝ったAさんに面食らった同級生たちでしたが、矢庭に「ごめんなさい!」「すぐ帰ります!」「すみませんでした!」と口々に謝り始めました。

しかし、椅子の男は言葉を返さずゆっくりと顔を元の位置に戻すと、おもむろにポケットから大きめのビニール袋を取り出したのです。

ガサリ……。

男は、音を立ててそれを頭にかぶったのです。

理解不能な行動に皆固まっていると、静まり返った部屋に不快で異様な音がこだまし始めました。

フウッ…パソッ…ウウッ…! パソッ…! ウッ……グウゥ…!

苦しみ乱れる呼吸に合わせて男の口に張り付くビニール袋。

まるで誰かに拷問でも受けているかのように苦しむ男の不気味な後ろ姿。

不意に言いようのないおぞましい気持ちが部屋中に満ち、それが無防備な自分たちにドロリ……と覆いかぶさるような感覚を覚えた一同は、叫び声をあげるとその場から走り去りました。

後日、各々が家族にそれとなくあの空き家について聞いてみたところ、口々に『あの家は元から人が住んでいない』と言われたそうです。

「お前ら、見なかったのか……」

一週間後。

一同はあの日の出来事や不気味な男のことを誰にも相談できないもどかしさを抱えたまま、自治会主催の野球大会に参加していました。というのも、探検メンバーのひとりだった野球好きのFくんに誘われる形で皆応援として集まっていたのです。

あの日の出来事はもう忘れよう……皆一様にそう思っていたのか、その日は誰も空き家の話題を出さずに、ワイワイと冗談や応援に熱を入れていました。

「……え、う、うわああぁー!」

試合も中盤に差し掛かった頃、突然、バッターボックスに入ったFくんがバットを放り投げ、叫びながら走り去る事件が起きました。

試合は急遽控えのメンバーを代打に出してことなきを得たそうですが、試合後にFくんが学校を数日休んだことで、Aさんらはあの奇行の背景には空き家での出来事が関わっているのでは、との疑いを強めていました。

そしてその疑いは、友人たちとFさんの家にお見舞いにきたとき確信に変わったのです。

「お前ら、見なかったのか……」

近隣住民が集まった賑わいの中。

野球場奥の金属フェンスの向こうに、あの男が立っているのが目に入ったというのです。

写真はイメージです。提供:アフロ

「そいつ、俺の方を見てからさ……急にビニール袋取り出してかぶったんだ」

青ざめながら語るFくんを遮るように、Aさんらは『いるわけがない!』と怒鳴りつけると、逃げ去るように彼の家を後にしてしまいました。

その後、Aさんたちの間であの空き家の話題が出ることはなく、Fくんは翌年に転校。Aさん一家も高校に上がる頃にはその新興住宅地を離れました。

以来、Aさんはビニール袋系全般の擦れる音を聞くと、あの日の出来事がフラッシュバックし、怖くて仕方がなくなってしまった、というのです。

文=むくろ幽介

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