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金沢に息づく伝統工芸を現代の感性で昇華。新しい工芸を牽引する注目の作家たち

  • 2026.4.16

※2020年初出『リシェス』No.34に掲載されたアーカイブ記事を再編集して公開します。

江戸時代に百万石を誇った加賀藩前田家。幕府への忠誠の証として、武力ではなく全国から優れた職人を招き、芸術文化を奨励したことでも知られています。金沢に根付く贅と技を尽くした圧倒的な伝統工芸は、九谷焼、輪島塗、金沢箔、加賀友禅など実に多彩。それら伝統に革新を融合した新しいスタイルの作家の登場は、ヘリテージである伝統工芸にも刺激を与え、響き合いながら、比類なき“工芸王国”を生み出しています。

脱クラフトな新アプローチが新鮮。モダンな表現で世界に羽ばたく“工芸未来派”

金沢やその近郊には、伝統技法に現代的な解釈を加えた作品を生み出す“工芸未来派”と呼ばれる作家たちがいます。その勢いは「ロエベ財団クラフトプライズ」で、複数のファイナリストを輩出するほど。また“工芸未来派”の流れを導いてきたアーティスティックディレクター、秋元雄史のキュレーションによる北陸発の工芸・アート展「GO FOR KOGEI」が、2026年5月9日(土)からヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展と同時開催で行われるなど、世界へと広がっています。進化する工芸から4人の作家をご紹介します。

【田中信行さん】浮遊するモダンな漆

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<Profile>
田中信行(たなかのぶゆき)

1959年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了。2019年にはドイツ・カイザースラウテルン美術館とミュンスター漆美術館で初のヨーロッパでの個展を開催。東京国立近代美術館、金沢21世紀美術館、森美術館、NYのメトロポリタン美術館など国内外に収蔵多数。現在、金沢美術工芸大学工芸科の教授を務める。「ロエベ財団クラフトプライズ2026」のファイナリストにも選出されている。


「触生の記憶」(2003年)金沢21世紀美術館蔵。今にも動き出しそうな揺らぎを感じる朱漆の作品。 Photo:Yoshihiro Shinano

従来の漆の概念を覆す作品を発表する田中信行さん。麻布を漆で貼り合わせて形作る乾漆技法を用い、漆の皮膜だけを立体として立ち上げたような造形作品を生み出しています。ダイナミックかつセンシュアルなフォルムが漆の艶と相まった、独自の浮遊感に惹かれます。

2019年3月31日〜6月30日に開催されたミュンスター漆美術館での個展「NOBUYUKI TANAKA Urformen Primordial Memories」での展示風景。 Hearst Owned
東京・六本木の森美術館での展示も行われた作品「FLOW」(2018年)。 Hearst Owned

【坂井直樹さん】用を美に昇華した鍛金

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<Profile>
坂井直樹(さかいなおき)

1973年群馬県生まれ。2003年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程 鍛金研究領域修了、博士学位取得。多くの工芸作家を輩出している金沢卯辰山工芸工房にて、2013年より指導にあたる。ドイツ ベルリン フンボルトフォーラム茶室デザインコンペ最優秀賞など多数受賞。現在、東北芸術工科大学准教授。


表面の凹凸や錆びが味わいのある鉄瓶「湯のこもるカタチ」。コンロ「火のこもるカタチ」と共に。 Hearst Owned

鉄を熱し、金槌で叩きながら形を調えていく鍛金の技法で作品をつくる坂井直樹さん。雨が多く湿度も高い金沢では鉄がよく錆びることに気づき、自然により変化する鉄に一層愛着が湧いたといいます。素材との対話を繰り返しながら、用のアイテムを美へと高めます。

『「侘び」と「錆び」の花器(揺)』。挿花との調和も楽しめる美しいライン。 Hearst Owned
横長の端正な箱と持ち手のバランスがコンテンポラリーななかに人の手を感じさせます。意外にも手の届く価格なので、生活に取り入れやすい作品です。 Hearst Owned

【牟田陽日さん】エネルギッシュな九谷焼の色絵磁器

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<Profile>
牟田陽日(むたようか)

1981年東京都生まれ。2008年ロンドン大学ゴールドスミスカレッジファインアート科、石川県立九谷焼技術研修所を卒業。現在は石川県能美市にて作陶。日本橋三越本館美術サロンのほか多くの個展を開催。作品は抽選販売となるほどの人気。2020年作品集『美の器』(芸術新聞社)の出版、プロダクトデザインのブランド「irobiyori」も発表。2026年ヴェネチアで開催される「GO FOR KOGEI」にも出品予定。


辛めな極彩色の不思議な花々と凛とした芦毛の馬の絡み合う茶碗。花と獣のシリーズ。 Hearst Owned

絵画と器、2つの芸術が集積した九谷焼のパワーに引きつけられ、色絵磁器作家となった牟田陽日さん。主に描かれるのは龍、獅子といった神獣や動植物で、古今東西の図像を奔放に再構築しています。自然への畏敬の念とともに現代的な死生観や欲求、感情をも表現。

最初の茶碗作品から続く、libidoシリーズの「libido emergence」。羽化したばかりの蝉と鹿の骨と、華やかな花、儚さと毒が融合する作品。 Hearst Owned
愛らしい猿の置物「a ghost」。細部にまで描かれた色絵がエキゾチックな雰囲気を放っています。 Hearst Owned

【見附正康さん】赤絵細描という超絶技巧

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<Profile>
見附正康(みつけまさやす)

1975年石川県生まれ。赤絵細描の第一人者、福島武山さんに外弟子として10年間師事。日本スイス国交樹立150周年記念展覧会「ロジカルエモーション・日本現代美術展」でスイス、ポーランド、ドイツを巡回するなど国内外の展覧会に出展。石川県加賀市片山津で作品製作をおこなっています。


無題(大皿)(2019年)。直径50cm近くの大皿に描かれた規則正しい文様は、人の手で描かれたものとは思えない細かさ。ヨーロッパで目にした建築や教会の天井、椅子の装飾などもインスピレーション源。 (C)Masayasu Mitsuke. Courtesy of Ota Fine Arts

石川県南部に伝わる九谷焼の色絵技法、赤絵細描の見附正康さん。1本が1mmに満たない細い線を筆一本で正確無比に描く超絶技巧は、その精緻さに目を奪われます。自分の表現を模索するなか生まれたのが脇役だったグラフィカルな文様を主役にした数々の作品。

上の皿の裏面にも赤絵細描で描かれています。 (C)Masayasu Mitsuke. Courtesy of Ota Fine Arts
無題(蓋物)(2014年)。 (C)Masayasu Mitsuke. Courtesy of Ota Fine Arts

初出:リシェスNo.34 2020年11月27日発売
SPECIAL THANKS:TOURISUM POLICY SECTION CITY OF KANAZAWA, KANAZAWA CITY TOURISM ASSOCIATION

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