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ジョルジオ・アルマーニが残したもの。現代の東京ファッションを牽引する3人が語る、その革新とアーカイブ

  • 2026.6.16

〈ジョルジオ アルマーニ〉が1979年から1994年までに手がけた名作13ルックを忠実に再現した〈ARMANI/Archivio Re-Edition〉を発表。その発売を記念し、「ジョルジオ アルマーニ 表参道店」でトークショーが開催された。ファッションキュレーターの小木基史、ファッションデザイナーの大月壮士、エディターの山﨑潤祐が、時代を超えて受け継がれるデザインの本質を語った。

text: Keiichiro Miyata

左から山﨑潤祐、小木基史、大月壮士
BRUTUS

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小木基史

こぎ・もとふみ(ポギー)/ファッションキュレーター。1997年、〈UNITED ARROWS〉入社。販売、PRを経て、〈Liquor,Woman & Tears〉や〈UNITED ARROWS&SONS〉のディレクターを務める。2018年独立後は、〈LEVI'S®〉〈Loro Piana〉〈JIMMY CHOO〉〈PORSCHE〉など世界的ブランドと協業。HB100やBoF 500にも選出された、クラシックとストリートを融合するファッションアイコン。

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大月壮士

おおつき・そうし/ファッションデザイナー。2015年にメンズウェアレーベル〈SOSHIOTSUKI〉を立ち上げる。2016年「LVMH PRIZE 2016」のショートリストにノミネート。2023年にはRakuten Fashion Week TOKYOにてランウェイショーを発表。2025年「LVMH PRIZE 2025」でグランプリを受賞し、今年1月にはPitti Immagine Uomo 109のゲストデザイナーとしてランウェイショーを発表。

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山﨑潤祐

やまさき・じゅんすけ/エディター。『DAZED & CONFUSED JAPAN』『VOGUE HOMMES JAPAN』『FREE MAGAZINE』などを経て、ファッションアーカイブにも着目する自身のパブリケーション『198201111959』を創刊。雑誌・書籍編集のほかにも、ブランドPRやコンサルティングなど幅広く手がける。

スーツの常識を変えた、“軽やかさ”という革新

小木

〈ジョルジオ アルマーニ〉といえば、1980年代から90年代にかけて世界的な評価を確立したブランドです。当時のことについては、僕たちより詳しい方がたくさんいらっしゃると思いますので、今回はその功績を踏まえながら、2000年代以降のメンズウェアの変化、そして今、アルマーニの服がどのように見直されているのかをお話しできたらと思っています。

小木基史
ファッションキュレーター・小木基史さん

大月

僕が服に関心を持ち始めたのは、まさに2000年代でした。今から20年ほど前、ちょうどエディ・スリマンが〈Dior Homme〉を手がけていた頃です。当時の僕にとって、スーツといえば、細身で肩パッドがしっかり入り、少し硬さを感じるものだったんです。

ただ、年齢を重ねて体型も変わり、だんだんゆったりした服を着るようになった。同時にデザイナーや服の歴史を調べていく中で、〈ジョルジオ アルマーニ〉にたどり着きました。自分が当時すごく革新的だと思っていたスタイルも、元をたどると〈アルマーニ〉のソフトスーツにつながっている。そのことに気づいたのは、僕にとってかなり大きな発見でした。

大月壮士
〈SOSHIOTSUKI〉デザイナー・大月壮士さん

小木

2000年代は、エディ・スリマンやトム・ブラウン、トム・フォードらの活躍によって、細身で構築的なスーツが時代の主流になりました。その中で、〈アルマーニ〉が築いた、肩の構築を抑えた身体に沿うソフトスーツは、シルエットとしては真逆の存在だったと思います。でも今振り返ると、その軽さや柔らかさ、シルエットに残された余白が、あらためて新鮮に見えるんですよね。

大月さんが2024年に自身のブランド〈SOSHIOTSUKI〉をリブランディングした際のコレクションを見ても、〈ジョルジオ アルマーニ〉をはじめ、過去のデザインを深く研究した跡が感じられます。シルエットだけでなく、色や素材の捉え方にも、その影響がありますよね。

大月

そうですね。それまでは黒一色の、いわゆる誰もが思い浮かべる“モード”のような服を作っていました。でも、だんだん黒であることよりも、服全体が持つ空気感や、色の奥行きの方が大事なのではないかと思うようになったんです。〈ジョルジオ アルマーニ〉のカラーパレットをそのまま引用しているわけではありません。

ただ、アーカイブを見ると、一見グレーに見えて、実は青みや赤みのある糸が入っている。単純な一色ではなく、いろいろな色が混ざることで奥行きが生まれているんですよね。僕自身は、そこから日本的なグレーのようなものを考えていて、かなり勉強させてもらっています。

〈Archivio Re-Edition〉
〈ARMANI/Archivio Re-Edition〉では、1979年から1994年までに発表された〈ジョルジオ アルマーニ〉のメンズおよびウィメンズ13種のルックを忠実に再現し、販売。現在、銀座店と表参道店に並んでいる。

過去の遺産を、未来の想像力へ変えていく

山﨑

そうやって過去の服を現在の感覚で見直す動きは、〈アルマーニ〉に限らず、ブランドアーカイブ全体に広がっています。以前ならオークションサイトで比較的簡単に手に入った服が、今ではほとんど見つからず、ものによっては価格が10倍、20倍になっている。

単に古い服としてではなく、現在のデザインにつながる源流として見られるようになってきたのだと思います。

山﨑潤祐
ファッションエディター・山﨑潤祐さん

小木

今回の〈ARMANI/Archivio Re-Edition〉のキャンペーンビジュアルも、単なる“復刻”だけではない、ブランドの姿勢を感じましたね。

山崎

クラシックなヨーロッパの写真家ではなく、LAを拠点に若い世代を撮ってきたイーライ・ラッセル・リネッツをクリエイティブディレクターに起用したキャスティングも新鮮でしたね。過去のルックを忠実に再現しながら、アウトプットはきちんと現在形になっている。そうやって単なる懐古ではなく、アーカイブを今の世代へつなごうとする意思を強く感じました。

Archivio Re-Editionのキャンペーンビジュアル
ARMANI/Archivio Re-Edition/イーライ・ラッセル・リネッツをクリエイティブディレクターに起用したキャンペーンビジュアル。
アルマーニGAM SS 1983
GAM SS 1983/アウトドアの作業着を着想源に、機能性とテーラリングを融合したセットアップ。ハイネックのボンバージャケットにはジップやフラップ、ギャザーなど実用的なディテールを備え、シルク地とスエード調素材で上品に仕上げた。ブルゾン1,320,000円、シャツ168,300円、パンツ275,000円、ネクタイ48,400円。
アルマーニGAM SS 1990
GAM SS 1990/グレージュのリネン混ヘリンボーンで仕立てた、ジャケット、ベスト、パンツの三つ揃い。ショールカラーのダブルブレストジャケットは構造を簡素化した半裏仕様で、柔らかな着心地に。ジャケット561,000円、ベスト242,000円、シャツ159,500円、パンツ297,000円。

小木

僕が着ている〈ARMANI/Archivio Re-Edition〉のジャケットも、実際に袖を通すことで違いがよくわかります。こういうソフトスーツやルーズなシルエットのジャケットは、体が膨張して見えることもあるんです。でも、これは着たときの見え方が全然違います。

聞いてみると、後ろ身頃を少し大きめに作っていたり、ウエストの位置を高めに設定していたりするそうです。単にゆったりしているわけではなく、細かなパターンの工夫によって、着たときにきちんと品がある。軽さや柔らかさがありながら、だらしなく見えない。そのバランスは、さすがですね。

大月

小木さんが着ているジャケットは、ラペルの返り方も面白いですよね。一般的には“返りが甘い”とされるような柔らかさが、逆に生地の表情を引き出している。単に芯地やパッドを減らしたというだけではなく、ラペルの丸みや裾の処理など、カッティングそのもので柔らかさを表現している。そこに“アルマーニらしさ”を感じます。

山﨑

“アルマーニらしさ”は、多岐にわたりますね。僕が気になったのは、日本の甲冑から着想したレザージャケットです。他国の文化をそのまま引用するのではなく、きちんと咀嚼して自身の美意識へと落とし込んでいる。服だけでなく、インテリアや空間、生活全体まで、一つの感性で貫かれている世界観の広さは素晴らしい。

アルマーニのトップス
1980年代初頭に高まった日本美学への関心を背景に、アルマーニは儀礼用甲冑の大鎧(おおよろい)から着想を得たモチーフを取り入れた。1,870,000円。
1980年代を代表するルック
ブラウン、グレー、ベージュのメランジ調ビスコースギャバジンで作られたショートブルゾンに、ハイウエストのミディアムスカートを合わせた1980年代を代表するルック。アウター517,000円、スカート374,000円。
ヘリンボーンパンツ
サンドベージュとコーヒーブラウンのトーンでまとめたウールとコットン混のヘリンボーンパンツ。共地のジャケット、ベストも揃い、三つ揃いとして楽しめる。319,000円。

小木

現代では〈AURALEE〉や〈A.PRESSE〉のような、シンプルで上質な服を作る日本のブランドが海外でも評価されています。少し前にラグジュアリーストリートを通過した世代が大人になって、派手なデザインよりも、素材や仕立ての良さに目を向けるようになった。

そういう時代の流れも、〈ジョルジオ アルマーニ〉の再評価につながっている気がします。一方で、時代を超えて残る服と、その時代だけで終わる服の違いもありますよね。

山﨑

トレンドだけを見て作った服は、意外と残りにくいと思います。むしろ、デザイナーが自分自身を突き詰めた結果、それがたまたま時代に受け入れられたものの方が、その先まで残っていく。〈ジョルジオ アルマーニ〉の服には、マーケティングよりも先に、素材をどう生かすか、身体にどう沿わせるかという考えがあった。だから時代を超えられたのではないでしょうか。

大月

アーカイブとして残るには、社会にどれだけ影響を与えたかも重要だと思うんです。それを着続け、愛し続ける人がいて、初めて歴史になる。服を作るだけではなく、どう届けるか、どんな生活の中に浸透させるか。その積み重ねも必要だと思います。デザイナーにとっては、過去の名作を見るだけでも大きな学びになります。

小木

そういう意味では、着る人にとっても、作り手にとっても、アーカイブを未来に語り継いでいくことには大きな意味がありますよね。過去のデザインを保存するだけでなく、その背景や技術、思想まで次の世代が受け取り、そこから新しい表現を生み出していく。アーカイブは、歴史を振り返るためのものではなく、未来の創造力を育てるための“ファッション界の共有財産”なのかもしれません。

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