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「早く減らした方が安心」住宅ローン“500万円”を繰り上げ返済→8年後、40代男性を直撃した“過酷な現実”【お金のプロは見た】

  • 2026.5.9
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは!マネーシップス代表の石坂です。

住宅ローンの繰り上げ返済は、借入元本を前倒しで減らし、将来の利息負担を軽くする方法です。返済期間を短くする方法や、毎月の返済額を下げる方法があるため、「早く返した方が安心」と考える方は少なくありません。

一方で、繰り上げ返済で使用したお金は、預貯金のようにすぐ使える形では戻りません。利息は減っても、教育費、修繕費、収入減少などに対応する現金が不足すれば、家計はかえって不安定になります。

今回は、FPとして相談を受ける中でも見られる「繰り上げ返済と手元資金のバランス」について、40代会社員の事例をもとに解説します。

「早く返せば安心」の思い込みが招いた8年後の資金難

相談者は、首都圏で働く40代会社員のBさん(仮名)です。

Bさんは30代後半で住宅を購入し、約3,500万円の住宅ローンを組みました。

借入期間は35年で、金利条件にもよりますが、毎月の返済額は約10万円です。共働きで世帯年収は約850万円あり、購入当初は返済に大きな不安はありませんでした。
それでもBさんは、「借金は早く減らした方が安心」と考えていました。

そのため、ボーナスが入るたびに一部を繰り上げ返済へ回します。

  • 1回目は100万円
  • 2回目は150万円

その後も数年にわたり返済を続け、住宅購入から6年ほどで合計500万円を繰り上げ返済に充てました。ローン残高は予定より早く減り、金利条件によっては将来支払う利息も大きく軽くなる見込みでした。Bさんは「これで老後の負担も減る」と安心していたそうです。

ところが、住宅購入から8年ほど経ったころ、家計の状況が変わります。
まず、子どもの進学で教育費が増えました。中学受験に向けた塾代は月5万円ほどに、夏期講習や模試代を含めると、年間80万円近い支出になりました。
さらに、下の子どもの習い事も重なり、毎月の教育関連費は合計8万円前後まで増えたそうです。

そこに、自宅設備の故障が重なります。給湯器の交換に約35万円。外壁と屋根の補修見積もりは約120万円。購入時には「まだ先の話」と思っていた修繕費が、まとまった支出として現実になったのです。

さらに、勤務先の業績悪化でボーナスが年間約60万円減りました。
Bさんは、ここで初めて「手元の現金が思ったより少ない」と気づいたそうです。

繰り上げ返済によってローン残高は減っていました。しかし、預貯金は約180万円まで減少。毎月の生活費が約35万円かかるため、手元資金は生活費の5か月分ほどです。そこから教育費や修繕費を支払うと、すぐに余裕がなくなります。

結果として、Bさんは一時的にカードローンの利用も検討するほど、資金繰りに不安を抱えることになりました。利息を減らすためにした繰り上げ返済が、急な支出への対応力を下げていたのです。

Bさんにとって誤算だったのは、「ローン残高が減ること」と「家計が安全になること」を同じ意味で考えていた点です。
住宅ローンの残高が減ること自体は、悪いことではありません。ただし、生活防衛資金まで削って返済に回すと、急な支出が発生したときに家計が動かなくなります。

繰り上げ返済が持つ「2つの側面」

繰り上げ返済は「利息削減」と同時に、強力な「現金減少」を引き起こします。

判断する際に忘れてはならない視点がいくつかあります。

  1. 「団信」という保険の価値:住宅ローンには多くの場合、団体信用生命保険(団信)が付いています。もし債務者に万一のことがあれば、ローンはゼロになります。無理に繰り上げ返済をして現金を減らしてしまうと、万一の際に遺族が自由に使える現金を失うことにもなりかねません。
  2. 住宅ローン控除への影響:控除期間中に繰り上げ返済を行うと、年末の残高が減り、受け取れる控除額が少なくなる場合があります。また、「期間短縮型」を選んで完済までの期間が10年を切ると、残りの控除自体が受けられなくなるリスクもあります。
  3. 低金利下での機会費用:住宅ローンが低金利である場合、繰り上げ返済で得られる「利息軽減効果」よりも、手元に現金を残して資産運用したり、教育費の備えとして持っておいたりする「安心料」の方が価値が高いケースもあります。

FP視点で見る「返す前に残すべきお金」

FPの立場で繰り上げ返済で大切なのは、返済額そのものというよりも「返済後にいくら残るか」です。
目安として、最低でも生活費の6か月分は手元に残したいところです。毎月の生活費が35万円なら、少なくとも210万円です。

子どもの教育費や住宅修繕費が近い時期に見込まれる家庭では、生活費の1年分に近い金額を残す方が安全です。Bさんのように毎月35万円かかる家庭なら、400万円前後を手元に残しておくと安心感があります。

そのうえで、当面使う予定のない資金がある場合に、繰り上げ返済を検討する流れが現実的です。

特に40代は、住宅ローン・教育費・親の介護・自宅の修繕が重なりやすい時期です。
繰り上げ返済は有効な選択肢になりますが、万能ではありません。「利息を減らすこと」だけを目的にすると、手元資金の不足を見落としやすくなります。

早く返すより、必要なときに活用できるお金を残す方が、家計を守る場面もあります。
繰り上げ返済をする前には、教育費、修繕費、収入減少への備えを確認しましょう。そのうえで、無理のない範囲で返済を進めることが大切です。


※住宅ローンの繰り上げ返済の効果や影響は、借入条件(金利・残期間)や税制、ご家庭の収支状況によって大きく異なります。具体的な返済計画については、金融機関のシミュレーションを利用するか、FPなどの専門家にご相談ください。

執筆・監修:石坂貴史
証券会社IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー・証券外務員)、2級FP技能士、AFP、マネーシップス代表。累計1,200件以上のご相談、金融関連の記事制作、校正・監修を手掛けています。「金融・経済、不動産、保険、相続、税制」の6つの分野が専門。お金の運用やライフプランの相談において、ポートフォリオ理論と行動経済学を基盤にサポートいたします。

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