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『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』のポジティブ少女イ・レ「愛と慰め、連帯といったテーマが込められている作品です」

  • 2026.4.10

笑顔は人の本質を表すのかもしれない。取材のとき、俳優イ・レの周りを一瞬で暖かくする笑顔を見て、改めてそう感じた。彼女のフィルモグラフィを振り返ると、役柄のうえで言えば非常に困難な道のりをたどってきた印象がある。『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』(公開中)で演じた、ソウル国際芸術団の舞踊科に所属するイニョンもまた同様だ。母子家庭で育った彼女は、母が交通事故死したあと、家賃も払えないほど困窮した生活を送る。悲痛な展開だが、逆境に打ち勝とうとするイニョンに、イ・レは脚本を読んだ瞬間からとてもポジティブなものを感じたという。

【写真を見る】シンプルなタンクトップでも映える透明感と、監督も配役の決め手になったという”まなざし”が印象的なイ・レ

『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』は、とてもイニョンらしいタイトル

たった一人の家族である母を失ったイニョンは、それでも強く生きていく [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED
たった一人の家族である母を失ったイニョンは、それでも強く生きていく [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED

「私がいまの年齢でできる作品のなかでも、こんなにも明るくエネルギッシュな作品をいただけて感謝しました。イニョンの明るさとキャラクター、韓国舞踊という踊りを踊るという点が魅力的で、挑戦してみる価値のあるジャンルだと思ったんです」。

【写真を見る】シンプルなタンクトップでも映える透明感と、監督も配役の決め手になったという”まなざし”が印象的なイ・レ [c]Noon Company
【写真を見る】シンプルなタンクトップでも映える透明感と、監督も配役の決め手になったという”まなざし”が印象的なイ・レ [c]Noon Company

実は原題の『괜찮아 괜찮아 괜찮아!』(日本語の『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』と同じ意味)というタイトル、企画・制作段階では『ドリームズ』だった。2023年の釜山国際映画祭でのワールドプレミア前に現在のタイトルで最終決定となったそうだ。キム・ヘヨン監督曰く「イニョンもみんな“大丈夫”だったらいいと思って決めた」そうだ。タイトル変遷にまつわるエピソードを、イ・レ本人にも尋ねてみた。

ソウル国際芸術団で伝統舞踊に青春を賭ける高校生たち [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED
ソウル国際芸術団で伝統舞踊に青春を賭ける高校生たち [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED

「撮影中もスタッフや監督、俳優の皆さんとタイトルをどうすれば良いか相談して、一緒にアイデアを出し合いました。『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』というタイトルにしたと聞いたとき、この作品のシナリオにふさわしい、イニョンらしいタイトルだととても気に入りました。 映画では“慰め”が大きな柱になっていると思いますが、そのキーワードを最もよく表す言葉が『大丈夫』という言葉ですよね。観客の皆様が温かい思いやりを受け取っていただければと思いました」。

チン・ソヨンのプロ意識に脱帽…「先輩として尊敬しています」

イ・レが言及したように、イニョンはもちろん、映画のなかの登場人物の多くが励ましを必要としている。チン・ソヨン演じる芸術監督のソラは、ルックスも抜群、生活スタイルも徹底的に律していて、他人にも自分にも厳しい人間だ。ただその完璧主義が、彼女自身を追い込んでいる面がある。家賃が払えず練習室に寝泊まりしていたイニョンを思いがけず家に招き入れることになったソラとイニョンは、師弟であり、母子のようでもあり、それでいて徐々に互いを癒すシスターフッドのような関係性も築いていく。

他人を寄せつけないソラ先生 [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED
他人を寄せつけないソラ先生 [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED

チン・ソヨンとはもちろん撮影準備期間中にとても親しくなったものの、“イニョン”と“ソラ”というそれぞれのキャラクターとして完璧でいるために、現場では緊張感が解けなかったそうだ。こんなふうに互いがプロフェッショナルであるがゆえの苦労はありつつも、イ・レはチン・ソヨンについて「俳優の先輩として大変尊敬いたしました」と振り返る。

練習室で寝泊まりするイニョンを仕方なく自宅へ連れてきたソラ先生だったが… [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED
練習室で寝泊まりするイニョンを仕方なく自宅へ連れてきたソラ先生だったが… [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED

「チン・ソヨンさんは、ソラ先生役のために食事をはじめ完璧な準備をなさっていました。わかめスープを食べるシーンでは、スープの塩分によるむくみで次の撮影に支障が出るのではと心配されて、わかめに水だけを入れて演技をされたんです。それでも自然なお芝居でした」。

チョン・スビン、イ・ジョンハら同世代の俳優同士での思い出

舞踊チームで競い合う芸術団のライバル・ナリ役のチョン・スビン、また可愛らしいボーイフレンドであるドユンを演じられたイ・ジョンハとも良い関係を築いた。

芸術団のトップを期待する母からのプレッシャーに押しつぶされそうなナリ [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED
芸術団のトップを期待する母からのプレッシャーに押しつぶされそうなナリ [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED

「チョン・スビンさんと一緒に踊りを習い、準備をする期間から心がとても開かれました。キャラクターの関係性に影響しないように、撮影現場では距離感を少し保ちましたが、それ以外の時間はコミュニケーションを多く取るように努めました。撮影が終わったあと、みんなで宿舎に滞在している間に連絡を取り合い、チョン・スビンさんの部屋に遊びに行って映画を観たり、好きな俳優ややりたいジャンルについて語り合った時間がとても印象に残っていて、楽しい思い出です」。

イニョンを優しく包むようなドユン [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED
イニョンを優しく包むようなドユン [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED

「イ・ジョンハさんとは現場でとても楽でした。 年の差は少しあるものの、とても親しみやすく、まるでお兄さんのようであり、時には友達のようにも接することができました。それは、イ・ジョンハさんがいつもリラックスした雰囲気で話しかけてくださり、私も自然体でいられるようにしてくださったからだと思います。そうした配慮のおかげで、現場でご一緒する時間はとても楽しく、撮影というよりも学校に通っているような感覚でした」。

「感情をあふれさせるシーンでは、子どものように泣いてほしいと言われました」

そしてひときわ印象深いのが、ソン・ソック扮する、幼い頃から親しくしている近所の薬剤師・ドンウクとのやりとりだった。特に、いつも明るく振る舞うイニョンが、ドンウクの前で大泣きする場面は胸に迫る。優しい言葉をかけられて堰を切ったように感情をあふれさせるイニョンは、はりつめた思いがゆるみ、ようやく子どもに戻れたようになる。

イニョンと薬剤師ドンウクのかけ合いも必見 [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED
イニョンと薬剤師ドンウクのかけ合いも必見 [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED

「ソン・ソックさんとの共演シーンは、1日でまとめて撮影したのですが、とてもリラックスした雰囲気を作ってくださいました。撮影前には一度だけミーティングがあり、作品の話というよりも、お互いのことについてたくさん話をしました。監督が人と人とのコミュニケーションを重視しながら私たちをつなげてくださったのもあり、現場でより安心して臨めました。ご一緒したことがないので撮影まではほぼ面識がなかったのですが、なぜかとても親しみやすくて…先輩なのに知り合いのおじさんのような感じでした(笑)。イニョンが大泣きするシーンは、監督から『もっと子どものようにワンワン泣いてほしい』とディレクションがあったんです。そのほうがより人間味あふれる泣き方に見えると思ったので、子どものように泣こうとしました」。

優しい言葉をかけられて堰を切ったように感情をあふれさせるイニョン。寂しさを見せまいとしていた彼女がようやく子どもに戻れたような姿は、観客の胸を打つ。そして作品終盤にある、遊園地を舞台に彼女が年頃らしくはしゃぐシーンは、コミカルで見る者の心を明るくさせる。

「監督がどのような意図だったかをすべてお伝えするのは難しいですが、とにかく、あのシーンに非常に大きな愛情を持っていらっしゃいました。私もまた、イニョンがなぜ周囲の人々にポジティブなエネルギーを与えられるのかを説明できる、重要なシーンだったんじゃないかなと思っています。現実はイニョンにとって冷酷なんですが、にもかかわらず彼女が自分の世界では非常に明るく自由で、何だってできると思えるような姿を見せられる場面でしたし、イニョン本人にも慰めになるだろうと考えました。あの撮影では、『こんなにやんちゃで自由に振る舞ったことがあったかな?』と自分でも思うほど初めての感情を表現しなければならなかったので、思い切り自分を解放しようとした記憶があります。 私の大好きなアトラクションに乗るシーンも撮影したので、本当に楽しかったですね」。

イニョンのポジティブさがそのまま表現されたテーマ曲 [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED
イニョンのポジティブさがそのまま表現されたテーマ曲 [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED

イ・レは今回、劇中オリジナルテーマ曲「どこでもいつでも(原題:어디든지 언제든지)」の歌唱も務めた。本人曰く初めてのレコーディングだったというが、透明感のある伸びやかな歌声はとても初挑戦とは思えず、観客に忘れがたい余韻を残した。

「レコーディングは初めてだったこともあり、不安や緊張がありました。でも、曲のテーマや歌詞がイニョンのことをよく表現している感じだったので、、だったら演じた自分が一番うまく表現できるのではないかと思い、最善を尽くそうと決意しました。出来栄えはまだまだだったかもしれませんが、想像以上に楽しくて、いまではとても愛着があります。(「また歌声を聴かせてもらえますか?」という質問に)いつかお聞かせできるように、一生懸命練習しておきますね(笑)」。

イ・レが映画に込めたメッセージ「競争よりももっと大切な価値がある」

韓国は世界でも有数の超学歴社会だとされているが、それは熾烈な競争社会が影響している。ソラ先生がオーディションによる選抜メンバーだけを舞台に立たせようとする展開や、母親の過剰な期待に応えようと気負ってしまう学生たちの姿、プレッシャーと対立を越えて連帯し合うイニョンたちを通じて、『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』は競うだけの社会が一度立ち止まるためのヒントをくれる。

昨年は『三日葬』でホラー映画にも挑んだイ・レ [c]Noon Company
昨年は『三日葬』でホラー映画にも挑んだイ・レ [c]Noon Company

「競争社会というのは、韓国に限らずどこにでもあるものだと思います。本作は単に競争の構図を描くよりも、『本当に大切な価値とは何か』を問いかける物語で、愛と慰め、そして連帯といったテーマが込められていることを、誇らしく思っています。それに、この作品では、誰かが悪意を抱いて人を傷つけたりしないですよね。人と人が親しくなって、お互いに慰め合い、時にぶつかり合いながら関係を築いていく姿を見た観客の方々に、『私もああいう日常を送りたい』と思っていただけたらうれしいです」。

去る3月12日、イ・レは20歳という節目の年齢を迎えた。彼女の子役時代からの演技を知る韓国映画ファンにとって、『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』は少女から成長していくイ・レのリアルに重なって見えて、目を細めたことだろう。長い芸能生活のなかで、自身にも変化があったようだ。

「昨年、大人の役に初めて挑戦して、撮影現場で立派な俳優としているためには、もう自分に甘えるべきではないと感じました。まだまだ未熟な部分があるので、一歩一歩さらに努力していかなければならないと決心しました」。

劇中で披露される伝統舞踏は他の作品の撮影中でも練習を続けたという [c]Noon Company
劇中で披露される伝統舞踏は他の作品の撮影中でも練習を続けたという [c]Noon Company

性被害から回復していこうとする『ソウォン 願い』(13)。大人たちをあっと言わせる奇想天外な計画を思いつく『犬どろぼう完全計画』(15)。荒廃した半島を舞台に華麗なドライビングテクニックを披露する『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)。イ・レが演じてきた少女はある時は懸命で、ある時はユニークで、それでいてどれもとびきり愛らしく、スクリーンのなかで力強く存在していた。『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』では、少女から大人へと変わるさなかのイニョンを演じ、ベストアクトを後進した。そんなイ・レは、これから挑戦していきたい作品に時代劇を挙げる。幼い頃からジャンル作品への出演が多かった彼女は、未経験の世界観や出来事を演じる際、自身とは大きく異なるシチュエーションやキャラクターのなかにも、共通する部分を見つけようと努めてきたという。その積み重ねが、今回の名演に繋がっている。

イ・レの明るさとポジティブさがイニョンにぴったり [c]Noon Company
イ・レの明るさとポジティブさがイニョンにぴったり [c]Noon Company

イ・レをロールモデルとして、背中を追い芸能界に入る子役俳優たちも多いはず。そう問いを投げかけると、「子役俳優たちのロールモデルかもしれないとおっしゃっていただき、とても励みになり、感謝の気持ちでいっぱいです。ただ同時に、責任の重さも感じています」と表情を引き締めた。

「とにかく、恥ずかしくない先輩になりたいです。俳優を夢見ているその子たちが、同じ夢を見て私という俳優を通り過ぎていくだけでも本当に貴重な経験です。私自身にも尊敬する憧れの先輩たちはたくさんいるんですが、それよりもまずは自分自身にもっと集中しようと努力しています。誰かを真似するのではなく、台本を自分なりに掘り下げ、イメージを作り出すというよりも、自分の中にあるものを少しずつ積み重ねていきたいと思っています。誠実に、真実と向き合いながら演じること。それが幼い頃から今も追求し続けていることです」。

取材・文/荒井 南

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