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「いつもどこかにパラノイアの気配がある」セシリー・ブラウン、自身の絵画の背後にある秘密

  • 2026.4.8
photo: Oliver Holms

前回私がセシリー・ブラウンにインタビューしたのは2020年初頭のことで、そのときの私たちは、世界的なパンデミックがまもなく生活を一変させるとは思いもしていなかった。過去30年にわたりニューヨークを拠点に活動してきたこのイギリスのアーティストは、ブレナム宮殿での展覧会のために英国へ戻る準備を進めていて、その際に私たちは、彼女が抱くイギリスの田園風景へのノスタルジックなまなざしと、その幻想的な表層の下に潜む暗さについて語り合った。それは、その展覧会のために制作された、魅惑的でありながらどこか不穏さを孕んだ作品群に如実に表れていた。

セシリー・ブラウン《Nature Walk with Paranoia》(2024) Copyright Cecily Brown

「ちなみに、私は結局その展覧会を見られなかった」とブラウンは、度重なるロックダウンで延期を余儀なくされたその展示について、悔しさをにじませて語る。今年は、ロンドンのサーペンタインでの個展には自ら足を運べることを願っているという。それは前回の展示と同様、のどかな環境のなかで豊かに生い茂る美しさのヴィジョンを呼び起こしながらも、その奥にどこか脅かすような気配を忍ばせたものになるのだろう。

今回の着想源となっているのはケンジントン・ガーデンズそのものだ。彼女は美術学生時代にこの場所で過ごした思い出を懐かしく振り返り(1988年には当時の教師であったマギー・ハンブリングの作品をサーぺンタインで見たことも覚えているという)、さらに自身の創作形成期に大きな影響を与えた児童書の挿絵にも立ち返っている。

「子どものころに見ていたものにもう一度戻ってみたんです。『ピーターラビット』を生み出したビアトリクス・ポターや、『ねこのオーランドー』に、ヴィンテージのレディバード・ブックス(イギリスの子ども向け絵本シリーズ)まで。そうした絵が、ひとつのイメージを通して別の世界へ入り込むという点で、どれほど大きな影響をもらったのか気づきました」

優れたおとぎ話と同じように、近年の自然を描いた彼女の絵画は、幻想と恐怖の境界をかすかに揺れ動く。「公園を散歩している場面を描いているように見えるかもしれないけれど、どの木の陰にも誰かが潜んでいる。物事がほんの少し歪み、不安や被害妄想の気配が漂うその場所を見つけようとしているのだと思います」

セシリー・ブラウン《A Round Robin》(2023-2024) photo: Genevieve Hanson

新作の絵画には、ブラウン特有の躍動的な筆致と豊かな色彩をたたえたギャラリーの空間の描写も含まれており、アーカイブ作品とともに展示されている。そのなかには、人物の身体が水辺の背景へと溶け込んでいくように見えるボートの場面を描いたシリーズや、ペンとインクによる作品も含まれる。

「これらはまさに作業のためのドローイングなんです。同じイメージを何度も何度も描き直して、いざ絵画にするときには主題を完全に把握している状態にする。そうすると、自然と画面に現れてくるんです」と彼女は語る。さらに、スケッチの段階でより具象的なアプローチをとることが、鑑賞者が彼女の絵画を読み解く手がかりにもなるという。

実際、彼女の作品はいずれも、じっと見続けることをうながす。長く見れば見るほど、あの混沌とした色彩の渦のなかから、さまざまな秘密が浮かび上がってくるのだ。

「人を少し戸惑わせるのが好きなんです」とブラウンは続ける。「常に何かしら目を引くものがあって、そこから引き込まれていく──そんな作品であってほしいと思っています」


〜2026/9/6、サーペンタイン・サウス・ギャラリー

from Harper's BAZAAR UK

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