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毛利悠子がスペインで個展開催中──見えない力がからまる世界

  • 2026.4.8
毛利悠子。 Photo: Belen de Benito

レンゾ・ピアノが設計した海辺の美術館で、動きのある8点の作品を核に、過去作と、スペインのサンタンデール滞在中に制作された新作が、映像やサウンドとともに心地よい距離感で置かれている。この展示は、ミラノのピレリ・ハンガービコッカで2026年1月まで行われた展示を、共同企画により再構成したものだ。

「壁をつくらず、音や光のように空間を越えていく素材を共存させて、一つのインスタレーション作品にできないかと構想したんです」と毛利は語る。20年のプロジェクトを振り返る本展は、彼女いわく「おもちゃ箱をひっくり返すような」試み。

《Piano Solo: Belle-Île》(2021−2024)より。自然音をもとに自動演奏するピアノ、映像、モニター、スピーカー、マイクなどを用いた作品。サンタンデールの海岸で撮影した音や映像を取り込み、自然そのものが“演奏者”となる。 Photo: Belen de Benito

日常から始まる感覚

ニューヨーク、パリ、サンタンデール。世界を旅しながら制作を続ける彼女のインスピレーションは常に生活のなかにある。日常のさまざまな場面から生まれて、それが育っていくという。今年に入ってからは、ずっと移動しながらの制作。環境が変わるたびに、感覚もリセットされていく。

「水も違うし、ペットボトルも違う。当たり前の食事や散歩をすることで、『何これ?』とあらためて感じられる環境をつくっています。当たり前が当たり前じゃないことのように捉えられるトレーニングになっているのかもしれません」

《Decomposition》(2021-)。果物が時間とともに腐敗していく過程を、センサーが変化を検知して音や光へと変換する作品。 Photo: Belen de Benito

「からまり」の美しき必然

展覧会タイトルの「Entanglements」(エンタングルメンツ)とは、「からまり」や「もつれ」を意味する言葉だ。同時に、物理学的な視点に深い関心を寄せる彼女が、量子力学における「量子もつれ」を思わせる言葉として選んだものでもある。

「Entanglements」展の展示風景より。 Photo: Belen de Benito

音や電気、水、空気、光、磁気。私たちはそれらを別々のものとして捉えがちだけれど、彼女はが互いに関係し合う世界の成り立ちを、身体的な実感とともに受け止めている。

「普段の制作でも感じるのですが、ケーブルってからまないほうがおかしいじゃないですか(笑)。からまりって厄介なものとして捉えられがちですが、絡む必然性が絶対ある。すべてがバランスを取っている感覚があるんです」

その感覚は、キッチンで料理をしていてふと味変(あじへん)したくなったり、まったく違う作品として生まれたプロジェクトなのに感覚がオーバーラップしてシンクロしたりする瞬間にも似ているという。粒子同士が関係し続けるように、世界もまた、複雑な見えないからまりのなかで絶妙なバランスを保っている。

《I/O》(2011-)。タイトルは「入力/出力」を意味する。天井から吊られた紙が埃(ほこり)を取り込み、それをスキャナーが読み取り、電気信号へと変換することで光や装置が作動する。 Photo: Belen de Benito
《Moré Moré(Leaky): Fountain》(2025)。「Moré Moré(モレモレ)」は2009年から制作を続ける、東京の地下鉄での水漏れへの応急処置から着想を得たシリーズ。水をガラスの長靴の中に汲み上げ、床に漏れ落ちていく。 Photo: Belen de Benito

インビジブル・フォース

彼女が繰り返し語るのは、目に見えないエネルギーの存在だ。「SNSやインターネットを通じて、私たちはたくさんのヴィジュアルや音の情報を交換したりシェアしています。でも、それだけでは捉えきれない不可視の力が世の中にあふれている。それに気づけなくなることに危うさを感じるときがあるんです」

あまりに速く、簡易なコミュニケーションが主流になってきている今、そうした感覚が見失われがちかもしれない。だからこそ、彼女は立ち止まることを大切にしている。

「考えてつくるというより、感じながらつくっているんです。一回時間をかけて受け止めて、様子を見る。行き過ぎないテンポを意識しているのかもしれないですね」

Photo: Belen de Benito

YUKO MOHRI
毛利悠子
:1980年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術学部先端芸術表現科を修了。日用品や電子機器などを素材に、彫刻やインスタレーション、平面作品を横断する制作を行う。2024年には第60回ヴェネチア・ビエンナーレの日本館代表に選出され、2025年、カルダー財団より授与される「カルダー賞」を受賞。国際的な評価を高めている。


〜2026/9/6、Centro Botín(セントロ・ボティン)

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