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香港がアジア美食の頂点にへ——「アジアのベスト50レストラン2026」、地元勢が1、2フィニッシュ

  • 2026.4.6
©50 best

3月25日(水)夜、香港・ケリーホテル。アジア各国から集まったシェフ、オーナー、批評家、食のプロフェッショナルたちの熱気が会場を満たしていました。「Asia’s 50 Best Restaurants(アジアのベスト50レストラン)」の授賞式が今年の舞台に選んだのは香港でした。

「アジアのベスト50レストラン」は、アジア地区内の350名以上のフードライター、批評家、シェフ、レストラン経営者らで構成される評議委員会の投票によって決定される、アジア最権威の食のアワードです。今年で14回目を迎えた授賞式では、1〜50位の発表に加え、各部門賞が発表されました。

香港がワンツーフィニッシュ

(C)50 best

2026年の頂点に輝いたのは、香港の「The Chairman(ザ・チェアマン)」でした。中国南部の伝統食材と技法を守り続け、「広東料理の革新者」として国際的に知られる同店が、昨年の2位から順位を上げ、2021年以来5年ぶりの首位に返り咲きました。そして2位に選ばれたのが、同じく香港の「Wing(ウィング)」。シェフ兼オーナーのVicky Cheng(ヴィッキー・チェン)氏が、中国八大料理の伝統をフランス料理の技法で再解釈するというスタイルで高い評価を受けているレストランです。香港のワンツー独占は、この都市の食シーンの層の厚さを改めて示す結果となりました。

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新たに日本の評議委員長に就任した浜田岳文氏は授賞式後、「The Chairmanの1位は、その料理と文化的意義、そして中華ガストロノミーを牽引する存在として、非常に納得感のある結果でした」とコメントしました。結果発表の瞬間、会場に長い拍手が続いた——異論のない首位でした。香港からはさらに、食材主導型の「Neighborhood(ネイバーフッド)」が24位、ナポリ料理の「Estro(エストロ)」が32位、フォーシーズンズホテル香港内の「Caprice(カプリス)」が35位、ラテンアメリカスタイルの「Mono(モノ)」が46位に入り、計6軒がトップ50に名を連ねました。

(C)50 best

バンコク、ソウル、そして中国の躍進

バンコクは今年も盤石でした。都市別最多となる9軒がトップ50に入り、昨年の王者「Gaggan(ガガン)」が3位に入り引き続き高い評価を維持。家族に伝わる伝統レシピを現代的に表現した「Nusara(ヌサラー)」が5位、ガガンと同じビルの2階に構える系列店、「Ms. Maria & Mr. Singh(ミス・マリア&ミスター・シン)」が27位に続くなど、バンコクが単なる「タイ料理の都」を超え、アジアのファインダイニングのハブとして確固たる地位を築いていることを改めて証明しました。

ソウルの台頭も顕著です。「Mingles(ミングルス)」が4位に入り韓国最高位を記録、トップ50だけで6軒がランクインしました。浜田氏はその背景についてこう分析します。「韓国は今年大きく伸長しました。Netflixなどを通じたガストロノミーの可視化に加え、授賞式が2年連続でソウルで開催されたことにより、国際的な関係者の訪問機会が増えたことが影響していると考えられます」。また、「Onjium(オンジウム、14位)のCho Eun-hee(チョ・ウンヒ)氏がアジア最優秀女性シェフ賞を受賞するなど、韓国の食文化が質・量ともに存在感を増しています。

中国も今年、ひときわ存在感を放ちました。上海の「Ling Long(霊籠)」が9位に入り、同じく上海の「Meet the Bund」が6位と、今年のトップ10には中国本土から複数の店が名を連ねました。杭州の「Ru Yuan(如院)」が最上位新規エントリー賞を受賞して10位に初登場。北京の「Lamdre(ラムドレ)」は昨年より33位も順位を上昇させてハイエスト・クライマー賞を獲得し、17位に躍進しました。中国各地の植物性食材のみを用いたプラントベース料理という独自のスタイルが、国際的な評価を急速に高めています。「中国は元々美食大国ですが、近年は海外への発信を強化しており、そのガストロノミーの魅力が国外でも広く認知され始めているように感じます」という浜田氏の言葉は、今年のリストを眺めると実感を伴って響きます。

日本——「最多掲載」という底力と、地方からの台頭

(C)50 best

日本勢のトップ50は8軒。大阪の「La Cime(ラシーム)」が13位に入り日本ベストレストラン賞を受賞したほか、「Sézanne(セザン)」が16位、「Sazenka(茶禅華)」が21位、「Maz(マス)」が28位、「Florilège(フロリレージュ)」が31位、「Myoujyaku(明寂)」が33位、「Crony(クローニー)」が34位、「Narisawa(ナリサワ)」が37位と、7軒が東京からランクインしました。例年トップ10の常連だった日本勢にとって、今年はトップ10入りがゼロと、やや寂しい結果となりました。評議委員会のチェアマンが新たに交代したことで、例年に比べて新任の評議員が増えたことも一因かもしれません。ランキングの常連店以外にも票が分散し、結果的にトップ10から漏れた可能性も考えられます。

この結果をどう読むか——浜田氏はこう言います。「日本はトップ10入りを逃した点に注目が集まりますが、100位以内では今年も最多掲載を維持し、さらに1店舗増加しています。優れた店が広く存在することによる票の分散と捉えています」。

実際、授賞式に先立って発表された51〜100位のリストを見ると、日本の奥深さがより鮮明になります。東京からは「Den(傳)」(51位)、「Sushi Shunji(鮨しゅんじ)」(63位)、「Sushi Saito(鮨さいとう)」(72位)の3軒、京都の「Cenci(チェンチ)」(76位)、和歌山県岩出市の「Villa Aida(ヴィラ・アイーダ)」(81位)に加え、金沢からは「Kataori(片折)」(82位)と「Respiración(レスピラシオン)」(92位)が初ランク入りを果たしました。さらに、山形県西川町という山深い集落から1929年創業の老舗旅館「Dewaya(出羽屋)」(93位)が初登場し、富山県南砺市の「L'evo(レヴォ)」(97位)も顔を揃えました。

「今年の特徴は、人口の少ない地域からのランクインです。数百人から数千人規模の町からも選出されており、この地理的多様性は国際的にも稀で、日本のガストロノミーの層の厚さを象徴しています」と浜田氏。金沢・富山・山形・和歌山といった地名が国際的な食のランキングに並ぶ光景は、日本のガストロノミーが単なる「レストラン」の話ではなく、風土と産地と人が織りなす文化として評価されていることの証左といえるでしょう。

問い合わせ先
The World’s 50 Best Restaurants(世界のベストレストラン50)
URL/www.theworlds50best.com

2位の店——「Wing(ウィング)」の春のコース

(C)WING

2位に輝いた 「ウィング」へ向かいました。道沿いに佇むビルで、実はザ・チェアマンやVEAも同じ建物に入っています。香港の食シーンの密度を象徴するような場所です。席数は20に満たない。 店内はシンプルで清潔感にあふれる空間、ヴィッキー・チェン氏が掲げる「中国の八大料理の伝統を、独創的でありながら伝統に根ざしたアプローチで再解釈し、『境界のない中華料理』を創り上げる」というビジョンがここで体現されています。メニューの末尾に記された「NO ADDITIONAL MSG & CHICKEN POWDER」という一行が、料理への姿勢を静かに物語っています。

Hearst Owned

特に印象的なスターターが、燻製茄子と自家製サワーソースの一皿です。スモークされた茄子が薄く切られて編み込まれるように盛り付けられ、煮浸しのような柔らかな風味と燻香が重なる、一見シンプルながら複雑な余韻の残る一皿でした。牡丹海老を生のまま潮州醤油に浸した一皿も秀逸で、甘みと醤油の深みが溶け合い、これだけで杯を重ねたくなる危うさ。

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そしてコース外のスペシャルとして特別に提供されることもある海鼠の春巻きが絶品。薄い皮に包まれた海鼠は、とろりとした食感を保ちながら凝縮した旨みが染み出してくる。広東料理における海鼠の扱いの丁寧さが伝わる一皿です。

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メインの白眉は乳鳩・サトウキビ。干し草の上に艶やかな赤褐色の乳鳩2羽が姿のままテーブルに運ばれ、甘い香りが広がり、伝統食材に対するウィングらしい敬意がこもっています。

締めには長い食事の満足感をそこに凝縮したかのような花膠・黄キクラゲ・アワビソースの炊き込みご飯、蓋付きの茶碗で供され、コースは終盤に。

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「中国料理の可能性はまだ探り切れていない」——食後に言葉を交わしたヴィッキー・チェン氏はそう語りました。ウィングは「No.2」という数字以上に、まだ更新の途中にある店に見えます。その余白こそが、この店の最大の魅力かもしれません。

「Wing(ウィング)
予算/HK$1,980(約¥40,400、税込サ別)
所在地/29F, The Wellington 198 Wellington Street, Central, Hong Kong
TEL/+852 2711 0063
URL/wingrestaurant.hk

今年の「アジアのベスト50レストラン」は、改めてアジアの食シーンの豊かさと多様さを実感させる結果となりました。香港、東京、ソウル、バンコク——それぞれの都市に世界中の食のプロフェッショナルが集まり、体験を重ね、また次の評価へとつながっていく。そのダイナミズムこそが、このランキングを単なる順位表以上のものにしています。

来年の開催地はまだ発表されていませんが、香港での開催が続くとの声も聞こえてきます。個人的には、東京をはじめ日本での開催をいつか実現してほしいという思いもあります。毎年更新されるこのリストが、次にどの都市にスポットライトを当てるのか、今から楽しみでなりません。

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