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「なぜ、ウチの子は結婚できないのか」そんな親が挑む「代理婚活交流会」とは?シビアな現場をレポート

  • 2026.4.5

「なぜ、ウチの子は結婚できないのか」そんな親が挑む「代理婚活交流会」とは?シビアな現場をレポート

「ちゃんと育てたはずなのに、いい年したウチの子がなぜ結婚できないの?」——そう悩む親たちが、いま子どもに代わって出会いの場を探す「代理婚活」に動いています。30代の独身息子2人を持つ母親でジャーナリストの石川結貴さんが、自ら「代理婚活交流会」に参加して見えた現実とは? 話題の新刊『ウチの子の、結婚相手が見つからない!』から抜粋してお届けします。第1回は、初めて参加した代理婚活交流会での様子をレポート!

浮かれた気分で膨らむ期待

未婚の子どもを持つ親同士が対面し、我が子の見合い相手を探す代理婚活交流会。

参加する親たちには、事前に業者経由で子どもの年齢や職業といった簡易情報が載る男性リストと女性リストが郵送され、あらかじめ「お相手」候補に目星をつけた上で臨む仕組みだ。

いざ当日。息子や娘のリスト番号と紐づけられた番号札を胸から提げた親たちは、より詳細な子どもの経歴や家族構成などを記した身上書を手に「お相手」候補の親と交流する。

前半の30分は、息子を持つ親から娘を持つ親へのアプローチタイム。36歳の息子を持つ私も「お相手」候補の親と対面したが、「年収はおいくらですか?」、「勤務先は上場企業ですか?」とシビアな質問を投げかけられて撃沈寸前。
早くも折れそうな心を奮い立たせる間もなく、今度は娘を持つ親から息子を持つ親へのアプローチタイムが開始された。

「皆様、後半の交流時間となりました。ご息女様をお持ちの親御様、ご子息様の親御様のお席に伺い、お話をされてください。ご子息様の親御様はそのままご着席の上でお待ちください。女性側のアプローチタイムは、今から午後2時10分までです」

主催業者の声かけに合わせ、今度は娘を持つ親たちが一斉に移動をはじめる。Kの円卓に座る私のもとには、濃紺のVネックセーターを着た男性が現れた。

「220番の父親です。娘は34歳ですが、よければ身上書を見てください」

初対面の挨拶もなく、女性の身上書が手渡された。戸惑いながら視線を落とすと、性格や人柄の項目が細かな文字でビッシリと埋まっている。〈努力を惜しまず、逆境をはねのける〉、〈忍耐強く、着実に前へと進む〉、そんな文言から貼付された顔写真に目を転じると、確かに芯が強そうな、黒々とした瞳が印象的だ。だが、彼女もまた笑っていない。

「その写真、ブサイクでしょう?」

父親は私の内心を見透かしたように、冗談めかして言った。

「娘が帰省したときの写真なんです。笑えって、散々言ったんですけどね。父親に撮られるのが恥ずかしいのか、面倒くさいのか、ずっと仏頂面でした。でも普段はすごく愛想がいいですよ。仕事が接客業ですから」

身上書の職業欄には、全国展開する流通系企業の社名があった。ただし勤務地は東北の地方都市、勤務形態はシフト制で、おそらく土日は休めないという。仮に身上書を交換したところで、双方の子どもが見合いや交際に進めるかは心もとない。

「娘さんのお住まいが離れてますし、お休みも合わないとなるとどうなんでしょう? ウチの息子をお気に召すかどうか……」

先に女性の身上書を目にした手前、お返しのような気持ちで息子の身上書を差し出すと、父親はいきなり甲高い声を上げた。

「いやビックリ。お宅は千葉なんですか。この住所、知ってますよ。○○○って言うんですよね?」

言われたこちらもビックリだ。身上書に記載された我が家の住所は、町名の漢字の読みがむずかしい。それをピタリと言い当てられて、予想もしない展開になった。

今は埼玉県に居を構える「お相手」候補の一家は、かつて我が家から車で10分ほどの場所に住んでいたという。学区こそ違うが、双方の子どもが小学生時代をすぐ近くで過ごしたことが判明して、その偶然に驚くほかない。

「こんなご縁があるんですね。もしかしたら駅やショッピングモールですれ違っていたかもしれないですよね」

「それに小学校の遠足とか、学校は違っても同じ場所に行ってるんじゃないですか」

「確か、モノレールに乗って動物公園でした」

「そうそう、いやぁ懐かしい」

親同士の距離は一気に縮まり、互いに満面の笑顔で話が弾む。父親は一段と声を高くして早口になった。

「この話、娘にしたらきっと飛び上がって喜びますよ。ぜひお宅の息子さんに会いたいって、そう言うに決まってます」

「ウチの息子だってそうだと思います。近くで育っていればいろんな話題があるでしょうし、そんなところからお近づきになれるといいですね」

思わぬ共通点、それも子どもだけでなく親にまで通じ合うものが見つかって、私もすっかり舞い上がった。あくまでも代理のはずなのに、自分たちが主導権を握っているかのように錯覚し、どんどん話が進んでしまう。

「娘は今、東北のI市にいますけど、結婚となったら地域限定社員という制度を使ってどこにでも異動できますから。もちろん千葉でも大丈夫です」

父親は口調だけでなく気持ちのほうも早い。見合いは既定路線、結婚まで視野に入れたかのように先走るが、私にしても浮かれた気分だ。うまくすればトントン拍子にいきそうで、否が応にも期待が膨らんだ。

互いの子どもの性格、趣味や休日の過ごし方、そんな話題も交えて盛り上がっていると、背後から女性の声がした。

──お話が弾んでいるところを、お邪魔してごめんなさい。──

少し前から順番待ちをしていたらしい。時間が押しているのを気にしてか、どことなく焦れた目でこちらを見る。時計を確認すると、後半の交流時間は残り半分を切っていた。

「これは失礼。どうぞどうぞ」

父親は体を開いて二、三歩後退し、入れ替わるように女性を促す。私と会釈を交わすと「またあとで」、そう言い残して離れていった。

人物像をどう売り込むか

「割り込んだみたいで失礼しました。私、208番の母です」

「こちらこそ話が長引いて申し訳ありません。はじめまして。よろしくお願いします」

208番、33歳の女性は我が家も候補に挙げていたが、先の男性側アプローチタイムでは5人の親の順番待ちがあった。列に並ぶのを後回しにしたら時間切れになってしまったと伝えると、母親は「たくさんお声がけいただいて……」と頬を緩めた。栗色の髪に大ぶりのピアス、スタンドカラーのジャケットからワインレッドのスカーフがのぞき、見るからに華やかな印象だ。

「時間もないので、先に娘の身上書を見ていただけますか」

手早く身上書が渡された。貼付された写真は母親に似た華やかさで、おそらく写真スタジオで撮影したものだろう。メイクは完璧、セミロングの髪は内巻ロール、淡いピンクのワンピース姿でポージングも決まっている。

「おきれいな娘さんですね」

そう言った私に、いたずらっぽく笑ってみせた。

「実物よりだいぶ補正してます。でも婚活写真は盛ってナンボと娘が言うもんですから」

外見の印象から気取った人かと思ったが、意外にもフランクだ。私は親しみやすさを覚え、笑顔を返しながら息子の身上書を差し出した。

「あらぁ、息子さんのお写真もいいですねぇ。年齢よりずっと若く見えるし、知的な感じ。娘のタイプかもしれません」

フランクな上におだてるのもうまい。こういう母親に育てられたなら、娘も気さくで明るそうだ。

「それでね、お聞きしたいのはここなんですけど……」

母親はブルーの男性リストと、手にしたばかりの身上書の記載内容を交互に指さした。

「お宅の息子さんはIT関係でしょ? 特技の欄に英語ってありますけど、英語を使ってお仕事されてるんですか」

「一応、海外とのやりとりでは英語を使ってるみたいです。でも日常会話レベルだと思いますけど……」

実家でテレワークをしているとはいえ、私は息子の仕事の詳細を知らない。コロナ禍でバーチャルオフィスになり、社員同士はチャットやオンライン会議でコミュニケーションを取っているようだが、いちいち詮索したこともない。何度か転職し、海外に拠点を持つ企業でも働いてきたから今も似たようなものだろう。そんな話をそのまま伝えると、母親は軽やかに言った。

「あらぁ、もったいない」

意味がわからず首を傾げた私に向けて、勢いよくつづける。

「そういうこと、ちゃんとリストに載せたほうがいいですよ。仕事がデキる男性だっていうのが、女性には強いアピールになるんですから」

「いえ、そんな。ウチなんかほんとにふつうのサラリーマンです。息子より優秀な方は山ほどいますし、今の会社では下っ端の平社員ですから」

慌てて否定したが、母親は悠然と返してくる。

「ご謙遜はわかりますけど、こういう場ではアピールが大事ですよ。だってみなさん、お子さんのお相手を選ぶのに、まずはリストに載った内容で判断するでしょう? 〈会社員〉っていうだけじゃ、具体的にどういう人かわからない。性格も〈真面目〉、〈誠実〉なんて書く親御さんが多いですけど、ありがちだから目立たないんですよ」

言われてみればなるほどだ。限られた情報から「お相手」候補を探すとき、なにかしらの特徴的な文言のほうが目を引きやすい。当人同士が交流するならともかく、この場にいるのは代理の親。我が子の人物像をいかに差別化して売り込むか、そこが大事なのだと今さら気づいた。

ずいぶんと詳しそうな母親にあらためて尋ねると、十数回も代理婚活をしているという。これまで50人以上の親と身上書を交換し、娘の見合い回数は10回近いと苦笑した。

「前に参加した交流会には〈マンション所有〉とか、〈親は地元の名士〉なんてリストに載せてる男性がいましたよ」

「そういえば今回のリストにも〈年収900万円〉とか、〈女性を守れる強さを持つ〉とか、そんなアピールがありました。私は正直、こんなこと書かなくてもと思ったんですけど……」

あらためて男性リストの記載内容を思い出し、批判めいたことを口にすると、母親は真顔になった。

「でもそれって大事ですよ。娘を持つ親にしたら、何が気になるってやっぱり男性のお金です。具体的な年収が書いてあったり、女性を養う余裕がありそうだなって思えば、それだけで安心材料になりますから」

なにしろ身上書は別名「釣書」とも言う。言葉は悪いが獲物を釣るための餌、だから食いつきのいい、いかにもおいしそうな情報を用意したほうが効果的だ。母親の言葉を借りるなら、ただの〈会社員〉より〈年収900万円〉のほうが光って見えるだろうし、〈親は地元の名士〉とあれば将来が保証される可能性が高い。世の中の現実を考えれば一理あるが、私は素直に賛同できなかった。

「お金が大事なことはわかりますけど、なんだか値踏みされてるみたいで、いい気持ちはしないです」

率直に口にすると、母親は大きくうなずいた。

「わかります。そんな表向きのことで、いい悪いって言われるのはイヤですよね。ただ男性がお金で値踏みされるなら、女性は顔や若さで値踏みされたりしますよ。だからどっちもどっち」

これには反論できなかった。「婚活写真は盛ってナンボ」と言ったのはそういう背景があるからだろうし、現に私自身、女性の見栄えが全然気にならないと言ったら嘘になる。

「余計な話ばかりで、肝心の娘の話ができませんでした。息子さんの身上書をお預かりします」

母親は身上書をファイルケースにしまうと、早口でつづけた。

「ごめんなさい。ほかの方のところもまわりたいんです。娘についてお聞きになりたいことがあれば、いつでも私の携帯にお電話ください」

よろしくお願いします、と口にしながら、すでに体はKの円卓から離れていく。母親の後ろ姿を目で追うと、まっすぐ向かったBの円卓で、また別の親とにこやかに挨拶を交わすのだった。

※この記事は『ウチの子の、結婚相手が見つからない! 親の代理婚活でわかった「結婚の壁」』石川結貴著(文藝春秋刊)の内容を、ウェブ記事用に再編集したものです。

※写真はイメージです

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