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『ちるらん 新撰組鎮魂歌』で男同士のクソデカ感情に振り回されて|横川良明の「沼の中心で愛をさけぶ」Vol.6

  • 2026.3.28
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今時、「男らしい」なんて言葉は、時代錯誤かもしれません。使っただけで、固定的なジェンダーロールに縛られていると眉をひそめられるかもしれません。

それでも、男には男の世界があって、そこには固有の美しさがあり、眩しさがある。熱くて、単純明快で、がむしゃらで、破滅的で、カラッとしてるんだけど、じっとりとした湿度を孕んだ男たちの魂の共鳴に、僕はどうしようもなく惹かれてしまうのです。

©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

『ちるらん 新撰組鎮魂歌』は、男たちの、男たちによる、男たちのためのドラマです。舞台は、幕末。3月26日・27日に二夜連続で放送された“江戸青春篇”では、激動の時代を駆け抜けた志士たちの、まだ何者かになる前の姿が描かれていました。

咲いた花は、必ずいつか散る。三英傑や坂本龍馬と並んで、新撰組がこれほど多くのポップカルチャーの題材となるのは、新撰組が歴史の敗者であり、そこに滅びの美学を感じるから。

いずれ散るとわかっていながら咲き誇る時代の徒花。その芽吹きの季節は、固い蕾を突き破らんとする血気と蛮勇に満ちあふれていました。

※本記事は、『ちるらん 新撰組鎮魂歌』“江戸青春篇”のネタバレとなる内容を含みます。未見の方はご注意ください。

これは、斉藤一と阿比留鋭三郎への怪文書です

男というものは、言葉で多くを語らない。ただ、胸に秘めた誓いを守り、黙って信念を貫く。ステレオタイプの男性像を補強していると叱られたら、諸手をついて謝りましょう。それでも、僕の中に染みついたDNAが、そんな男同士の絆を見ると「かっけえ……!」ともんどり打つのです。

『ちるらん』にも、そんなかっけえ男たちがいました。たぶん観る人によって、この相関図の誰と誰にぶっとい線を引くかは違ってくるでしょう。

僕はとにかく斉藤一(藤原季節)と阿比留鋭三郎(杉野遥亮)にやられた。二人のことを思うと居ても立ってもいられないので、ここから怪文書を書き残したいと思います。怪文書だと思って読んでください。

©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

まず斉藤一が明らかにかっけえ。時代劇だっつってるのに、髪色は試衛館の中で唯一のアッシュグレー。みんなが着物の中、ひとりだけ黒革のタンクトップみたいなのを着てて、完全に世界観が格ゲーなの。たぶん産地はカプコンだと思う。

そんな神様が気合いを入れすぎたビジュアルに加え、キャラクターも立ちまくり。血気盛んな土方歳三(山田裕貴)をからかう、ヤンチャで、喧嘩っ早い、アウトロー。でも実は、仲間思いで男気あふれる仁義の人。こんなんもう夢小説が1000本はできるやつ。たぶんここから「斉藤一の女」を名乗るオタクが列をなすと思うので、僕も52番くらいでいいので整理券がほしいです。

また演じる藤原季節がいいのよ。少年の面影残す、くりっとしたどんぐり目。同門の田島龍之助を斬ったという疑いをかけられたときは、その目を爛々と光らせることで、わざと悪党を演じてみせて。でも実は、親からも見放された落ちこぼれの龍之助を、誰より澄んだ目で見つめていた。たぶん一が現代に転生したら、雨の中、捨て猫を100匹くらい拾ってる。オタクが思う「心優しきヤンキーとはこうあってほしい」の権化みたいなキャラでした。

©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

第二夜で、京都で歳三と再会を果たしたときの顔なんて、「イタズラっぽい笑顔」の見本として上野の森美術館あたりに展示したいレベル。僕はこの藤原季節に、チェッカーズ時代の藤井フミヤを見ました。ギザギザなのは、彼の刀ではありません。ハートです。

一と鋭三郎とは、現代のヤンキーくんとヘタレくんである

ただ、斉藤一だけではね、ここまで悶えちらかすことはないわけです。そこに、阿比留鋭三郎という正反対の男がいることで、爆発的なケミとなる。

©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

歴史を遡ってください。KinKi Kids(現DOMOTO)からわかる通り、ケミというのはキャラが正反対だからこそ輝くのです。王子様キャラの光一に、アイドルとしては異端の道を行く剛。『ビーチボーイズ』の反町隆史と竹野内豊も、『HUNTER×HUNTER』のゴンとキルアも、みんなそう。絶対に交わらない二本の線が交わることで、奇跡が生まれる。

阿比留鋭三郎は、血の気の多い試衛館の良心というべき存在。気は優しく、真面目で、刀を振るっているよりも、子どもの遊び相手になってボコボコにされているほうがよく似合う、お人よしキャラ。たぶん鋭三郎が現代に転生したら、売れない営業マンとかやってる。上司にノルマを迫られて、おばあちゃんに無理やり悪徳金融商品を売りつけようとして、でもできなくて、ビルの屋上から飛び降りようとしたところを、「バッキャロー」っつって現代に転生した斉藤一に助けられてる。オタクが思う「心優しきヘタレとはこうあってほしい」の欲張りセットみたいなキャラでした。

試衛館の中でも屈指の腕前を誇る一に対し、鋭三郎はおそらく最弱。そんな二人が、試衛館に来る前からの同門の盟友だった。これはもう幼稚園からの幼なじみだったしょっぴーと舘様くらい運命のコンビと言っても過言ではないでしょう。

“江戸青春篇”が描くこの二人の男の関係性に、僕の心の桜前線はひと早く満開を迎えたのでした。

絶対に新撰組に入らなさそうな杉野遥亮が起用された理由

そんな鋭三郎を演じるのが、杉野遥亮です。正直、最初に杉野遥亮と聞いたとき、ピンと来ませんでした。なぜなら、杉野遥亮は絶対に新撰組に入るようなタイプじゃないから。

一方“絶対新撰組にいそうなタイプ”の山田裕貴が主人公を演じるのは納得。 ©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

この『ちるらん 新撰組鎮魂歌』は時代劇ではありますが、文脈的には“不良もの”の系譜。『クローズ』『HiGH&LOW』『東京リベンジャーズ』にハマった人にはブッ刺さる何かがある作品です。このうちの2作品で重要な役を演じている山田裕貴が主人公の土方歳三を演じているのも、『ちるらん 新撰組鎮魂歌』に流れるのが“不良もの”の血潮である証左。杉野遥亮も『東京リベンジャーズ』にメインキャストとして出演していたけれど、彼が演じたのは現代で刑事となったヒロインの弟・直人。数多いる男性キャストの中で唯一と言っていい非ヤンキーキャラでした。

その後、『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』で演じたヤンキー役も、あくまで不良特有の血生臭さを洗い落としたキャラクター。杉野遥亮の透明感あふれるビジュアルや肩の力の抜けたキャラクターは、新撰組の持つゴロツキ喧嘩集団的なイメージとは程遠いものがありました。

©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

だからこそ、阿比留鋭三郎の人物像が見えてくるにつれ、なるほどと膝を打った。鋭三郎はいつもモジモジオドオドしている。一が佐々木只三郎(金子ノブアキ)らに連行されるときも、複雑そうに目を伏せるだけ。一を助けるために土方とともに駆けつけたときも腰が引けて頼りない。なぜ彼は試衛館の門を叩いたのか。その理由が知りたくなるくらい、武士然としたところが見えてこなかった。

いかにも新撰組に入らなさそうな杉野遥亮が、いかにも新撰組に入らなさそうな阿比留鋭三郎を演じる。その不思議なシンクロが、“江戸青春篇”最大の悲劇の起動装置となっていたことに、僕は第二夜にして気づくのでした。

新撰組らしからぬ鋭三郎は、誰よりも新撰組らしい男だった

新撰組に惹きつけられる理由の一つが、最終的に主要人物のほとんどが死を遂げるとわかっていることです。どんなに笑顔でふざけ合っていても、すぐそこに死の予感がある。その儚さが、彼らの物語を火花のように輝かせるのです。

史実に明るい人は、最初からわかっていた。鋭三郎の退場が、そう遠くないことを。彼が新撰組の前身である壬生浪士組最初の死亡者であることは周知の事実。その死は一般的に病死とされています。だけど、『ちるらん 新撰組鎮魂歌』はそこに大胆なアレンジを加えました。

©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

鋭三郎は試衛館で剣の腕を磨きながら、ずっと兄の仇を追い続けた。そして、やっと兄を殺した、腕に阿修羅の刺青がある男のもとへ辿り着いた。

けれど、願いは叶わなかった。仇を討つどころか、呆気なく返り討ちに遭い、命を落とした。それは、あまりにも無慈悲な最期でした。ただ強くなりたいと一心に願った9年間がまるで無意味だったと嘲笑うような結末でした。

でもだからこそ、青春の名にふさわしかった。なぜなら、青春とは往々にして報われないものだから。土日も忘れて練習に励んだ部活も、卒業アルバムに書いた将来の夢も、叶えられる人はひと握り。大抵の人は、半ばで花散る敗者となる。実らないからこそ、青春の味は苦くて、いとしい。鋭三郎の青春もまた実ることのないまま、短い命とともに散っていった。その残酷な事実が、情緒を狂わせるのです。

たぶん鋭三郎に武士は向いていなかったんだと思います。人を斬るより、みたらし団子を頬張っている時間のほうがずっと幸せで、兄のことなど忘れて、どこか田舎で静かに暮らしていれば、彼はもっともっと長く生きることができた。

それでも、鋭三郎は選ばずにはいられなかった、まるで向いていない武士の道を。行く手に待つものが破滅しかないとわかっていても、突き進まずにはいられない。なんと愚かで、なんと不器用な選択でしょう。でもその滅びの美学は、ここから先、新撰組の隊士の多くが通る道筋でもある。そう考えると、新撰組らしからぬ鋭三郎は、実は誰よりも新撰組らしい男でした。

癖(へき)の数だけ沼がある

そして、その死は一にも重い十字架を残しました。もしもあのとき自分が鋭三郎を止められていたら、運命は変わったのかもしれない。龍之助と鋭三郎。この“江戸青春篇”で一は二人の盟友を失ったことになる。

言うならば、盟友を斬った男であり、盟友を助けられなかった男。もうね、神様が一の設定にだけ気合いを入れすぎている。そもそも鋭三郎の裏切りを突き止めたのは、他ならぬ一自身。鋭三郎の背信を知ったとき、一はどんな気持ちだったのか。何も知らない顔をして無邪気に懐に飛び込んできた鋭三郎を、どう受け止めたのか。龍之助に続き、再び友を斬らなければいけないかもしれない。一の背負った因果が重すぎて、今すぐSpotifyで一のイメソンを探したくなる。

©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

ここから一は鋭三郎の残した刀を肌身離さず持ち続けるわけですよ。そして、いずれ仇に遭遇したときは、鋭三郎の刀でぶった斬るはずなんですよ。そんなストーリー、オタクの夢すぎて、絶対見逃すわけにはいかない。残りは、U-NEXTで配信ですかそうですか。もうだいぶ前からU-NEXTには加入済みなんで無問題です。毎週金曜、座して待つ所存です。

僕は、一と鋭三郎にうっかりやられてしまったわけですが、他にも釣り糸はたくさん垂らされています。

原作でも屈指人気を誇る“江戸青春編”の注目キャラクター、綾野剛演じる芹沢鴨と、中島健人演じる“人斬り以蔵”こと岡田以蔵。 ©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

ただ純粋に強さを追い求める土方歳三と岡田以蔵(中島健人)のおバカコンビに萌えたぎるもよし。初めて味わった屈辱に震える天才剣士・沖田総司(細田佳央太)と芹沢鴨(綾野剛)の遺恨に血を騒がせるもよし。まだまだバックグラウンドが描かれていないキャラクターも多いので、ここからどう隊士一人ひとりのエピソードが深掘りされていくのか想像するだけで楽しそう。癖(へき)の数だけ沼があります。

©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

何より、最強の剣客集団として恐れられた新撰組も、時代の荒波に飲まれ、瓦解の道を辿っていきます。その果てには、いくつもの死と別れが待っている。今回の鋭三郎のエピソードからわかる通り、本作は史実にのっとりつつも、その真実についてはオリジナルの解釈で描いていきます。つまり、彼らがどんな散り際を迎えるかは、この目で確かめないとわからない。そこにはきっと“幕府の犬”だとか“テロリスト”なんてレッテルでは語ることのできない、一人ひとりの魂のドラマがあるはず。ならばもう、黙ってこの身を捧げるだけです。

男同士のクソデカ感情に焼かれたいすべてのオタクたちへ。今、地獄の点火台に火がつきました。

『ちるらん 新撰組鎮魂歌』

©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN

幕末の京都を舞台に、“鬼の副長”土方歳三の成長と、新撰組結成の軌跡を描く。原作は橋本エイジ(漫画)×梅村真也による『ちるらん 新撰組鎮魂歌』。仲間との出会い、衝突、そして時代のうねりの中で貫く覚悟と信念を、ダイナミックなアクションとともに描く。

●スペシャルドラマ“江戸青春篇”
2026年3月26日(木)、27日(金)TBSにて放送後、U-NEXTにて配信開始
●ドラマシリーズ“京都決戦篇”

2026年3月27日(金)江戸青春篇の地上波放送終了後から、毎週金曜最新話を独占配信
[世界配信]HBO Maxにて2026年5月9日(土)から配信開始(※北米、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アジアの一部を含む全世界100以上の国と地域)

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