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【小林聡美さんインタビュー】「歳を重ねるほど、“ちゃんとしていなくていい”と思えるようになった」

  • 2026.3.21

数々のドラマや映画、舞台で、自然体でありながら芯のある女性像を演じ続けてきた俳優・小林聡美さん。そんな小林さんが、まもなく開幕する舞台『岸辺のアルバム』に挑みます。1977年に放送され、今なお語り継がれる名作ドラマを舞台化した本作で演じるのは、八千草薫さんが務めた主人公・田島則子。平凡な中流家庭のなかで揺れ動くひとりの女性をどう立ち上げるのか――。話を伺うなかで、大人の女性の生き方や家族のあり方が改めて浮かび上がってきました。

名作が“いまの私たち”に刺さる

1977年に放送された山田太一の名作ドラマ『岸辺のアルバム』。一見平和で平凡に見える中流家庭が、静かにほころび、やがて崩壊と再生へ向かっていく――テレビ史に残る作品が、2026年4月より東京芸術劇場シアターイースト、5月より松下IMPホールにて、舞台で蘇ります。
小林聡美さんが演じるのは、田島家の母・田島則子。ドラマ版で当時40代だった八千草薫さんが担った役を、「びっくりしたまま」引き受けたと言います。

「オファーをいただいたとき、え、いいの?って思いました。40代の奥さんの役をいまの私がやるわけですから」

1977年当時、小林さんは12歳。リアルタイムでは観ていませんでしたが、大人なってから作品に触れる機会があったそう。主人公・則子については、「自分が見てきた時代のお母さん」という印象を抱いたと話します。当時は「女性はこうあるべき」「男性はこうあるべき」という価値観が今より強かった時代。そんななかで生き方に揺れる則子には、今だからこその別の意味も見えてきます。

「私自身は女性がどんどん自由になっていく時代の変遷を見てきたからこそ、則子には懐かしさがあります。でも今の時代でも、人間として、女性として抱えている問題には変わらないところがある。そこが人間のおかしみでもあるなと思います」

昔と今をこの作品の中で行き来することで、「自分らしく生きるとは何か」を、観客も改めて考えることになるのかもしれません。

大人になってわかった「苦味」

出演が決まって改めてドラマを見直すと、初めて見たときと印象は大きく変わったと小林さん。

「大人の事情とか、子どもの事情とか、生きることの大変さとか。みんなが抱えている苦味が、すごくわかる気がしました」。

ドラマでは微細な心情が表情やカットによって伝わりますが、今回は舞台という空間。全15話のドラマを2時間強に凝縮する今回の作品では、同じように再現するのではなく、舞台だからこそできる“開いた表現”を目指しています。

「読み合わせをすることで、ト書きの部分がすごく浮き彫りになって。読んでいるときよりも、“あ、こういう舞台になるんだ”っていう実感が湧きました。舞台っていう空間を逆手に取って、みんなをびっくりさせる方向で攻める感じです。演劇ならではの『岸辺のアルバム』になると思います」

山田太一作品が突きつけてくるもの

山田太一作品の魅力といえば、日常の裏側に潜む痛みを容赦なく突きつけてくるセリフです。

「“どうしよう”っていうところまで問い詰められるセリフに、しびれますよね。心の裏側を問うような、“本当はどう思っているのか”と突きつけられる感じがある。観ている側も考えさせられるんです」。

そして、時代が変わってもなお共感できるところに、この作品の強さがあります。
一方で、木野花さんの演出によって、シリアスな物語のなかに“おかしみ”が立ち上がる予感もあると小林さん。

「木野花さんのすごいところは、字面だけだとシリアスになりがちなところに、おかしみを見つけるところなんですよ。思えば、以前ご一緒した舞台『阿修羅のごとく』(2022年に公演された、向田邦子脚本のドラマの舞台化作品)でもそうでした。今回も結構笑える場面があるかもしれないと思っています」

「ちゃんとしていなくていい」と思えるようになった

家族のこと、年齢を重ねること、そして自分らしさ。作品のなかに描かれるテーマは、私たちの日常にも重なっていきます。小林さん演じる則子からも、「〜せねばならない」から少し解き放たれていく感覚が見えてきます。小林さん自身にも、そんな変化はあるのでしょうか。
 
「あります。そればっかりです、最近」。
 
家の中をきちんとしなきゃ、毎食後に片付けなきゃ――。そんな“ねばならない”を少しずつ手放せるようになってきたと言います。
 
「なんで1日3回もお皿洗ってるんだろうって思って。まとめてやればいいじゃないって(笑)」
 
さらに昨年、体調を崩して入院した経験から、食生活への意識も変わったよう。
 
「ちゃんと食べていなかったんじゃないかって反省して、それからはもりもり食べるようになりました」
 
無理をしない。自分に合った方法を見つける。外に歩きに行けないなら、家にウォーキングマシンを置けばいい――そんな発想の転換も、今の自分らしさ。
 
「暑い日でも雨の日でも歩けるし。リビングにあるなんて、かっこ悪いかなと思いながらウォーキングマシンを導入したんですが、確かに便利なんですよ。でも鍛えるぞって力むと疲れちゃいそうなので(笑)、テレビを見たり、セリフを覚えたりしながら。自分でも、続けられる運動をしています」

家族は、少しずつ「個」になっていく

今回の作品は、「家族とは何か」も大切なテーマ。父、母、姉、弟という役割がありながら、それぞれの個人が描かれます。小林さん自身も、父を見送り、高齢の母をきょうだいで支える今、家族の形の変化を実感していると言います。

「親がいなくなってからの、きょうだいの距離感を想像するようになりました。家族っていうより、それぞれ個々になっていく感じ。でも、親のことで久しぶりにきょうだいのつながりを感じたりもするんです。協力し合える家族がいるのはありがたいなって思います」

家族であっても、ひとりひとりに人生がある。
それは『岸辺のアルバム』が描いてきたテーマそのものです。

わかり合うより、「おもしろがる」

家族の中では親と子、会社では上司と部下。世代間のギャップが話題になることも多いいま、若い世代との距離感について尋ねると、意外な答えが返ってきました。

「そもそもわかり合おうとはしないかもしれないですね(笑)。世代ごとに価値観が違うって思ってるので」。とくに違いを感じるのはお金の使い方といいますが、推し活に大きなお金を使う若い人たちを見て驚きつつも、「そういう価値観なんだとおもしろがれたら、“それどういうこと?”って聞けばいいんですよね」と教えてくれました。

わかり合えなくても、別にいい。おもしろいと思えたら、それだけできっと十分。
どこまでも人は、ひとりひとり。だからこそ、人と生きる日常は、案外おもしろいのかもしれません。

PROFILE

小林聡美(こばやし・さとみ)
1965年、東京都生まれ。映画『かもめ食堂』『めがね』『ツユクサ』、ドラマ『やっり猫が好き』『すいか』など、数多くの作品に出演。映画『紙の月』にて第38回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。『茶柱の立つところ』(文藝春秋)、『わたしの、本のある日々』(毎日新聞出版)など著書も多数。

[舞台] 『岸辺のアルバム』

多摩川の土手沿いにマイホームを構える田島家。一見平和で平凡な四人家族だが、あるとき意図せず家族3人の隠された事情を知ってしまったことを引き金に、各々の問題が浮き彫りになり、崩壊寸前に。そこに大型台風が近づいてきて――。実際に起きた多摩川水害を背景に、家族の崩壊と再生を描く物語。1977年に放送された山田太一氏の歴史に残る名作ドラマを、初めて舞台化。
●作:山田太一
●脚色:倉持裕
●演出:木野花
●出演:小林聡美 杉本哲太 細田佳央太 芋生悠 前原滉 伊勢志摩 夏生大湖 田辺誠一
2026年4月3日(金)~26日(日) 東京芸術劇場シアターイースト、
5月1日(金)~4日(月・祝) 松下IMPホール

撮影/天日恵美子 スタイリスト/藤谷のりこ ヘアメイク/磯嶋メグミ 取材・文/竹田理紀[mineO-sha]
 
ジャンプスーツ¥67,100/スズキ タカユキ 03-6419-7680)、イヤリング¥38,500/タマス(タマス青山店 03-6674-8583)

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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