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東日本大震災を機に誕生した「石巻工房」の展覧会で知る、15年の歩みとこれからの家具

  • 2026.3.17
ISHINOMAKI LABORATORY

「石巻工房」の始まりは、2011年。3月11日の東日本大震災後の石巻市で、同年5月に建築家の芦沢啓治さんを中心に立ち上げられた地域のものづくりの場だ。被災地の復旧・復興の作業と必要な家具の製作を、地域の人々がDIYでできるようにと、建築家・デザイナーや家具メーカーら有志が道具やノウハウを提供。2014年に工房は法人化され、家具を製造・販売するメーカーとなった。

設立から15年を迎え、代表的な15作品を紹介し、その歩みを振り返る展覧会が東京・西麻布のカリモクコモンズ東京(Karimoku Commons Tokyo)にて、3月11日より始まった(会期:3月11日〜4月23日)。「石巻工房」からどんな家具が生まれたのだろうか。

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「DIY」が復興の助けに

「石巻工房」の始まりについて芦沢さんは、震災によって多くのものが失われた状況で「デザインができることは何か」を考えたことが出発点だったと振り返る。

芦沢さん:「DIY」が復興の助けになるだろうと考えました。私自身がDIYで自分の事務所などをつくった経験からコストやスピード感においてDIYの可能性を知っていたからです。復旧のための大規模工事が忙しく進む一方、市民の生活に手が回ってない状況においてもDIYはある程度の役割を果たすだろうと。ワークショップなどを通じて被災された市民とボランティアとの交流を図れると思いました。モデルとした事例が特にあるわけではないのですが、たまたま震災直後に見たスウェーデンのヨーテボリの公共工房は刺激になりました。街でつくられたアートやファッションブランドがその公共工房から生まれたそうです。

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「石巻工房」の共同代表で、工房長を務めるのは千葉隆博さん。もともとは石巻市の家業の寿司店で寿司職人として働いていたという。「石巻工房」に初めから携わる千葉さんは、地域の人々とのコミュニケーションの面において重要な役割を果たし、手先が器用なことを生かして活躍してきた。どのようにタッグを組んでいるのだろうか。

芦沢さん:現在は「石巻工房」の家具製造・輸送は千葉さんのチームが行っていて、我々の方では、海外市場の開拓やブランディング、商品開発、営業などを担っています。千葉さんとの関係は、デザイナーと職人というよりも、同じプロジェクトを進めるパートナーに近いです。千葉さんなしでは継続はできなかったでしょう。

<写真>左から芦沢啓治さんと千葉隆博さん、展覧会会場にて。

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15のアイコンから見えてきた「軽やかさ」

展覧会では「石巻工房」の15年を象徴する15の作品が展示されている。振り返った時に「石巻工房」のデザインにはある特徴が見られたと芦沢さんは話す。


芦沢さん:15年の蓄積から生まれた、15個のアイコンです。絞り込みは大変でしたね。選んだ家具を眺めていると独特の「軽やかさ」を感じます。素晴らしいデザイナーとつくり上げたこれらの家具の軽やかさ、それは何だろうと考えました。制約がある中でデザインすることによって、むしろデザインの本質が見えてくる。コンセプト、構造、機能が組み合わさって「軽やかさ」が生まれてきたように思います。この経験は、私自身の建築の考え方にも大きな影響を与えています。

<イメージ>「石巻工房」の15の代表的な家具をシルエットで表現したキービジュアル。「石巻工房」のロゴを手掛けたデザイナー、カイシトモヤさんが制作した。

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2011年に高校生とつくった“石巻ベンチ”

会場では、15のアイコンのほか、15年前につくられた家具も展示されている。その一つが原点である“石巻ベンチ”。2011年の夏、震災復興イベントとして野外映画上映会のために、芦沢さんがデザインし、石巻工業高校建築科の生徒たちと「石巻工房」の有志が2日間で製作した約40台の中の一脚だ。上映会の後、このベンチは石巻の各地で使われた。その後“石巻ベンチ”は製品化され、現在も販売されているロングセラーに。耐荷重を検査したら7トンという驚きの結果が出た。

芦沢さん:提供していただいたレッドシダー材の規格に合わせ、現地でのつくりやすさも考慮し、設計したシンプルなベンチです。当時はこれがデザインとしてどうかといったことまで考えていませんでした。けれど今見ると、美しいと思うんです。意識が変わりました。

<写真>会場に展示されたこの“石巻ベンチ”は、2011年の野外映画上映会のために製作された約40台のうちの一脚。屋外で使われた15年の時を感じさせる。

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被災地に必要なモノづくりをしてきた「石巻工房」に、そこでつくられた家具を買いたいという声が寄せられ、家具メーカーとしての製造と販売がスタート。参加するデザイナーや建築家が増えさまざまなデザインが生まれた。仮設住宅で暮らす人々や地元の小学生と一緒に家具をつくるワークショップのために2011年に設計された“石巻スツール”が、イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館のコレクションに入るなど海外でも認知度が高まっていく。2025年にフィリップ・マロインがデザインした“カフェチェア”はヴィトラデザインミュージアムに収蔵された。

<写真>会場風景。壁の前に並ぶのが、左から“石巻ベンチ”“石巻スツール”“石巻スタッキングベンチ”、これらは芦沢さんのデザイン。

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2020年に「石巻工房」のショールームとホテル、カフェ、ワークショップやイベントのスペースを持つ複合施設「石巻ホームベース」をオープン。2024 年にカリモク家具と「石巻工房」は業務提携を結び、カリモク家具で製作する「メーカー パック(Maker Pack)」と、石巻で製作する「ジ オリジナルズ(The Originals)」の2つのシリーズを展開している。「石巻工房」はどんな方向に進んでいくのだろうか。

<写真>「石巻工房ホームベース」のホテルの客室は4室。これは藤森泰司さんがデザインしたNOKI。

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「メイド イン ローカル」という考え方

芦沢さんは、「石巻工房」がデザインした家具をその地のパートナーが製造する「メイド イン ローカル」のプロジェクトに着目する。「石巻工房」がデザインと製法を提供し、その地域の人々・企業がつくるというやり方だ。イギリス、アメリカ、フィリピン、インドと各地へ広まりつつある。震災をきっかけに考えられた、実用的で耐久性を備えた日常生活のためのシンプルなデザインだからこそ、国境を越え、人々の暮らしの中に入っていくものとして選ばれているのだろう。

芦沢さん:
今、あえて「石巻工房」のデザインフィロソフィを一言で表すなら、「メイド イン ローカル」だと考えています。 特定の場所でつくられるのではなく、その地域で手に入る材料、その地域にいる人、その地域の文化の中でつくる家具を目指すのがいいのではないかと。今までの他の家具ブランドが試すことができなかったジャンルではないでしょうか。

<写真>会場風景。手前と奥の壁にずらりと並ぶのはトラフ建築設計事務所がデザインした“AAスツール”。海外でこれを2台並べてその上に天板を置きテーブルとして利用している例を見て、テーブルの脚としての利用も販売のポイントに。

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芦沢さん:「石巻工房」は石巻という場所を大切にしながら、カリモク家具などのメーカーも含め世界中の地域とつながるプロジェクトであり続けると思います。近年では「メイド イン ローカル」という考え方が、サステナビリティや地域性の観点からも重要になってきています。「石巻工房」は、その考え方を震災の直後から実践してきたプロジェクトでもあります。新しい地域、新しいデザイナー、新しいコミュニティと共にそのネットワークを広げていきたいですね。

<写真>「石巻工房」では家具のほか、動物のオブジェなど生活を彩るものも誕生した。

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映像作家ノブアラカワが制作したインタビュー映像

この展覧会に合わせて、石巻の地域コミュニティやものづくり、文化、まちづくりを支える人々へのインタビュー映像も制作された。

芦沢さん:展覧会では「石巻工房」がどのような思想から生まれ、どのように広がってきたのかを感じてもらえたらと思っています。またデザインプロジェクトとしてデザイナーの思想と社会がどのようにつながるのか、という点も着目していただけたら。震災のことを、15年経った今だからこそ、また思い出してほしいのです。明日には東京に起こるかもしれないのが震災であり、「石巻工房」は石巻の経験を風化させないためのブランドでもあります。インタビュー映像は映像作家のノブアラカワさんが熱心につくってくださって、約1時間の作品になったと聞いています。全部は難しいかもしれませんが、会場でゆっくり見ていただけたらうれしいです。

<写真>会場で放映されるインタビュー映像、映像制作はノブアラカワさん。

『15 Years After 石巻工房の歩みと15の家具』

会期:2026年3月11日〜4月23日
会場:カリモクコモンズ東京(Karimoku Commons Tokyo) 東京都港区西麻布2-22-5
時間: 12:00~18:00
休:日曜、4月10日、11日 ※4月9日は1階ギャラリースペースのみ開場
入場料 :無料

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