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【HERALBONY Art Prize 2026】展覧会が開幕。受賞作品と授賞式をリポート

  • 2026.6.6
「HERALBONY Art Prize 2026 Presented by 東京建物|Brillia」は、三井住友銀行東館 1階アース・ガーデンにて、6月27日まで開催。 photo: jouji suzuki

へラルボニーが主催する国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2026 Presented by 東京建物|Brillia」の展覧会が、5月30日にスタートした。本展では、世界77カ国から寄せられた約3,000点の応募作品のなかから選ばれた受賞者とファイナリストによる約60点が並ぶ。

会場に足を踏み入れた瞬間、まず圧倒されるのは、その作品群が放つ熱量と多様な表現だ。 鮮烈な色彩、反復されるモチーフ、緻密な描き込み、リアルな描写……作品ごとに異なる世界が広がり、そのどれもが強い存在感を放っている。

グランプリを受賞したカー・ハン・ムイの作品《Zonder titel(無題)》の展示風景。 photo: jouji suzuki

なかでも最初に目を奪われたのが、グランプリに輝いた作家、カー・ハン・ムイの作品だった。1989年、香港から移住した両親のもとオランダに生まれた彼は、自閉症の診断を受けている。幼い頃から絵を描くことを好み、現在はオランダのアトリエ「De Kaai」を拠点に制作を続けている。ほとんど言葉を発することがないという彼にとって、絵画は言葉に代わる重要なコミュニケーションの手段なのだという。

カー・ハン・ムイ《Zonder titel(無題)》 courtesy of the artist and heralbony

画面を埋め尽くす無数の色面は、一見すると抽象画のように見える。しかし近づくと、それらは緻密な反復によって構築されていることに気づく。色鉛筆で何層にも重ねられた線は、織物にも、都市の地図にも、あるいは上空から見下ろした風景にも見える。香港系移民の家庭に生まれ、オランダで育ったカー・ハン・ムイの作品には、香港の都市やオランダの田園風景、鳥や蝶といったモチーフが断片的に現れることがあるという。抽象と具象、記憶と風景が幾層にも折り重なったその画面は、鑑賞者の視線をどこまでも彷徨わせ、容易には全体像をつかませない。

ヘラルボニー最高芸術責任者であり審査員の一人、黒澤浩美は、「静けさと明晰さが高い次元で共存する造形の強度」を評価し、グランプリに選出したと語る。確かにその作品には、圧倒的な密度を湛えながらも不思議な静けさがあり、見る者をゆっくりと画面の奥へ引き込んでいく力がある。

グランプリを受賞したカー・ハン・ムイ(左)。授賞式では姉とともに登壇した。「受賞はとても光栄なことですが、私は彼が描いている、それだけで幸せなんです」という姉の言葉も印象的だった。 photo: mika hashimoto

また、審査員の一人、東京藝術大学学長でアーティストの日比野克彦は、授賞式で「カー・ハン・ムイさんの作品の前で足が止まり、見惚れてしまった」と語り、作者の頭の中にある世界観を探りたいと思う時間が、絵の前での滞留時間になったと明かした。

日比野が語った「足が止まる」という感覚は、本展全体にも当てはまる。作品の前を歩いていると、思わず立ち止まりたくなる瞬間が何度も訪れる。それは作品の背景に障害があるからではなく、純粋に作品としての強度があるからだろう。

photo: jouji suzuki
photo: jouji suzuki
上3点、「HERALBONY Art Prize 2026 Presented by 東京建物|Brillia」展示風景から。 photo: jouji suzuki

会場を見渡して気づくのは、「障害者アート」という言葉では括れない表現の幅広さだ。絵画、写真、テキスタイル、アイロンビーズ、平面作品でありながら立体的な広がりを感じさせる作品まで、手法も実にさまざま。

ヘラルボニーは創業以来、「異彩を、放て。」という言葉を掲げてきた。本展を見ていると、その「異彩」とは障害の有無によって規定されるものではなく、一人ひとりの作家が持つ固有の視点や感覚そのものを指しているのだと感じられる。会場に並ぶ作品群からは、それぞれが異なる世界を映し出している。そしてその多様性こそが本展最大の魅力となっていた。

グランプリのほかにも、各審査員が選出した4つの審査員賞が並ぶ。評価の視点が一つではないことも、本アワードの特徴といえるだろう。

「HERALBONY Art Prize 2026 Presented by 東京建物|Brillia」展示風景から。手前の両壁面は、本プライズのパートナー企業による受賞作品が並ぶ。正面奥の壁面には、審査員賞を受賞した4つの作品。 photo: jouji suzuki

上の写真の左手前に写るのは、今村聖による《ぼくの食べた料理たち》。パートナー企業による「企業賞」の一つ、SMBCグループ賞を受賞した作品だ。 今村は、毎日の食事をモチーフに、まるで日記をつけるようにアイロンビーズで制作することが日課になっているという。「アイロンビーズで毎日がとっても楽しくなりました」と語り、表現活動が自身の生活を彩っていることを明かした。

SMBCグループでは選出にあたり、社員約1500名以上が投票に参加。社員一人ひとりの意志によって作品を選出したのだそう。授賞式では、代表者はこう語った。「242種類もの料理がアイロンビーズで丁寧に並べられた今村さんの作品から、日々の丁寧な営みの尊さ、温かい食事の記憶が伝わってきました。 それぞれの料理の個性と集まったときのエネルギーが、SMBCグループの掲げる“一人ひとりの個性を輝かせ、挑戦を応援する”という理念と強く共鳴した」。また、作品の魅力をさらに多くの人へ届けるため、今後はノベルティなどへのデザイン起用を大切に検討していくという。

企業賞を受賞した作品の展示風景から。 photo: jouji suzuki

企業賞からもう1点紹介したい。上の写真の右から2番目の作品がJR東日本賞を受賞した、KIYOによる《希望》。鮮やかでカラフルな色彩と、三角や丸などのモチーフで構成された絵画は、内なる生命力や未来へ向かう力強さを感じる作品だ。

KIYOは重度の知的障害と聴覚障害があるため、授賞式では、日頃から関わっている職員が本人の思いを代読した。「言葉の代わりに、絵を描くことは自分の声であり人生そのもの」と語る彼の純粋な表現は、JR東日本の「安心と感動を、未来へつなぐ」というヴィジョンに深く重なる。今後、駅のコンシェルジュが身につけるスカーフやネクタイへと形を変え、日本中を旅する人々の心にその鮮やかな希望の輪を広げていく予定だ。

授賞式に出席したアーティストたちによる記念撮影。 photo: mika hashimoto

このように授賞式では、作品に込められた視点や価値観に共感し、それを自らの言葉で語る企業の姿勢も印象的だった。アーティストの表現から学び、自らの理念との接点を見いだしていく。「HERALBONY Art Prize」は、障害のあるアーティストと社会をつなぐ場であると同時に、企業と創造性との新たな関係性を育む場にもなっているように感じられた。

近年、「インクルージョン」や「ダイバーシティ」という言葉は広く浸透した。しかし、ときにそれらは理念として語られるだけで終わってしまう。本展が興味深いのは、そうした言葉を説明するのではなく、作品そのものの力によって問い直している点にあるのではないか。鑑賞者はまず絵画や造形として作品に引きつけられ、その後に作者の背景を知る。その順序が逆転していることこそ、本展の重要な成果なのかもしれない。

会場を後にしたあとも心に残るのは、「障害のあるアーティスト」という属性ではなく、それぞれの作品が見せてくれた豊かな世界そのものだった。


会期/2026年5月30日(土)〜6月27日(土)※会期中無休
会場/
三井住友銀行東館 1階アース・ガーデン(東京都千代田区丸の内1-3-2)
開館時間/10:00~18:00
観覧料/無料

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